第十六話 カレンの料理
一日の授業が終わりギルドで簡単な依頼を受けそれをこなした後家に帰った。
「おかえりなさい」
「ねえレイさん、明日買い出しに付き合ってもらえない?」
「いいとも、付き合おう」
「ありがとう。いつもは姉さんとお父さんに頼むんだけど二人共用事でね、助かったよ」
「ハッハッハ。そのくらいお安いご用さ。そもそも日頃からお世話になっているんだからもっと色々押し付けるくらいでいいよ」
「フフ、考えとくね」
翌日、朝食を済ませ居間で一服しているとイリスとボーマンが忙しそうに出かける準備をしていた。
「いってきまーす」
二人を見送って次は俺達かな。離れに戻り着替えをして出かける準備をする。
「私達も出かけよう」
一週間分の食べ物の買い出し、当然日持ちする物を買いに行く。
「まずはお肉屋さんへ」
干し肉は大狩猟祭で大量に確保できたから今回買わなくいい。明日使う生肉を買うくらいか。
「次は八百屋さん」
次々と選んでいくカレン。もう来週の献立も決めて買っているに違いない。そう考えると頭が下がる。
「つぎつぎー、日用雑貨を買いに行こう」
油等日頃からよく使う消耗品だな。
「荷物を置きに帰ろーか。いつもならこれで終わりだけど色々欲しいものがあるから、今日は一日付き合ってね」
なかなかに重い。そうだよな四人分だからな。いつもここまでさせてたと考えると気持ちとしては頭が地面に着きそうだ。
荷物を家に置き少し休憩した。
「お昼が近いね。私が作る?」
これ以上なにかしてもらうと俺の頭が地面に埋まりそうだ。
「俺が作ろうか?」
「へぇ、レイさんが」
「簡単な料理なら田舎にいた頃よく作っていたよ」
「食べてみたいな、それではお願いしまーす!」
簡単な炒め物にスープとパンをつけて完成。
「ん~、美味しいよレイさん。ねえさ……いやなんでもない」
食後に休憩し午後の一時からまた街へ繰り出す。
「戦闘用のローブを新調しようかと、それと道具屋さんに彫金屋さんに~それからそれから――」
話しながら防具屋に到着。ローブをじっくり選ぶカレン。
「こっちかな、いやこっちか」
性能はほぼ同じのローブ、後はデザインで決めるらしい。気に入ったものをみつけ店員さんを呼び寸法チェック、直しには時間がかかるからその間他のお店へ。
「毒消しの魔法は魔力消費が多いから基本的に毒消し薬を使ったほうが良いんだよね。教科書にも載ってたけど」
道具屋で買い物を終え、彫金屋へ。
「いらっしゃいカレン、頼まれていた包丁完成したよ」
「遂に出来たんですね!」
店長が店の奥に入りほどなくして箱を持って戻ってきた。テーブルの上に置きフタを開けるとそこにはシンプルだが美しい彫金を施した包丁が入っていた。
「これは見事なものですね」
「日頃つかっているからか包丁には思い入れがあったの。そろそろ買い替え時の時、知り合いとの会話に出てきてね、良い包丁を使ってみてはって言われて、あーそれはいいかもってことで奮発してコレを頼んだんだ」
んー、本当に綺麗な包丁だ。彫金屋さんて凄いんだね。っと、他に売っているものも凄くキレイだな。あっ、そうだ。
周りを見渡し俺でも買えるアクセサリーを見つけた。
「日頃からお世話になっているからアクセサリーをプレゼントしようと思うんだけど、どうかな?」
「あー欲しい! 買ってもらおうかな」
「ほらこの辺りなら何とか手が届きそうなんだ」
「え、えぇーー!」
驚きの表情で固まるカレン。ん? どうしたんだろう。見かねた店長さんが俺の近くへ素早く寄り、耳打ちをする。
(そこは結婚指輪のグループなんだ、ファッション指輪なら向こうのグループにするといい)
あ~、ちょっとやっちゃったか。結婚指輪ってしっかり書いてあるじゃないか。ま、まあここは冷静にゴリ押しで。
「あ、ゴメンこっちで」
「う、うん」
シンプルな指輪を選びそれを俺が買いプレゼントした。
「いつもありがとう」
「ありがとう大事にする……」
防具屋でローブを受け取り家に帰る。
「お父さん達の帰りは夜だから外食にしようか。それと――」
今日の夕飯はカレンが俺を連れていきたいところがあるらしく、そこで食べることになった。
まだ時間があるから街を散策。日が落ち夕日が街中を染め始めた頃を見計らって目的地へ向かった。
「そこは宿屋さんなんだ」
宿屋について驚愕、行列ができていた。
「ふふ、ここは美味しすぎて行列ができるお店だよ」
少しずつ進み席に座れるところまできた。店内は食欲をそそる香りで満たされている。カレンのオススメを注文して食事が運ばれてくるのを待つ。
まあ、それでもどうだろう。カレンと同等ぐらいの料理だろうか。正直カレンはお店を出してもいいと思うほどだからな。ふふふ、俺はそれを毎日食べてるからね、舌が肥えちゃってるんじゃないかな? カレンには悪いけどこの俺を唸らすのは難しいんじゃないかな?
しばらくして料理が運ばれてきた。きれいな焼き目がつき一口サイズにカットされている肉を口の中に放り込む。
「うまい!!」
バカな、カレン以上の料理だと!? 信じられないが実際今食している。震えそうな手を精神力で必死に抑え、食事を続ける俺、マジうまい!!
「どう? おいしいでしょ。宿屋だけど街一番の料理屋さんじゃないかな」
確かに、今まで食べてきたどんなものよりうまい、魔王時代よりも。まあその時代は今より食文化が進んでなかったけどね。
「ところでほら、なにか気づくことがない?」
気づくこと、そういえばこの料理似ている? カレンの料理に似ている気がする。
「そうなんだ、ここのおかみさんに料理を教えてもらったんだ」
なるほど。こちらが元の料理というわけか。
「お母さんが死んじゃった後毎日ここで食べててね。それでいつの間にか仲良くなって料理を教えてもらったんだ」
子供の頃に母親が亡くなったって言ってたな。それでこことご縁が出来たわけか。
「いらっしゃいカレン、久しぶりじゃないか」
「おばさん! お久しぶりです」
仲良く話をする二人。
「おばさん、こちらが今離れに住んでいるレイさんです」
「レイです、よろしくおねがいします」
「こんばんは、宿屋の女将タピティだ。よろしく」
少し談笑した後、奥からおかみさんを呼ぶ声が聞こえる。
「そろそろ行かなくちゃね、また来てねお二人さん」
「はい、是非」
(カレン、いい男見つけたじゃないか。まあこの子に限らず勝負したいときはウチにきな。とっておきの料理を教えてやろう)
(おばさんったら……)
満面の笑みを受かべた後、店の奥に入っていった。
出された料理、全てをたいらげ、帰路につく。
「凄まじい料理だった。まさかあんな料理がこの世に存在するとは」
「なんでも魔界一と噂のイイ男を、料理で魅了して結婚したらしいよ」
「その話は納得できる」
本で読んだことがある、胃袋を掴むというやつだろうな。たしかにあの料理なら落とすのもたやすいだろう。
「それでもいつかおばさんを超えたいな」
「ははは、出来るかもね」
カレンに期待する一方で、そんな料理ができたら世界が崩壊するのでは? と危惧する俺がいた。




