第二十六話 暗躍する者共
「お父さん、数種族の獣人族が麒麟族に対して王位の受け渡し要求をしたって噂を聞いたんだけどどうなの?」
「その噂の通り強硬派が王位の請求をしたのは確かだ」
「街中じゃその噂で持ちきりだったわ」
「要求のタイムリミットまで時間があるのが救いだな。約一ヶ月と長い期間だ」
「請求側も戦争は望んでないってことかしら? まあ、それやると支持が受けられないものね」
「さすがにそのあたりは考えてるってことだ」
獣人族は多種族の集合体、考え方もそれぞれ違う。ざっくりとした情報では強硬派と穏健派はだいたい半分半分ではないかと言われている。歴史的に見てもこの2つの派閥が王位を取り合ってきたかたちだ。そして強硬派が王位についた場合、高確率で魔族、人族と戦争を起こすと歴史書が証明していた。
面倒なことになってきた。このままいくと戦争もある。強硬派はそれを望んでいるのかもしれないが。
俺はどこまで行動すべきか。魔族に戦争をふっかけてきたら一魔族として当然動くが、獣人族のいざこざに俺が顔をだすのは果たして正解だろうか? 今は魔族の王でもないのに。
「難しい顔してるわねレイ。この状態じゃ仕方ないけど」
「ちょっと散歩してくるよ」
「私も行くわ」
夜の街、街灯が灯され明かりがついてはいるがなんとなく暗い印象を受ける。
「街が暗く沈んでいるように感じちゃうよねぇ。私の心がそうさせてるんだと思うけど」
大通りに沿って散策、ここは飲み屋街か。変装姿でこの辺を深夜に通ったりすると賑やかな笑い声が聞こえてきたものだが、今日は静かだな。
「こんな時恐怖の魔王様ならなんとかしてくれるのかな」
「古文によると獣人族が魔族に戦争を仕掛けた時、魔王が獣人族側を戦意喪失に追い込んだようだね」
「一人で」
「やっぱりデタラメな強さね……」
あれは、魔王に就任して10年経ったころだったかな。まだ仲良くなろうとする気概があったんだけど、頑張ったのが裏目に出た感じだったな。一人でやらずに皆と共に動きべきだったか。
「フロイア、今日訓練場に来てたけど元気なかったね」
「そうだな」
うーん。ここで考えていても仕方がないか。実際乗り込んで調査しよう。状況次第でどう動くか決めよう。イリス達には5日ほど用事で出かけると伝え獣人族領に侵入。途中オルテガ山を見てきたがすでに交通は始まっており、完全に整備できていないとはいえ馬車がすれ違うくらいの道はできていた。
ハリスはそっちの才能もありそうだな。
獣人族領の首都ピエマスに到着。ウチの首都ほどではないがそこそこの規模はある。石造りで素朴な建物が多い印象だ。王の宮殿は豪華な装飾が施してあったな。
簡易につくられた店にギルドと書かれた看板があった。隣では大きな建物を建造中、これが新しいギルドの建物になるのかもな。
調査は順調に進む。獣人との交友で、魔族が獣人族領に入っていたからだ。昔だったら仮面をつけた魔族と話をしてくれたかどうか。今でも警戒されている気はするけど。
勢力図はだいたい昔からある本のとおり、麒麟族対四獣族の様相であることがわかった。明日彼らの会議が行われることを突き止め、そこへ潜入することにした。
そして合同会議の日。
「ふー、暑い暑い。のぉ、玄武の」
「はっはっは、白虎よ、お主は暑いのは嫌いじゃったな」
「お二方、私語は慎んで下さい。会議中ですよ」
「朱雀は硬いのぉ」
「がーっはっは。まあどっちでもええわ。会議と言っても麒麟側が動かなければ話しようがないしな」
「確かにそうですけど。まったく、青龍さん含めていい加減な人達ばかりなんですよね」
「しかし麒麟族もバカなことをしたものだのぉ。魔族と交流などとふざけたことを決めおって」
「まったくじゃ。腑抜けじゃのー」
「そこに関しては賛成します」
「それもこれも恐怖の魔王のおかげだ。どの国もまともに動けなくなった。おかげで平和主義者っちゅう中途半端な奴らが台頭しちまったんだな」
「クックック、それに関してはもはや解決済みじゃないか。我々は切り札を手に入れた」
「その切り札ちゃんはどうしておる?」
「ええ、元気ですよ、困るほどに」
「ウックック、もはや恐怖の魔王などおそるるに足らず」
「今こそ獣人族を牛耳り、魔族を滅ぼす時じゃ」
魔族と戦争をやるき気マンマンだな。それどころか俺を倒そうとしているのか。ってことは、俺も動いちゃっていいな。
喧嘩を売られたんだ、買うしかない、仕方がない。
それよりも切り札ってのが気になるな。朱雀ってやつが管理しているような話だった。よし、そのへんも調べてみるか。会議が終わり解散、各自動き出し俺は『朱雀』の後をつける。
大きな門の前に到着。奥には広い敷地が見える。ここが朱雀邸かな? 門から中に入り大きな建物へ向かっていく朱雀。到着後馬車から降りるとその建物の中へ入っていった。
「ふっふっふ、元気かい? マクスウェル。君には大事なお仕事があるんだ。もう少し辛抱していてくれ」
(こいつはひどい)
巨体を無理やり剣や鎖で繋ぎ止めてある。体は傷だらけだ。それにしてもこの魔獣? どこかで見たことあるな。ああ、大狩猟祭のときの精霊だ、似ている。となるとなぜここに封じられているのだろうか、朱雀というやつがかなり強いのか。
「クク、君は強い、私よりもね。もしかしたら世界最強なんじゃないかな? しかしおかしなことは考えるなよ。お前の子供がどうなっても知らんぞ」
その言葉を聞き、小さく唸る精霊。あのときの精霊のつがい? その子供が人質だろうか。
「頼んだぞ、我々の魔獣よ。いや、私の魔獣よ。魔族、人間族と倒した後に私が獣人族の長となるために君が必要なのだからな。アーッハッハッハ!」
(コイツ、裏切るつもりか。どうしようもないヤツだ)
建物から出ていく朱雀。
その後いくつかの建屋を調べると簡単に精霊の子供が見つかった。たしかに普通は精霊の協力者がいるとは考えないか。深夜子供を助け出し精霊のもとへいく。
(静かにしていてくれよ、今助けてやるからな)
剣と鎖から精霊を解き放つ。そして脱出出来るか慎重にあたりを見渡す。警備はザル、簡単に精霊親子を運び出せそうだ。まあ、助けが来るとは思わないか。
置き手紙を置いてその場を離脱。朱雀邸からある程度の距離をとったら奈落戦器で回復。このまま逃げ切れそうだ。
魔族領に帰り、ハリスの元へ。やはりつがいで小さな精霊の子はその二匹の子供だった。
「そうか、大狩猟祭で暴れたのはもしかして……」
「面倒事を持ち込んですまんな。後を頼む」
「いえいえ、精霊たちも喜ぶことでしょう。それよりもまた獣人族領へ?」
「ああ、やり残した仕事があるからな」
「そ、そうですか。わかりました」
俺は再び獣人族領へと向かった。




