第九話 黒狼胎動
「今回の任務は城南市に突如として出現した《《黒いオオカミ》》の集団の殲滅です」
俺はツバをのんだ。
黒い……オオカミ……?
「Fenrirではありませんよ」
俺の妄想を、相澤さんが完全否定する。
11月上旬、二度目の任務を受け取っていた。
「続けますよ。二日前、訓練中の国連空軍の方が数匹の巨大なオオカミを発見しました。彼から報告を受けた国連軍は、合計1000人規模の部隊を派遣します」
こんなところで言葉を切ったということは。
まさか……
「全滅しました」
全滅。
九月中旬からニュースでいやというほど聞いてきた言葉だが、対面で、しかも一応の軍人の身分で聞くと重みのある言葉だった。
「1000人が全滅。しかも何もできずに。効かないんですよ、通常兵器が」
「……ラオ星人なんですね」
「ええ。個体数はかなりの速度で増え続けており、現在は推定で500匹を超えます」
「それを僕一人ですべて倒せと?」
「いえ、もう一人の隊員との共同任務です。その隊員はし——」
彼が言い切る直前、ドアの向こうから「おーい」という女の声。
女の隊員?
白神か赤城しかいない。
その中で名前か苗字が「し」から始まるのは……
「そろそろ準備できたー?」
……白神夏芽だ。
「……白神夏芽隊員です」
ソファーまで躊躇なく直進してくる。
嫌な予感……
「ほら、行くよ」
そう言うと、俺の腕をつかんで無理矢理立ち上がらせる。
「え!? ちょっ……待ってくださいッ!!」
慌てた俺の口が、部下に敬語(?)を発した。
しかし、彼女は止まらない。
夏芽はドア付近で相澤さんに「じゃ、行ってきまーす」と笑顔で言うと俺を引きずって部屋から出て行った。
「はあ……行ってらっしゃい」
本当は「健闘を祈ります」とか「お気をつけて」とかを言うべきなんだろうが、彼女の奇行に驚いて頭が回っていないのかもしれない。
ドアから出て数分後、やっと腕を解放された。
もう逃げることはできないが。
……まてよ。
コイツ、さっきノックしていなかったよな?
成人した異性の、しかも書類上の上官の部屋にノックもせずに……。
どうかしているぞ、この女。
絶対に変人上司のタイプだ。
一応部下だけど。
前方を歩いている夏芽にギリギリ気付かれないように深いため息を吐いた。
それからさらに十数分歩き続け、やっと出撃機待機ブースに到着した。
そこで、ようやく夏芽は自分の重大なミスに気付いたようだ。
「あっ、相澤さん置いてきちゃったじゃん」
「何しているんですか……」
「さあ、何をしているんだろうね」
あっけらかんと返して、自分のスマホに相澤さんの番号を打ち始める。
相澤さんは、すぐに電話に出た。
正確に言うなら、夏芽が番号を打ち終わる前に相手が電話をかけてきた。
緊迫した声。
〈大変です。一部の個体が本部の位置を把握しました。速攻で駆除をお願いします〉
※城南市…ソウル特別市の南にあるする市。ソウルを東京に置き換えると神奈川・千葉みたいな位置。




