反撃の盗賊王 ~ヤラれる前にヤレ!~
魔力灯の光量を蝋燭一本くらいにまで落とす。薄暗い中、俺はベッドの上で仰向けになり胸の下あたりまで毛布をかけている。
大きめのベッドとはいえ三人で寝れば手狭で寝返りどころか身動きすらとれない。
俺を真ん中にして左右から二人の美少女(魔物だけど)が身を寄せた。
二人は俺の腕を枕代わりにするように、それぞれ左右の腋の下に収まってしまった格好だ。
薄布越しにミミッ子とイル美の胸がぎゅうっと押しつけられる。
俺の脇腹にすいつくような感触だ。
気分はふかふかパンに挟まれたサンドイッチの具材である。
ほとんどまともに入浴していなかったが、二人からは花のような香りがした。
「なあ、このまま寝たら俺の腕がしびれちまいそうなんだが」
右脇の下でミミッ子が顔を上げて、アメジスト色の瞳で俺をじっと見つめた。
「それくらいは我慢してくださいってば。それに三人で身を寄せ合ってるとぬくぬくして温かいですし」
左脇でイル美が頷いて金髪が小さく揺れる。
「とってもとっても幸せデス。ミミッ子氏に連れ出してもらって、ボクはいっぱい感謝してます。ロジャー氏にも……いっぱい……デス」
イル美がさらに俺に密着してくる。もっちりぷるぷるの柔らかな双丘が押しつけられる度に、寝る子が起き上がる勢いだ。
ミミッ子が対抗するように俺にくっついてきた。無言で腰を妖しく艶めかしく動かして俺の太ももに足を絡めると彼女の弱点でもある大事な“鍵穴”をこすりつけてくる。
「おいやめろミミッ子やめるんだ」
「え? ロジャーさん何をそんなに驚いているんです? わたしはなーんにもしてませんけどぉ?」
白々しく言いながら時折呼吸が荒くなる。
気づいてイル美が頭を上げた。
「ミミッ子氏の呼吸が荒いデス。だ、大丈夫デスか?」
「え、えっと……だだだ大丈夫だから心配いらないから本当に! ほら、良い子のイル美ちゃんはとっとと寝てくださいってば」
「は、はい……けど……」
ミミッ子の算段を俺は瞬時に理解した。とりあえずまずはイル美が寝てからというのだろう。
同じベッドで寝ている友人の隣でなにをしようというのか。
イル美は心配そうに眉尻を下げた。
「けど、とっても辛そうデス。ボクになにかできることはないデスか?」
「イル美ちゃんは寝て、寝ろ、寝てくださいお願いしますから」
必死だなこいつ。しかも言いながら俺に胸と股間を押しつけてスリスリしてきやがる無法っぷりだ。
これまでずっとやられっぱなしだったが、ついに人類は箱に対して逆襲を開始した。
右腕を回り込ませてミミッ子のネグリジェの布越しに包むように触れた瞬間――
「ひいっ! はうぅ!」
どうやら攻撃力は高いが自分がやられると途端に弱くなるのがミミッ子の特徴らしく、軽いボディータッチと盗賊王が得意とする五指それぞれが別々に動く指先の細やかな律動に、ミミッ子は声を殺した。
切なそうな顔つきで自分の人差し指を甘噛みしながら俺を見上げてフルフルと首を左右に降る。お願いイル美ちゃんが寝てからにして……ってバカか。やり始めたのはお前の方だろうに。
ミミッ子の曲線を触れるか触れないかぎりぎりの羽毛のようなタッチでなで上げれば、ミミッ子は首をのけぞらせ、舌を突き出し足をピンッと伸ばしてビクンビクンと痙攣した。
弱い。弱すぎる。守勢に回るとここまで腰砕けになるとはミミッ子敗れたり。
その間、俺は何事もなかったかのように真顔だった。
方や左脇でイル美が真顔の俺を見上げて心配そうにしていた。
「ロジャー氏、ミミッ子氏は大丈夫デスか?」
「ああ、大丈夫大丈夫」
告げながらミミッ子の一番敏感そうな部分の周囲を指でなぞる。浮き上がった突起をツンとつついた。
「んふあああああんがふっふ」
ミミッ子は声をかみ殺して抵抗を続けたが、彼女の胸の上で俺の人差し指と中指がダンスを踊る度に、少女は身をよじらせた。
「死ぬっ……死んじゃいますからぁ……あっ……ああっ……ひゃひゃひゃひゃ」
そう、俺は彼女をくすぐっていたのである。腋の下の窪みを撫で、脇腹の曲線に指を這わせてかすかに浮き出た肋骨をツンツンしただけだ。
というか、今も現在進行形で続けている。
「逝くっ……逝く逝く……イクゥッ! 意識飛んじゃうッ!」
ビクンッ! と、ミミッ子は最後に大きく海老反りになると、意識を失ったのかだらしなく口からヨダレを垂れ流しながら白目を剥いた。
そっとまぶたを閉じてやる。
ミミッ子の反応の激しさにイル美が上半身を起こした。
「ミミッ子氏? 本当に大丈夫デスか?」
「ほらよく見てごらんイル美。ミミッ子がこんなに安らかな顔をして……寝てるんだぜこれ」
くすぐりに耐えきれず気絶したのだが、眠ったことにしておこう。
イル美はミミッ子の安らかに気絶した……もとい寝顔に安堵した。
「よかったデス。え、えっと……」
と、同時にイル美は俺の胸のあたりに覆い被さるように身を乗り出す。
ぶるんと大きな胸が重力に引かれてゆさゆさと目の前で揺れた。
そのまま俺の身体を通り越して、イル美はミミッ子の頬に優しく唇を当てる。
「おやすみなさいデス……ちゅ」
満足そうに微笑むと、イル美が今度は俺の顔を見つめた。
「あ、あ、あのロジャー氏……お、おやすみのチューしていいデスか?」
「我が家にはそういう習慣はないんだが……」
言った途端にイル美が泣き出しそうな顔になったので「まあ、とっくに捨てた家だ。かまわんぞ」と返すと、あっという間に笑顔に戻ってイル美は吐息のかかる距離まで顔を近づけた。
「えっとえっと……ちゅっ」
少女の柔らかい唇が俺の唇に触れる。
はっ――!?
「お、おやすみなさいデス!」
軽くふれ合った程度だが、逃げるようにイル美は俺に背を向けて胎児のように丸まってしまった。
本当に危険なのはミミッ子よりもイル美の方かもしれない。