第四話 初陣
けたたましい警告音が、本部全体に鳴り響き始めた。
ほぼ同時に、職員たちが騒がしくなる。
——何が起きた?
——敵襲です。ラオ星人兵2名が仁川跡地の方から。
——本部の場所は割れているのか?
——いや、わかりません。しかしもう侵入されています。
——今出撃可能な戦闘員は?
——ほぼ全員ですが、残念ながら敵は真逆の方向から来ています。
——他に対処法は無いのか。
——……あそこで萩谷悠第一隊副隊長が接続テストを——
そこまで大人たちの緊迫した会話を適当に聞き流していたが、俺の名前が出てきたから、鼓動が一気に速くなった。
息遣いが荒くなり、頭が回らなくなる。
まさか……もう戦闘に駆り出されるのか……?
〈萩谷君、悪いがもうしばらくそこで待っていて下さい。私は一旦ここを離れます。代わりの職員を置いておくので何かあったら彼女に頼ってください。では〉
焦りの滲んだ声で話し終わると、彼のものと思われる足音が遠ざかっていった。
その後の10分間は、職員たちの慌ただしい会話と物音を適当に聞き流しながら過ごした。
そして、小走りで1つの足音がこちらに近づいてくる。
〈聞こえていますか、萩谷君〉
「はい」
〈相澤です。説明は後で。今すぐ出撃してください〉
「……え?」
〈はい。私たちが手引きしますので今すぐ出撃してください〉
「了解」
短く返答してから、相澤さんやそれ以外の職員から様々な指示が飛んでくるようになった。
今はただそれに従うのみだ。
〈敵まであと6メートルです。次の一歩を踏み出せば、あちら側は萩谷君の存在に気づくでしょう〉
脅し、緊張、警告、その他諸々がにじんだ声色で相澤さんは言う。
「……はい」
〈頑張ってください〉
「はい」
答えたあと、心の中で「嘘をつくなよ、バカめ」と自虐的につぶやいた。
そして、無人の通路を荒らしている異形の生き物たちに向かって一歩を踏み出す。
思っていたよりはるかに早く相手にこちらの存在を悟られたようだ。
凍てつくような視線と束の間の沈黙。
視界に映る相手の姿が徐々に大きくなっていく。
そのことの意味を脳が理解する前に、体が反射的に動いていた。
即座に体制を変えた相手は謎の武器を構えた。
その瞬間。
勝手に口が開いた。
黒い牙がむき出しになる。
——違う。
俺はこんな動きを命令していない。
相手が例の武器を持って突進してくる。
高くジャンプしてかわそうと思ったが、この状態でジャンプなどできるはずがなく、相手の攻撃を胴体にモロに食らう。
瞬間、腹のあたりに激痛が走る。
「うっ‼︎」
職員たちが一気に騒がしくなったようだが、耳に入ってくる情報を処理することができなかった。
早く倒したほうが良さそうだな……
いつの間にか倒れていた体を起こすと、手に赤いものが付着していた。
気づかないうちに出血または喀血をしていたらしい。
直後、再度の激痛。
さらに大きくなった血溜まりが見える。
〈…………君‼︎ 萩谷君‼︎ 聞こえていますか⁉︎〉
急に、相澤さんの声が理解できるようになっていた。
「はい」
〈相澤です。今すぐそこから離れてください。機体による拒否反応です。取り込まれます〉
「……は?」
ふと上を見ると、俺の視界に黒いオオカミが映る。
そのオオカミは今にも飛びかかってきそうだ。
1秒後、それが当たりであると証明された。




