第五十話 料理対決
「グルルゥーー」
「いやーこの時期はお腹がへるわ」
訓練場で、イリスがお腹をすかせていた。
夏の気だるさがなくなり過ごしやすくなってきた最近は、確かにお腹が空きやすい季節かもしれない。
「僕もお腹が空いたな~」
「それじゃあ今日はここまでにして帰りましょう」
ルーナが二人をなだめる。お母さんか。
ボーマン邸で食事。
「おかわりー!」
「こっちも!」
「カレンの料理は美味しいわ」
「はっはっは、華やかでいいねぇ」
隣で食べていたボーマンは俺の肩に手を回し、少々興奮気味に眼を血走らせながら小声で話しかけてきた。
(ハァ、ハァ、人ん家の娘の料理を食べながら複数人の女に手を出すなんてやるじゃねえか。見直したぜ、レイ)
なんだか非常に体裁が悪い話だ。
(俺も昔は――)
「お父さん」
「はいはいなんでもありませんよ」
姿勢をなおして食事を再開するボーマン。
「いつも悪いわね、カレン。そうだ、今度私も料理をしようと思うのだけどどうかな? パーティーみたいな感じで」
「いいですよ」
「そうね、どうせならテーマを決めて料理を作ってみない?」
「テーマ?」
「例えば麺料理とか」
「面白そうですね。そのまま麺でいいですよ、やってみましょうか」
「フフ、決まりね」
ムムム、これは!
二人の料理を、しかも俺が好きな麺料理を味わえるとは。こいつは今から楽しみだ。
ルーナとカレンの視線がぶつかり稲妻がほとばしる。二人共凄まじい気迫だ。
パーティの日、当日。
二人同時に調理したいということで、場所は宿屋の女将さんの弟子が経営している飲食店で行われることになった。
「いやー楽しみだな」
「アンタ、ある意味大物だね」
女将さんが俺に話しかけてきた。周りには他にも数人居る。
「それではお料理始めますね」
二人共料理を作り始めた。このお店は客席から厨房が見える。
軽快に食材を切り刻む音、調味料かな? 鍋に入れた時にこちらにも届く食欲をそそられる匂い、いやー見ているだけで楽しい。
しばらくして二人の料理が出来上がる。
「おまたせしました皆さん。それでは私の料理から」
ルーナが料理を運んできた。
「ほぉ、これは鮮やかだね、お嬢ちゃん」
「ありがとうございます」
真ん中に輝く麺、周りには見事な細工の付け合わせがきれいに飾られている。
「光ってるよ!?」
「その麺にこっちのソースをかけて食べてね」
ソースは非常に食欲をそそる香りをを放っている。この香りだけで御飯が数杯いけそうだ。いや、そうじゃなくて、とりあえず麺にかけて食べてみよう。
「こ、これは!?」
口にいれた瞬間驚愕の味に体が震える。複雑に絡み合った味わい、得も言われぬ風味、とにかく胃袋が『次』を要求してくる。
「うまー!」
「ずるずるずずーー!」
周りからも大好評。それにしてもこの料理、アリスの料理だけじゃなく魔族の料理も色々と取り入れているな。この細工は、王宮で食事をした時に出された料理にもしてあった。魔族の宮廷料理を覚えたか。
「ウフフ、ありがとう。フロイアがいい素材を持ってきてくれたから想像以上に美味しい料理ができたわ」
「ズボボー!」
そうか、更に獣人族の素材まで。3界を一つに、ワールドワイドな彼女らしい料理と言えるか。
それにしてもうますぎる。今まで食べてきた料理の中で一番美味しいかもしれない。
「次は私の料理ね」
今度はカレンが料理を運んでくる。透明のスープの中に麺が沈んでいる。これまた食欲をかき立てる香りを放っていた。
「おいしー!」
「ズルビッシューー!」
この料理も間違いなくうまい。味は同レベル、もしくはカレンがほんの少し上か。しかし弱点としては見た目が地味なところ。ルーナの料理は麺が光り、細工も見事。ここは大きく差が開いているように見える。
そこに気づいたのか、宿屋の女将さんが厳しい表情をしていた。
「ズルズル、プチン」
これはまさか、カレンが。
彼女の敗北が頭をよぎった時、何気なく食いちぎった麺の断面を見て転生しそうなほど驚いた。これは女将すら気づいていないようだな。
「どうだった? お料理」
ルーナが俺に尋ねてくる。
「いやー二人共凄いね。どっちも美味しかったよ」
そう、どちらにせよ勝ち負けではない。二人に贈る言葉は当然「おいしかったよ」。
「さ、みんなで食べましょう」
カレンが他の料理を持ってくる。続いてルーナも。
食事会が終わり、俺達はボーマン邸へと帰った。お風呂に入り少々談笑した後眠くなったので離れへ向かうことに。
「今日は楽しかった、おやすみ」
布団に入って料理のことを思い出していた。
(あの細い麺の一本一本に俺の顔が練り込んであった。切っても切っても俺の顔。あれは一体どんな技術を)
技術を超えた何かを目の当たりにし、俺はカレンの料理に白旗を揚げるくらいしか思いつかない状態だった。




