第二十九話 夏祭り
「さっさと行くわよー!」
「元気ねお姉ちゃん」
「イリスはお祭りが好きなんだな」
「当たり前でしょ!」
今日は毎年行われるお祭り、魔都生誕祭の日。魔王がここで生活を始めた日が記念日となりいつの間にかお祭りが行われるようになった。
俺が魔王をしていた頃からある祭りではあるが、当時は簡単な行事で終わりだったな。そもそも皆元気がなくお祭りどころじゃなかった。
「ん~、アレうまそー!」
「おじちゃん一本ちょうだい!」
「お姉ちゃん沢山食べるわねぇ」
常に両手が塞がるほどの食べ歩き。
「ムッフッフ、お祭りを満喫しないでどーするの!」
全力でお祭りを楽しもうとするイリスの姿勢はある意味感心する。そもそもソレが目的のお祭りだからな。
「お、あっちの出店は一風変わった商品が多いわね」
普通の出店が圧倒的に多いがなかには魔王にゆかりがある、魔王っぽいものを売る店もいくつかあった。
「さあさあ、恐怖の魔王様のお守りだよ! 良いものも悪いものもどんなものでも退ける効果があるよ!」
良いものを退けちゃったらダメなんじゃないかな?
「こちらは呪いのペアリングだよ! この指輪をはめたカップルは必ず別れるよ!」
「こいつは呪いの黒板だ! この黒板に気に入らないやつの名前を書くとなんと!」
三人共真顔で魔王関係の店を通り過ぎる。
「あれおいしそう!」
先程の雰囲気に戻る。
そのままブラブラと歩き、食べ物を買って公園で昼食にした。
「それにしてもすごい規模の祭りだね。街のいたるところに出店がある」
「これでもまだ前夜祭よ? 明日から本番なんだから」
「ほえ~」
「年々規模が大きくなってるね。平和が長く続いたからじゃないかな」
「昔はお祭り一日だけだったり戦争でナシのときもあったそうよ。 いまじゃ3日あるけど」
「おー! イリスじゃないか!」
フロイアが手を振りながらこちらへ向かってくる。今日は他獣人族さん達と一緒のようだ。ガードの方達かな?
「すごくたのしいね! 僕の国でもお祭りはあるけどここまで派手じゃないな~」
「アッハッハ、楽しんでるようで何より!」
彼女もまた両手に食べ物。
「んじゃまたねー」
その後は出店を見て回り、夕方くらいに家に帰る。
そして次の日。
「うっし! お祭り本番よ!」
外に出ると昨日よりも活気に、熱気に満ちていた。
「街で一番大きくて長い街道のところで催し物があるわ」
「魔王ころがし! 一人で大木を引っ張って一番早くゴールした人が優勝よ! ちなみに魔力の使用は禁止ね」
見ると力自慢が顔を真赤にして大木を引っ張っている。応援する人、叫ぶ人、野次を飛ばす人。
「単純な競技だけどこういうのがいいのよね」
場所をとって観戦。お昼になりカレンお手製の弁当を広げ、食べながら観戦。なんだかこう自然と笑みがこぼれてくる。イリスが言いたいことがわかる気がする。
競技は獣人族の男が優勝。獣人族の勇者に割れんばかりの歓声が巻き起こった。
一夜明けお祭り最終日。
「最終日は恐怖のお面大会ね」
恐怖の魔王のお面を取り付けた人に対し片膝を立てて頭を低くする。
「王族も一緒に歩くから実質お面は意味ないんだけどね、場所も決まってるし」
「ハッハッハー! 僕は恐怖の魔王だぞ!」
フロイアがウチに入り込んできた。
「王女様、いけません。ルール違反です!」
「えー、そうなの?」
追いかけてきた部下たちがそのままフロイアを連れ帰っていく。
「やんちゃね……」
午前中はお面と王族の儀式を見て、午後からは街に繰り出し出店を回る。
「大食いバトルだって! 行ってみよう!」
「参加者受付中でーす」
イリスが参加し結果2位。
「いやーもう食べられないわ」
「一位の人は朝から食べてないとか言ってたけど。お姉ちゃんはさっきお昼ご飯たくさん食べて二位だよね」
「こんなものもらったよ、お酒ね。後でお父さんにあげるわ」
その後も街を散策し、日が沈んだくらいで家に戻る。
「夏休みも残り三分の一か~。あっという間にすぎちゃったわね」
「ちょっと長すぎるくらいな気もするけど」
「そーお? もっと長くていいな~」
「ドン!」
外から爆発音が聞こえた。
「そろそろ始まったかな」
三人で庭に出て、先ほどと同じ爆発音が聞こえそちらを見る。空中に光の花が咲いていた。
お祭りの締めは魔法華。特殊な魔法を施した物質を打ち上げ、爆発させるときれいな華のような光の粒が空中に広がっていく。
「キレイね。祭りの締めはやっぱりこれじゃないと」
俺の時代にはなかった技術だ。
「あー、これで学生時代も後二年かって気がするわね。いや後二年あるのか?」
「お姉ちゃん、去年もそんなこと言ってなかった?」
「うっ、思い出したわ。去年がつい昨日のような気がする。時間がすぎるのが早いわ、もっともっと学生したい!」
「お姉ちゃんたら……」
二人のやり取りを見て思わず吹き出した。つられて二人も笑いだした。




