迷宮へお帰りミミッ子ちゃん
俺はミミッ子に確認した。
「今、この黄金像……しゃべったよな?」
ミミッ子が首を左右に振る。
「そんなわけないですってば。しゃべる黄金エッチ像なんているわけないです」
「お前には自分がおしゃべりな箱だという自覚はないのか?」
ミミッ子は俺の顔をびしっと指さす。
「見た目は巨乳美少女! 頭は空っぽ! その名は迷惑防止条例案件少女のミミッ子ちゃん!」
自覚あったんだなぁ空気しか入ってないって。
「なんだその条例というのは」
「細かいことはいいんです。ちなみに盗賊王を自称するロジャーさんは住所不定無職ですけどね?」
ペロリと舌を出すミミッ子め。今、全国の冒険者の皆様方を敵に回したぞ。
そのままミミッ子は黄金像に向き直る。
「じゃあ続きを」
「ひゃああ!」
黄金像は後ずさった拍子に台座から転げ落ちた。
あっ……これはアレだな。ドジっ子ってやつだ。
黄金像を正座させてミミッ子は尋問を始めた。
「さあさあお宝さん。あなたのお名前はなんていうのか教えてくれます?」
「ひぇぇ……こ、壊さないで……」
「破壊するかはロジャーさんの……おっと、器物破損王にして世紀末遺跡クラッシャーのロジャーさんのご機嫌しだいですよ?」
「おおお恐ろしいデス」
黄金像の顔は悪魔の仮面をかぶっていて表情は解らないが、声色にビブラートがかかっていた。
「安心しろ。別に何もしないから」
「もちろん素直に言うことをきけば身ぐるみ剥ぐくらいで勘弁してあげるってことですよねロジャーさ……ロジャー様!」
わざわざ言い直すなんてミミッ子げすぅい! 手下キャラすぎるぅ。
言われた途端に黄金像は腕を差し出した。
「ど、どうか腕一本で許してくださいデス」
ミミッ子は「はぁ~ん? こんなこと言ってますけどどうしますロジャー大魔王様ぁ」って、生き生きしやがって。楽しんでるなこいつ。
俺は黄金像の手を両手で包むようにしてじっと見つめた。
山羊か牛かを模したような仮面の目のあたりをじっと見つめる。目にはルビーのような宝石がはめ込まれていた。
「いやいやいやいや。心配しなくていいから」
「本当に? あの……ぼくは……ええと……デスね」
誰かさんにその控えめさを分けてやってほしいものである。
「焦らなくてもいいぞ。ゆっくり落ち着いて考えがまとまったら話してくれ。ああ、話したくなければそのままでいいから」
しばらく見つめ合っていると――
ミミッ子が吠えた。
「ちょっとちょっとちょっとー! ロジャーさんってばわたしの時と違って、なんだか対応が紳士的じゃありません?」
「誰かさんが俺の紳士力を根こそぎ奪うもんでな」
「なんとふとどきな! そういう輩はこのミミッ子ちゃんがしまっちゃいますよ!」
お前だよ。
黄金像が俺とミミッ子の間で視線(?)を行ったり来たりさせた。
「二人は仲良しなんデスね」
途端にミミッ子の瞳がハートマークになる。黄金像の隣に正座するとポンポンっとミミッ子は自分の膝を軽く手で叩いた。
「わたしとロジャーさんが世紀のバカップルとよく見破りましたね。ご褒美に膝枕をしてあげます」
「え……」
表情は仮面だから変わらないが、黄金像が困惑しているのは空気で伝わって……。
「いいのデスか? ぼくはミミッ子さんに甘えてもいいのデスか?」
「いいですとも!」
黄金像はミミッ子の膝枕に頭を載せた……瞬間――
「重いぃ! ちょ! あの! ロジャーさん……助けて。万力で挟まれてるみたいで……ハッ!? 万力ってちょっとアレですよね」
「それ以上はいけないぞ。ただでさえお前は女子力が底をついてるんだから」
「ええぇ。こんなに魅力的なのにぃ」
ミミッ子が涙目になった。
「で、冗談はともかく、どうしたんだお前?」
「この黄金像むちゃくちゃ重い女なんです物理的に。床にぐいぐい押しつけられるみたいでこのままだと……」
どうやらミミッ子は立ち上がることができないらしい。
しかも黄金像は「スヤアア」と心地よさげに寝息を立てている。
「そうか……ミミッ子よ。短い間だったが、お前と過ごした日々は楽しかったぞ」
「え? まさかロジャーさんともあろうお方が、わたしを残してダンジョンから脱出なんてしませんよね? ダンジョンに別れを求めたりしてませんよね?」
「してるんだよなぁ。祭壇の財宝と宝箱なんてお似合いじゃないか。じゃあ、俺はこの辺で……」
ミミッ子はそもそも魔物なのだし、迷宮こそ彼女の輝ける舞台だ。
野生動物だって怪我が治れば自然に還すのが道理である。
手負いのミミッ子は、もう充分に回復したと宝箱鑑定士(自称)の俺は判定した。
「ちょっとおおおおおおお! おいてかないでくださいよおおおおお!」
「俺だって寂しい! だがミミックの居場所は迷宮なんだ! さらばミミッ子!」
彼女のアイテムボックスとしての能力は正直惜しい。
だが、涙をのんでさようならミミッ子。フォーエバーミミッ子。
俺は気配遮断をすると異界の迷宮を出口方面へと駆けだした。
「無駄ですからねえええ! 絶対にこの状態から脱してロジャーさんのお布団にもぐりこんでみせますからああああ!」
願わくば黄金像よ、そのまま百年くらい眠っていてくれ。
結局、無限の地下迷宮で何も得られなかったのだが、ミミッ子と別れることができた。
不思議なことに置き去りにしたことへの罪悪感がさほどない。
さほどであってまったく無いわけでもないのだが……。
迷宮入り口の鉄扉が閉じたのを確認して、俺は王都の下町に戻った。
その晩、馬小屋で夜を迎えた俺の元に――
「ロジャーさぁぁん……みぃつけたぁ!」
月明かりを背負って長い髪を前側に垂らして顔を銀髪で隠したミミッ子が、扉も鍵も無い馬小屋にのそりと姿を現した。
「俺はロジャーさんなんていうイケメン盗賊王じゃないぞ」
「ペロペロしたから味も匂いも覚えちゃいましたよ? あ! 念のために本人認証ペロペロしていいですかロジャーさん?」
馬小屋の入り口からじわじわと俺との距離を詰める
前髪の隙間から覗いたアメジスト色の瞳が怪しく光る。は虫類のように少女は舌をチロチロと出し入れした。
襲われて無駄な体力を消耗したくはない。
「はいはい俺ですロジャーさんですよ。しかしまあ、あの黄金像でもお前を止められなかったか」
藁山の上であぐらをかいてため息をつく俺に、ミミッ子は大きく頭を振るって銀髪をふわりと元に戻すとにんまり口元を緩ませた。
「そこは抜かりなしですよロジャーさん」
「はい?」
何がどう抜かりないのか俺にはさっぱりなのだが、馬小屋の入り口に向けてミミッ子が手招きすると……。
「こ、こんばんはデス」
金色のお面を頭につけたショートボブの髪の目がぱっちりとした少女が、おどおどしながら外から馬小屋の中をのぞき込んできた。
お面の魔獣的な悪魔チックなデザインには見覚えがある。
ルビーの目のはめ込まれたそれは、黄金像の顔そのものだった。
金髪ショートボブ少女の瞳が薄ぼんやりと赤く光る。
ミミッ子が立ち上がるとショートボブ少女を引っ張り込んだ。
少女は半裸だった。全身をリボンラッピングしており、ミミッ子にも劣らない大きな胸がふわふわフリル付きリボンで飾り付けられている。
「お前……まさか……さっきの……」
「は、はいデス」
「なんでここにいるんだ……」
ミミッ子が俺の目の前にぴょんと跳ねるように飛んできて、頭を差し出した。
「さぁロジャーさんミミッ子をなでなでしてくださいね」
「待て。待て待て待て待てどうしてそうなるちゃんと説明してくれ」
ミミッ子は顔を上げるとにっこり微笑んだ。
「ちゃんとロジャーさんの言いつけ通り、宝を連れ帰ったんですよ? これは褒められても仕方ないレベル!」
「連れ帰ったって……黄金像だけど人間じゃないか?」
「なにか問題でも?」
「あ、あのお邪魔デスか?」
二人の巨乳美少女が競うように俺に詰め寄ってきた。
中身はミミックとガーゴイル的な何かだが。
「ミミッ子よ。ミミックのお前が擬態できるのは百歩譲って理解しよう。だが、さっきの黄金像がなんで人間になってるんだ?」
「そんなのわたしに訊かれて解ると思います? こっちは頭空っぽなんですよ!」
空っぽというか馬糞でも詰まっているのではなかろうか。
すると金髪少女が俺の手を包むようにとった。
「ミミッ子さんは良い箱デス。ぼくを呑み込んで外に出してくれたデス」
ショートボブ少女の触れた手は柔らかく温かく、胸もぷるんとたわわに揺れた。
さらにミミッ子が対抗するように胸を張る。
ぶるんぶるんと、こちらも負けじというボリューム感だ。
「そしてこの子を外でゲロったらこんなことになってたんですよ? 指示厨のロジャーさんの命令にしたがった結果ですしおすし」
「俺を悪者みたく言うなよ」
「だからちゃんと二人まとめて面倒みてください責任とってください役目ですよ?」
迫るミミッ子の後ろでショートボブ少女はモジモジと膝をすりあわせながらコクコク頷く。
やったね盗賊王仲間が増えたね。
増えて欲しくなど無かった……。




