第二十七話 もう一つの切り札
次の日、朱雀邸でちょっとした騒ぎになり、その日のうちに四獣人族達は緊急会議を開くことになった。当然俺はそこへ潜入する。
「青龍さんはまだ来ないんですか! 大事な話があるのに!」
「落ち着け、朱雀の。そんなに時間は経っとらんじゃろ」
「コンコン」
扉を叩く音がした。
「はいれ」
「ハッ、失礼します。青龍様は火急の用事により会議への参加は欠席するとのとことです」
「これ以上の事態があるわけ無いでしょう!」
「こやつに言ってもしかたあるまい。下がっていいぞ」
「失礼しました」
「まったくあの人は一体何を考えて」
「まあいい始めるかの。それで、何が起こったんじゃ?」
「これを見て下さい」
俺が昨日朱雀邸建屋、精霊が居た場所に置いた手紙だな。
『コイツは頂いた 恐怖の魔王より』
「まさか、恐怖の魔王!?」
「マクスウェル、その子供が居なくなり、そのかわりにこの手紙が」
「マクスウェルが居なくなっじゃと! それは大事じゃろ、何故もっと早く言わなかった!」
「さっきからそう言っているでしょ!」
「これでは計画どころではないではないか。マクスウェルを使って麒麟族にも裏から圧力を買えておるというに」
「それに『コイツは頂いた』ですよ、魔王は彼らを食したと考えていいでしょう」
「なんじゃと! それでは伝説通りの……」
「ええ、伝説とは普通尾ひれがついているもの、話を盛りに盛っているものですが、魔王は違うようです」
獣人族の間では俺はどんな伝説を作ってたんだろう。
「どうしましょう?」
「どうするもこうするもないわい。こうなったら帰ってすぐ雲隠れじゃわい」
「それしかあるまい」
「青龍さんはどうします?」
「ほっとけほっとけ」
「いつも会議ほっぽりだしてどこかへ出かけたりしていたからの、自業自得じゃ」
「それもそうですね」
仲間意識のかけらもなしか。そもそも彼らなら朱雀のように裏切る可能性もあったか。
さて、このまま帰られてしまっては困る。そろそろ始めるか。
『逃げられると思ったか? 獣人達よ』
「こ、この声はどこから?」
『聞いていたぞ。この国、魔族領のみならず俺に喧嘩をふっかけようとしていたのを』
「それは言葉のアヤ、我々を大きく見せるだけのただの飾り言葉でございます!」
『ごまかしなど俺に通用しない』
「そ、そんなバァーーーー!!」
魔力を一気に開放、獣人達は失神した。
「これで片付いた。後はハリルに連絡して終わりだな」
時は少々さかのぼって緊急会議の日、青龍邸早朝の出来事。
「ククク、会議だと? そんな悠長なことをしていられるか」
「俺は地獄耳なんだ、朱雀のところで何が起きたのかすでに把握済み。ならば俺の子供達と一緒に世界の果てにでも逃げるか」
「青龍族秘伝、魔獣香で強力無比な魔獣を10体確保している。ウックック、本当の切り札というものは誰にも言わぬものさ。活躍する機会を失ってしまったがな」
「それにしても地下に入ったがいつもより静かだな」
『ボリッ、バリッ』
「ん? 変な音が。いやそんなことよりこれは一体……」
「魔獣達が一匹も居ない、どうなっている」
「まさかもうこちらへ――」
『察しが良いな、青龍よ』
「恐怖の魔王!」
『おう! うまかったぜ!』
「魔獣王ブッカートまで、う、うまかったって?」
『お前の魔獣いい味だったぜ!』
「そ、そんな、俺の切り札が……」
『悪だくみなどそんなもの、うまくいかぬものよ。それではな』
「ま、まってクベェーー!!」
魔力を開放、青龍失神。
一週間後、ハリル邸にて。
「それでは、精霊たちを預けてしまっていいんだな?」
「はい、むしろこのままいただこうと思っていました。今まで反抗的だったこの精霊が急に従順になりましたからね。当然といえば当然ですが」
「それからマクスウェルの嫁さんの名はランナだそうです」
「大狩猟祭の精霊?」
「はい」
「四獣側が王位請求を取り下げましたね。さらに各四獣リーダー達は旅に出たとか」
「うむ」
(怖くて何をしたのか聞けないな……)
「ん? どうした」
「いえ、なんでもありません」
話を終え、ボーマン邸へ帰る。
「レイ、訓練場へ行こう」
「いくよ」
着替えて訓練場へ向かう。
「フロイア元気が戻ってよかったねぇ」
剣を交えながら語りかけてくるイリス。
「一旦帰国なんて話もあったみたいだな」
「そそ、だけど蓋を開けてみたらスピード解決。四獣側は何も言わないしリーダー達は行方不明だし。恐怖の魔王が関わったんじゃないかってもっぱらの噂よ」
「どうなんだろうな」
俺が動いたところはハリルに各関係機関の口封じをお願いした。と言ってもそう難しくなかったようで「恐怖の魔王が関わっているためこの件には口出し無用」と今回の関係者に触れ回り即受け入れられた。
誰も魔王とは関わり合いたくないってことだな。ちょっとさみしい。
「よっと、一本! 考え事しすぎじゃなーい?」
「話しながら剣を振ってきたイリスに言われたくないかな」
「ふっふー、器用って言ってよね」
思っていたよりあっさり終わった。
俺は頭の中でこれなら今の世代に任せたほうが良かったかも、とはいえ喧嘩売られたんだから仕方ないよね、と自問自答を繰り返していた。




