第三話 接続テスト
コンコンコン
翌朝、本部内にあてがわれた私室でくつろいでいると、ノック音がした。
「はい?」
ドアを開けると、そこには4日前に赤紙を渡しに来た男性が立っていた。
驚きで動かなくなっている俺に、自己紹介を始める。
「4日ぶりですね、萩谷君。私はこれから萩谷君の補佐役を務める相澤裕明という者です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。今日は何をするんですか?」
一瞬の間を置き、会話は続く。
「……今日は接続テストをやってもらいます」
「…………はい?」
「あなたの適合機体と接続テストを行います。特に初回のそれは最難関訓練といっても過言ではないでしょう」
「はあ」
「では、私についてきてください」
相澤さんに案内された倉庫には、黒い“オオカミ”があった。
こわい。
最初に、そんな感想が出てきた。
近くのものをはるかに超える背丈に、真っ黒な体。
“F-02”と刻まれた白い文字。
そして、凍てつくような視線。
無生物に視線などあるわけが無いのだが、自然とそう感じてしまった。
「——これは?」
目の前に何があるのか知っているはずなのに、思わず聞いてしまう。
「Fenrir-02。あなたの適合機体です」
「…………」
「さあ、乗って」
少しためらいながらも、一歩ずつ【A.R.K.】に近づいていく。
しかし、間近に来て観察した結果、1つのことがわかった。
見当たらないのだ。
入り口が、どこにも。
俺が戸惑っていると、相澤さんが口を開く。
「覚悟が決まったら、機体に手を触れてください」
彼が何を言っているのかが全くわからなかった。
機体に手を触れる?
覚悟が決まったら?
どういうことだ??
「まあ、とりあえず触ってみてください」
まだ信頼に足る関係は築けていないが、彼に促されるまま黒い巨大兵器に手を触れる。
……。
何も……起こらない……?
助けを求めるように後ろを向くと、相澤さんは固まっていた。
まるで、目の前で信じられない現象が起こっているかのように。
次の瞬間、何とも形容しがたい感覚が俺を襲う。
これは触覚(?)に限った話ではない。視覚においてもである。
俺の真下に俺の肉体が倒れているのだ。つい数瞬前の姿で、そして今の俺は幽霊のように半透明だ。もう少し詳しく言うなら、全裸で。
相澤さんは、先ほどとは変わり、難問を目の当たりにしたような表情になっていた。
もう一度手先から前回とは少し違うものの、奇妙な感覚がする。
手先——があった場所——に目を向ける。
何が起こったかを理解する間もなく、俺の体(?)は機体に吸い込まれていき——そのまま、俺は気を失った。
……うう……ここは?
ここは……どこだ?
〈そこはFenrir-02の中です〉
相澤さんの声がそう告げる。
ん?
アイザワさん?
……そうだ、俺の補助…………俺?
俺とは……誰のことだ?
俺とは……これは……な…………ん…………だ……?
〈あなたは第一隊副隊長萩谷悠君。今はFenrir-02の接続テスト中です〉
無機質な機械音声を聞いた途端、俺は我に帰る。
「相澤さん、聞こえています?」
〈はい〉
「今のは……?」
〈ただいまのものは【A.R.K.】搭乗時の自然反応です〉
「え⁉︎」
〈【A.R.K.】は“自我”を“エゴ・クリスタライト”に変換して動力源にしています。接続時に一度大きく“自我”を消費するのでこのようなことが起きるのです〉
「なるほど……」
〈では、今回の接続テストはこれで終わりです。これから分離するので少し待っていてください。お疲れ様でし——〉
相澤さんが言い終わる直前、けたたましい警告音が本部全体に鳴り響き始めた。




