第二十八話 人間族の少女
ハリルから連絡が入り俺は彼の領地へ向かった。到着後、客間にとおされる。
「人間族の剣士がここに流れ着いたと手紙に書いてあったが」
「はい、私の領地にあるカザイの街にて行き倒れているところを保護しました。どうやら飲み食いをしておらずそれで衰弱したものかと」
「それなら体力回復後帰ってもらい終わりかな」
「そう簡単にいかない事情がありまして」
「ほう?」
「どうやら最近起きたマルサム村襲撃事件の実行犯の一人のようでして」
つい最近死者3人、村は焼き払われるという事件が起きた。
「魔族の法で裁くか?」
「そこまでするのも」
「煮え切らない話だな」
「順を追って説明しますと、焼き討ちに反対し同行していた者達を剣で追い返したが先行した者たちがすでに村に火を放っていたとか。当然自分は誰も殺害していない、との話です」
「なるほど。そうなると人間族領には戻れないな。魔族の領地をさまよっていたと」
「さらにショックで剣を握れなくなったとか」
「事情はわかった。それにしても彼女の肩を持つな、ハリルよ」
「彼女が先行して火を放った部隊を追い返したそうです。住人たちがそれを見ていました」
「道理で」
「それからこの件を魔王様にお願いしたいのですが」
「俺に?」
「彼女は現魔王に直接処罰してもらいたいとのことですが、それは色々と問題がありまして。ですから『格』とういところでは問題のない魔王様にお願いしようかと」
「うーん。まあ会って話をしてみようか」
「申し訳ありませんがもう一つ。彼女をこのまま留めておくわけにもいかないのでどこかいい場所があればお教え下さい」
「考えておこう」
「よろしくおねがいします」
「それでは私は焼き討ち事件を調べてきますのでこれにて」
ハリルと入れ替わりで彼の部下が部屋に入ってきた。
「ま、魔王様、こちらでございます」
ハリルの部下に案内され個室にとおされる。
「アリスさん、こちらはあの恐怖の魔王様です」
「は、はい! アリス・ケイルです。まさか本当に」
女の子で歳はイリスと同じくらい? かな、若いな。
「その昔恐怖の魔王と呼ばれていたものだ、よろしく」
「さて、処罰を受けたいとの話だったな」
「はい、是非私に厳罰を」
「話を聞く限り君は騙されたようなものだろう。むしろその剣で村を救ってくれたのだから謝礼をしたいくらいだ」
「いえ、私にはそんな資格はありません、それに」
「もう剣は握れなくなりました」
「聞いてはいるがどのような症状だ」
「剣を握ると村で起こったこと、村が業火に包まれていた光景が頭の中に浮かび体が剣を拒絶して落としてしまいます」
ふむ、精神的なものだな。
それにしても罪の意識が強いのだろう。ずっと自分を卑下している。
まてよ、それなら罰してあげたほうが彼女が楽になるか? 優しく接するだけでは物事が解決しないこともある。ハッタリでも彼女の心が満足する行動を起こしてあげたほうがいいときもあるだろう。
魔力開放なら基本的に気絶するだけ。それでもすごい衝撃を受けると聞いた。やってみるか。
「わかった、君に罰を与えよう」
「お願いします」
「これから準備を行う。少し待っていてくれ」
ハリルの部下に魔力開放をしても大丈夫な場所を用意してもらい、そこへ移動した。
「一つ聞くが、魔獣王ブッカートは知っているか?」
「はい」
「君なら倒せるか?」
「可能です」
「わかった」
本格的な魔族領侵攻だったのかもしれないな。まあ、そちらはハリルに任せるか。
こちらの問題としては一気に第三圏まで開放しても彼女が気絶しない可能性があるということ。となると第四圏かな。
「自分の罪を悔い改めよ、ではいくぞ」
「はい」
第四圏まで一気に開放、彼女は倒れた。
「さて、運んでやるか」
ハリル邸まで移動、その後彼の部下が彼女を部屋へと運んでいった。
次は住まい探しか。人間族領、魔族領にはいられない、とすると答えは一つ、領土外。前に行ったオアシスの場所みたいなところだな。あそこは不便すぎるから流石に却下だが。
「少し出かけてくる。今日中には帰ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
ブックにも知らせ、二手に分かれて探そうと思っていた。
『ああ、ソレならいい場所があるぜ』
『大狩猟祭の森、奥の方にポツポツと平地があるのよ』
「へぇ~、早速行ってみよう」
森の奥地へ向かう。そびえ立つ山と森の間に小さな平地があり、そこには湧き水もあるようだった。
『ここなんかよさそうだな。この場所なら大狩猟祭のときの魔物も関係ないし』
「いいね、ここで決まりだ」
ハリルの邸に戻りこの場所を伝える。
「良い場所があるんですね」
「アリスはどうだ?」
「随分前に目を覚ましております。いつでもお会いできます」
「そうか、ひと目会っておこう」
ほどなくしてアリスが部屋に入ってきた。
「先程は私を罰していただきありがとうございました。それと」
「短時間ですが剣に触れていられるようになりました」
「そうか、よかったじゃないか。いつか元の剣士になれる日が来るかもな」
「はい」
そう笑顔で答えた彼女の瞳は赤く腫れていた。
「では元気でな」
「魔王様もお元気で」
ハリルの部下にも挨拶をし、ハリル邸を後にした。




