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呑み込んで黄金の裸婦の塊

「わかった。えー……と……よしよし」


「はぁん嬉しいですぅ癒やされますぅもっともっと激しくしてくれてもいいんですよ? わっしゃわっしゃと!」


「そんなことをしたらせっかくの綺麗な銀髪がぐじゃぐじゃだろ」


 途端にミミッ子の顔がミミの先まで真っ赤になった。


「や、やだもぅ! ロジャーさんの褒め上手さん! 褒め殺しですかはめ殺しですか?」


「はめ殺しというのは開閉できないよう壁に埋め込まれた窓なんかのことだよな」


「え!?」


 真顔で目を丸くして「おもってたのと違う」って顔するのやめなさい。


 俺は黄金の悪魔裸婦像に向き直った。


 しかしまあ……せっかく見つけたお宝だが持ち帰るには大きすぎるし重すぎる。


 しかもここから地下一階の入り口へと歩いて戻らなければならないのだ。


 帰還のための転移(ラポタル)魔法や迷宮からその入り口へと戻る脱出(エスケプ)魔法が、この無限の地下迷宮では不思議な力によってかき消されてしまうのである。


 攻略が進まない要因の一つだ。無論、元からそんな便利魔法が使えない盗賊王の俺には無関係な話だがな。


 しかしまあ、普通ならここで詰みなんだよなぁ。


 ミミッ子がアメジスト色の瞳をくりくりさせて俺に訊く。


「溶かして延べ棒にして売ればうっはうはですね! あ! でもロジャーさんってお金持ちになりたいんじゃなくて冒険したいんでしたっけ? じゃあじゃあ船でも買っちゃいましょうよ! それでミミッ子と二人、大海原にこぎ出していくんです。二人きりの楽園を見つける旅へ!」


「楽園ってお前……しかし船っていうのは悪くないかもな。地図にない島を見つけてお宝探しか」


 俺の顔をのぞき込むと少女は首を傾げた。


「なんだか浮かない顔ですね。わたしのことをくぱくぱした時は、あんなに楽しそうだったじゃないですか」


「解錠の事をくぱくぱって言うのやめなさい。もうちょっとお上品にはできなくて?」


 令嬢風にたしなめてみたところ少女は全身を左右に振ると、胸元に手を当てて吼えた。


「わたくし欲望の詰まった宝箱でしてよ? 菓子店のイチゴケーキが入っているようなお上品な箱とは違いますの!」


 そしてドヤ顔。


 ノリの良さだけは100点満点だな。


 ミミッ子は祭壇に上がると悪魔裸婦像の横乳をペチペチ叩いた。


「ところでロジャーさん。これ、どうやって持って帰るんです?」


「召し上がれ」


「はい?」


「ミミッ子ちゃんのちょっといいとこみてみたい~♪」


 きょとんとした顔のミミッ子だが、俺の意図に気づいて青ざめた顔になった。


「ま、まさかあの……ロジャーさん……わたしを連れて来た理由って……ここまで大事に守ろうとしてくれたのって……」


「気づいたかミミッ子よ。これはお前にしかできない任務だ。宝箱なんだから中に宝物を呑み込むのは自然なことだろ? ささ遠慮なさらずイッキにずずいと!」


「そんなぁ……こっちは箱といえども女子! 女子ですから! 女の子として大切にしてもらってると思ったのにぃ」


「普通は女子ならエロいことを思いつくまま口に出したりしないものだが?」


 口元を隠して少女は目を細めた。


「お口に出すとか……もう、漲ってますねロジャーさん」


「そういうとこだぞ」


 微妙に「お」をつけることで変態性を醸し出すこいつ……天才か。しかし、ミミッ子は微妙に乗り気ではないみたいだ。


 料理はあっという間に皿の上から平らげたのだが、このサイズの財宝ではそうもいかないのかもしれない。


 軽く煽ってみよう。


「おやおやぁ……四角錐遺跡の奥地に眠っていた至宝の守り手ともあろうミミッ子さんが、こんな異界チックな地下迷宮のお宝を収納できないんですかぁ?」


 すると少女の眉尻がピクンと反応した。


「え、ええっ……べ、別にできないとか言ってないですしできますしやれますし」


「本当にぃ? いやいや無理しなくてもいいんだぜ? できないならできないって認めても、誰もミミッ子のことを責めたりしないって。まあ、ミミッ子ならできるかもなぁ……俺の夢を叶えてくれる最良の相棒になってくれるんじゃないかなぁ……魔物とか人間とか種族の垣根を越えた友情を育めるかもしれないなぁ……なんて、俺が一方的にミミッ子に自分の気持ちを押しつけていただけだしさ。ごめんなミミッ子」


 少女は長い銀髪を手の甲側でたくしあげるようにしてから、ビシッと俺の顔を指さした。


「や、や、やってやるですよ! これくらい朝飯前ですからね!」


 こちらに突きつけた指先がプルプル震えている。しかも涙目だ。これはちょっと挑発しすぎたか。


「いや、本当に無理はするなよ」


「箱に情けは無用です。そして箱に二言はありませんから」


 再び黄金の悪魔裸婦像の前に立つと、少女は腕組みをして少し考えてから「あ! えっと……味を確認してみましょう」と、ぺろんと長い舌を伸ばして悪魔裸婦像の胸の膨らみを、下半球から上へと舐めあげた。


「……ん……あん……」


 舌を出したままミミッ子が祭壇の下で待つ俺に振り返る。


「ちょっとロジャーさん裏声で変なアテレコするのやめてくれません?」


「いや、俺はなにも言ってないぞ」


 だが、確かに艶めかしい鼻声は俺の耳にも届いていた。


 ミミッ子は溜息で返す。


「ちょっとロジャーさん。この黄金淫乱巨乳痴女悪魔像なんですけど、ペロってみたらなんだか普通の金属の味と違うんですよね」


「どう違うんだ?」


「魂のこもったような味がするんです。あー、これちょっとミミック的すぎて人間のロジャーさんには伝わりにくいかもですけど」


「そうか。ええと、そのままゆっくり祭壇からおりてこい。こっち向いたままな。振り返るなよ」


 ミミッ子は不思議そうな顔をのまま首を傾げた。


「何を言ってるんですまったく。それじゃあ味見の続きをしないと……あれ? この黄金淫乱巨乳痴女悪魔像……さっきとポーズが違いませんか?」


 どうやら俺とミミッ子がお宝だと思い込んでいたそれは――


「……た、た、食べないで……」


 ミミッ子にペロペロされてめちゃめちゃ怯える石像系の魔物だった。

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