第二話 初顔合わせ
——そして現在——
「鶴飼 玲人君」
威厳のある声が、ホール全体に響き渡った。
今は、第一隊の隊員任命式の真っ最中である。
「はい」
数分後には正式に俺の上官となる男が低い声で応えた。
「萩谷 悠君」
「はい」
後ろの方がかなり騒がしい。
彼らがしゃべっている内容など聞かなくてもわかる。
まあ、全て聞こえているのだが。
「赤城 文美君」
「はい」
瞬間、話の内容が大きく変わった。
「彼女、赤城局長の娘さんらしいね」だろう。
ずっと騒ぎ続けている職員たちを無視して、次の隊員が呼ばれる。
「三条 秀貴君」
「はい」
数分後。
「若尾 彰君」
「はい」
10人目の隊員が呼ばれた。
俺を含めた10人で、幹部陣に敬礼。
直後、赤城局長の「以上をもって隊員任命式を終わります」という言葉に合わせ、式は終了した。
次は隊員との初顔合わせだ。
第二会議室を貸し切って——他に会議室を使うやつはいないが——行う予定である。
ああ……嫌だ……
だが、もう会議室の前まで来てしまった。
もう、こうなったら逃げられない。
覚悟を決めて、部屋の中に足を踏み入れる。
「失礼します」
室内には、意外にも誰もいなかった。
読書でもして待っているか……
10分後。
若尾が入ってきた。
「あ、萩谷………………副隊長」
俺の地位に納得していないことは明らかだ。
続いて、三条や夏芽も入ってくる。
前者は露骨に嫌そうな顔をし、後者はなぜかニヤニヤしていた。
隊員たちが続々と会議室に集まってくる。
文美以外は俺のことを快く思っていないようだ。
15時30分。
集合時刻を10分以上も過ぎているのに、なぜか鶴飼隊長が来ない。
15時43分。
「やあ、ごめんごめん」という声とともに隊長が現れた。
任命式の時とずいぶん違い、声にも行動にも全く威厳がない。
遅刻23分。
「ゴメン」で済むレベルじゃないでしょ……
「遅すぎですよ、隊長……」と誰かが言った。
おそらく副隊長萩谷を認めていない者の声だが、共感せずにはいられなかった。
隊長は俺の隣に座り、任命式の時の調子に戻って「さあ、始めようか」と言った。
「遅れて言うのもなんだが……よく集まってくれた」
深呼吸を挟み、言葉をつなげる。
「今日から俺たちの新しい部隊だ。隊長の鶴飼玲人。よろしく」
「……副隊長の萩谷です。言っておきますが、僕だってこの地位に納得しているわけではありません」
「赤城文美。国連の空軍にいました」
いつのまにか、1人ずつ簡潔に自己紹介をする流れになってきているらしい。
俺の分はもう終わってるけど。
次は三条の番だ。
「三条秀貴だ。海戦ならできるが、他ではあまり役に立たないと思って欲しい」
「藤井陵。戦略なら自信がある。……命令なら従うが認めてはいないぞ」
三文目が誰に対する言葉であるかなどはたかが知れたことである。
「込山兼。気をつけてくれよ。僕は自分の艦を四度も沈ませた」
「三上恒一。以上」
「北村です。氷室さんには命を救われました」
「白神夏芽。ここら辺の深海なら熟知しているわ」
「若尾彰。僕の適合機体《【A.R.K.】》は不良品らしいんだ」
彼は、主語を言わずに納得できない、と付け加えた。
「では、これからよろしく」と隊長。
数秒後、三条が口を開いた。
「やはり俺は副隊長に納得できない」
……実は俺もなんだよなあ……
再び沈黙が訪れる。
「嫌なら辞表出せば? 穴埋めはいくらでもいるよ?」と夏芽。
直後、三上が
「ならその穴埋めに副隊長をやらせればよい」
と言った。
夏芽が黙り込む。
「静かにしろ。お前たちにも年上の部下はいたはずだぞ」
この一言で黙るかと思ったが、即座に反論があった。
「それとこれでは訳が違う。悪いが、学生の命令には従いたくない」
北村だ。
隊長の静かな一喝が飛ぶ。
「いいか。ここは赤城局長の直属部隊だ。俺や彼の命令に従うことは赤城局長のそれに従うことと同じだ。もし萩谷君のことを認められないなら俺だけのに従ってればいい。……口論をしに集めたんじゃない。まだ異論があるものは退出しろ」
もう、誰もしゃべらなかった。
1分後、三条が会議室から出て行った。
続いて、北村や藤井も出て行く。
部屋には、文美、夏芽、俺、そして隊長が残った。
しばらく沈黙が続く。
4人では何も話すことがなかった。
3人とも俺の地位に反対してはいないらしいが、話しかける勇気が出なかった。
すぐに読書を始めてしまったので、3人が何をして過ごしているのかはわからない。だが、終了予定時刻まで誰も退出してくれなかったことはありがたかった。
やがて、16時。
終了予定時刻。
文美と夏芽が退出し、会議室は俺と隊長だけの空間になった。
「では、そろそろ僕も……」
本をしまって立ち上がる。
ドアノブに手をかけたその時、呼び止められた。
振り向かずに聞いてくれ、と前置きをして彼は続ける。
「俺もな。最初はそうだったんだよ。俺は萩谷君のことを応援しているよ」




