第八話 決意
あれから、数時間後。
本部への敵襲につき、俺は特別救助された。
今私室に戻ってきたところである。
スマホを見ると10月20日。
3日もあの場所でさまよっていたことになる。
少し迷ってから相澤さんを呼んだ。
聞きたいことがあったのだ。
彼は思ったよりも早くここまで来た。
「どうでしたか」
「つかれただけです。成果と呼びそうなものはなかったですよ」
「それは残念」
相澤さんは俺の隣に座った。
互いに視線は合わせていないので、相手の表情を見ることができない。
「ただ、一つ。惹きつけられる機体があったんです」
「ほう?」
「ですが、恐ろしくボロボロでもう乗れなさそうな状態でした」
途端に、相沢さんの表情がこわばったような気がした。
俺の声も自然と低くなっている。
「それって……まさか……?」
「そのまさかですよ。おそらくは『例のアレ』です」
しばらく沈黙が続く。
相澤さんが、重々しい口調でそれを破った。
「詳しく話してくれませんか」
「もちろん。倉庫に入って長い時間が経過し、あくびが出始めていた頃です——」
「——という感じです」
例の鉄のトビラの向こうであった出来事の全容を彼に話し終える。
相澤さんは、終始気難しそうな雰囲気を醸し出しながら聞いていた。
「……わかりました」
再度の沈黙。
「……2つ目の話題に移ってもいいですか?」
答えはイエスだった。
「Fenrir-02は……どうなったんですか?」
「健在ですよ。いつでも動かせます」
回答に少し安堵しつつ、次の質問を口に出す。
「僕はこれからどうなるんですか」
「それは萩谷君が決めることですよ」
「……僕はもうあの生活に戻りたくありません。副隊長じゃなくてもいい。第一隊じゃなくても、戦闘員じゃなくたって別に構わない。雑用だってなんだって喜んでやる。僕は【H.P.O.】に居続けたいです」
「残念ながら、戦闘員でない限りここに続けるのは難しいでしょう」
「……でも、僕の適合機体は『例のアレ』なんですよ。Fenrir-02だって拒否反応を示した」
「……では、Fenrir-02を覚醒させてください。覚醒すれば機体はパイロットの命令を必ず聞きます。強くもなるのでできることも増える」
「覚醒の具体的な条件は?」
「条件は、この紙に書いてある通りです」
相澤さんは、俺に一枚の紙を渡してきた。
「【A.R.K.】覚醒について——」
———
◆【A.R.K.】覚醒について
Ⅱ 覚醒の具体的な条件
【A.R.K.】の覚醒に必要な具体的な条件は、下記の通りである。
ⅰ.機体とパイロットが一定以上の信頼関係を築いていること
ⅱ.██████████████
ⅲ.両者が覚醒を承認していること
ⅳ.機体がパイロットを一度以上拒絶していること
ⅴ.パイロットが戦場で“自我”を一定以上失っていること
———
「——なるほど」
ⅱは伏字で読めなかった。
「どうですか? 意思は固まりました?」
「さあ。わからない」
「……」
「僕は生きることへの執着がかなり薄い奴です。あの地震の時に『西東京県のとある自治体が1人の少年を残して壊滅』ってニュースありましたよね? その『1人の少年』とは僕のことです」
「!」
「別に生きたいとは思っていない。それどころか死にたいとさえ思っている。故に、人類の未来などどうでもよかった。……でも、目の前で滅びゆくのを眺めていようだなんて思ってはいません」
数瞬の間を置いて、相澤さんは「面白い」と言った。
「面白い。私は君のような人間が大好きだ。国連上層部からの命令を改めて拒否しましょう」
彼のポケットからは、無線機やら盗聴器やらが何個も出てきた。
最後に出てきたさらに物騒な黒い物体で、それらを全て破壊する。
そしてその黒い物体を拳で叩き壊した。
残骸を一つ残らずゴミ箱に投げれると、片手を差し出してくる。
俺は、その手を硬く握り返した。




