第四十九話 勝負の行方
ハリルの前に魔力で出来たブックが形成される。
『いっくぜー!』
一直線にこちらへ駆けてくるブック。
「ハリルよ、魔力化しているからぶった切っても大丈夫だよな」
「はい、全く問題ありません」
「了解した」
鎌を右側で構え、体を捻り一気に左側へ振り抜く。
『ぬあーー!』
「バズン」
鎌によって作り出された真空の刃がブックを真っ二つにしてしまった。
後方でもハリルが刃を避けていた。
「ふぅー、本当にデタラメな強さですね。今の攻撃、受けていたら私も真っ二つだったでしょうね」
「ハッハッハ、どうしたどうした、まだまだこれからだぞ」
ブックがハリルに吸収されるのを見届けた後、今度はこちらから仕掛けることにした。
「いくぞ!」
背中の羽を動かし飛翔する。
飛ぶ行為自体希少で、この武具を装備した俺と一部の獣人族くらいじゃないかな? 魔法で飛ぶ方法はまだ見つかってないし。
(異様だ、飛翔しながら戦う魔族なぞ聞いたことがない。いや、魔王様なら何でもありか。おっと、そんなことを考えている場合ではないな)
ハリルは魔力を地面に注入、爆発が起き土煙が巻き上がり視界が遮られた。
「やるなハリル」
(まともにぶつかっても勝負にならない。なら搦手で)
「となると風の魔法かな。アトモスフィアライズ」
俺は上空から魔法を唱えた。周りの大気が激しく揺れ、土煙もろとも様々なものが空へと舞い上がっていく。
「精霊魔法ヴルカンブレイズ」
大気の上昇にに合わせ、火の精霊魔法を合わせてきた。風魔法と相性のいい火の魔法、相乗効果を得て巨大な火柱が作られる。その炎が高速度で上昇、この俺を飲み込もうとしていた。
「アクアグローブ」
水魔法で水の防御膜を張ったが予測されていたようで、すぐ次の魔法をかぶせてきた。
「精霊魔法ボルトインパルス」
高速の雷魔法が俺を襲う。さらに水の魔法は雷に弱いためアクアグローブでは雷魔法を防げない。
「そうこなくてはな! フンッ」
「ズビシャッ」
「インフェルノ流奥義、業風大車輪」
雷を切り裂いた後、すぐに鎌を振り回し周りの炎を吹き飛ばす。半ば強引に切り抜けた感じだ。やはりこの男、強い。
「ハーハッハ! 面白くなってきた!」
「ならば精霊合体、『ブッカート』」
先ほどと明らかに魔力量が違うブックがあらわれる。魔力を全てブックにつぎ込んだか。
『もういっちょう!』
ブックも飛べる、なるほどこちらの有利が一つなくなるな。
『ハッハー! さっきまでとは比べ物にならないほど力を感じるぜ! 勝負だ、大将!』
ブックが口からブレスを吐く。炎、雷、とにかく色々混ざったブレスだ。俺の近くまで迫ってきたところでこれを縦に一刀両断、切り裂いたブレスは俺の横を通り後方へと流れていった。
「力も魔力も上がっているな」
「私の魔力、他精霊の魔力をブックに渡しました」
「精霊魔法とは面白いものだ。ハリルが特別ってのもあるようだが」
「7属性同時は歴史書の中にも載ってませんね」
『オラオラ! おしゃべりしている暇はあるのかっての!』
接近しての噛みつき攻撃、と見せかけて大きな咆哮。ひるませようってとこか。
だが、常日頃から悲鳴やら叫び声を聞いている俺には余り効果がないようだ。バッサリとブックを切り捨てる。
『ぐふっ! なんてな!』
真っ二つにしたがすぐにくっつく。魔力で出来ているブックにダメージを与えられていない。
しかしだ。
『あ! ずっこい!』
ブックをすり抜けハリルの前に飛び降り彼に鎌の先端を突きつける。
「……参りました」
『まったく! 急に冷静になるんじゃねえよ』
「懐が空いていたら飛び込むさ」
鎌をハリルから離し、肩に乗せた。
「さすが魔王様」
「ところでご相談が」
「なんだ?」
「もう一戦お願いします」
ニヤリ。彼もまた魔族だな。
「いいだろう。そうだ、今度はこの薬を使ってみてくれ」
それから3日後。
「魔王様、今度こそ降参です」
「そうか、わかった」
あたりを見渡す。大きなクレーターがいくつか作られていたり、遠くの岩山が何個か消し飛んでいたり。少しやりすぎたかな。
「こんなに楽しく戦えたのは始めてです。魔王様、ありがとうございました」
「礼には及ばない」
少しこそばゆいものを覚える。
さて、戦いは終わったが彼は今後どうするのだろう。気になったので聞いてみた。
「この後は魔王になるのか?」
「いえ、田舎貴族のままでいようかと。正直、政治は好きじゃありません」
「それで良いんじゃないかな。強いから魔王にならないといけないって法律はない」
「はっは、そうですね」
ブックは契約を破棄し元の精霊に戻る。
『問題なさそうだな』
「さて、俺は帰るよ」
「お付き合いいただきありがとうございました」
丁寧なお辞儀をするハリル。
お腹を鳴らしながら俺はボーマン邸へと帰った。




