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タオルはお巻きいたしますか?

 気絶したイル美の身体を脱衣場にあったバスタオルでくるんだ。


 キッチンの紅茶といい、ほしいと思うものがすぐに見つかる便利な家だ。


 さらに二枚ほど大きなタオルをソファーに敷いてイル美を横に寝かせる。


 まあ、元が迷宮を生み出すほどの魔物なのだし、これくらいで死んじまうようなことはないと思うんだが……もし、彼女が死んでこの迷宮世界が消滅したら、俺とミミッ子はどうなってしまうのだろう。


 無限の地下迷宮で冒険者が死亡しても教会で復活できたものの、迷宮そのものが無くなってしまうわけだから、前例通りではないかもしれない。


 かといって、真っ裸のまま二人を残して迷宮から出るのも気が引けた。


「お湯! お湯を沸かさないと! あと清潔なタオルをもっと用意しないといけません!」


 銀髪を振り乱し、少女がタオルを巻いた格好でキッチンであたふたしだす。胸元は窮屈そうで今にもこぼれてしまいそうだし、白いタオルの端から太ももがチラチラとまぶしいくらいだ。


 見てしまう俺も悪いんだが、ともあれ全裸でないだけよしとしよう。


「イル美ちゃんを助けて! 助けてくださいロジャックジャック先生! 三千万ゴールド用意しますから」


「その言葉を聞きたかった……って、なんだか知らんが決意は感じたぞ。とりあえず落ち着けミミッ子。お産じゃないんだから」


「ハッ……つい、わたしとしたことが。わたしは冷静ですよHAHAHA」


 肩で息をして何を仰る大人のおもちゃ箱よ。


 ミミッ子が騒いでいる間に、イル美も落ち着いたようだ。呼吸も穏やかになり、まるで眠り姫のようだった。


 ミミッ子が俺の隣に立って告げる。


「ところでロジャーさん素っ裸じゃないですか恥ずかしい」


「イル美を抱えていたんだから仕方ないだろう。だいたい全裸が自然体のお前に言われたくないっての」


「じーっ」


「やだちょっとやめて! まじまじと下半身に視線を向けないで!」


「これが標準でアレがアレして膨張率を計算すると……け、けっこやりますねロジャーさん」


「うるせぇ! 俺の分のタオルを脱衣場から持ってこい!」


「かしこま~!」


 足取りも軽くミミッ子はリビングから飛び出していった。


 まあ、俺もミミッ子の胸や太ももをチラ見やらガン見やらしたわけだし、これでおあいこってことで手打ちにしてもらおう。


 すぐにミミッ子は戻ってきた。


「タオル巻いてあげましょうか?」


「いいからよこせ」


「んもー! ロジャーさんってば恥ずかしがり屋さんなんですね。かわいいです」


 タオルを受け取り俺はため息交じりに返した。


「お前には負けるよ」


「やったー! ミミッ子ちゃんかわいい!」


 両腕を万歳させた途端にミミッ子の身体をクレープ生地のように包んでいたタオルがはらりと落ちる。


「わざとか!?」


「の、ノーノー! 今のは本当に想定外ですノーカン! ノーカウントですから!」


 慌ててミミッ子は俺に背を向けた。それはそれで少し大きめなお尻が惜しげも無くさらされる。


 視線をイル美の方に向け直している間に、ミミッ子は「変身! パジャマパーティーモード!」と唱えた。


「もう振り返っても大丈夫ですよロジャーさん?」


「本当かぁ?」


「疑うよりも確かめるが早しって言うじゃないですか?」


 そんなことわざや格言は知らないのだが、首だけ振り返るとミミッ子は薄いピンクのスケスケなネグリジェ姿だった。


「パジャマっていうから普通のを期待した俺がバカでした」


「えー!」


 非難めいた声をあげるんじゃあない。まったく……。


「ところでロジャーさん」


「改まってなんでしょうかミミッ子さん」


 ミミッ子は自身の唇に立てた人差し指をそっとかざして「チュ」と音を立てた。


「永遠の眠りの呪いに駆けられた美少女の目を覚ますには、マウストゥマウスというのがミミック界では定番なんです」


「ほほぅ」


「あ! ちょっと疑ってますね? これでもわたし、即死魔法とかも使えるんですよ? それに死んだら人間だって棺桶っていう箱にしまわれちゃうんです。死を司る者として、心臓マッサージと人工呼吸の重要さを説きたい、説き続けたい。そしていつかロジャーさんの棺桶になって二人は土の下で永遠に結ばれるんです。あっ……言っちゃった。ロマンチックなこと言っちゃった」


「箱の考えることは人間の理解を超えてるな」


「だからロジャーさんは箱に入るまでいっぱい長生きしてくださいね……って、そうじゃなくてイル美ちゃんですってば。ほら早く口を吸ってください」


「言い方が生々しいな。だいたい吸っちゃまずいだろ」


 もう一度、ソファーで寝息を立てているイル美に視線を向けると――


 彼女はタコのように口をすぼめて受け入れ体制をとっていた。


「起きてたならもう安心だな」


「はわわ……ぼぼぼボクはおきてないデスよロジャー氏」


 目をぎゅっとつむって自白するとは良い根性だぞ黄金像。


 しかしまあ、比較的まともだったイル美もだんだんとミミッ子に毒されてきているようだ。


 このままでは俺まで変態の泥沼に引きずり込まれかねないな。




 ミミッ子がお宝発見と二階からイル美にぴったりサイズのパジャマを発掘してきた。


 イル美がそれに着替えると、またまたミミッ子がどこからか見つけてきた温風が出る魔導器でお互いに髪を乾かし合い、二人の寝る準備が完了した。


 ちなみに、俺のパジャマもぴったりのものが見つかったのだから、本当に至れり尽くせりである。


 ナイトキャップまであったのでそれをかぶると、二階にある個室の前で俺は二人に告げた。


「では諸君、おやすみなさい」


 扉を開けて寝室に逃げ込もうとすると、背後からミミッ子に肩を掴まれる。


「ちょっと約束が違うじゃないです?」


「はて? 何のことかな。部屋は三つあるのだから、一人一つずつ使えばいいではないか」


 イル美が「え、えっと……お部屋に独りぼっちは寂しデス」とぽつりと呟く。


 そういえば、ミミッ子もイル美も部屋の祭壇に独りでずっと収納されていたんだよな。


「なるほど。ミミッ子、イル美のことは頼んだぞ?」


 イル美いがミミッ子に背中からぎゅっと抱きついた。が、ミミッ子はイル美の頭をなでなでしながらも、もう一方の手は俺の肩をぎゅっと握ったままだった。


「御社が契約してくれたのではありませんか!? 男女が一つ屋根の下、同じベッドで一夜をともにするという契約と弊社は考えておりますから」


「契約書を交わしていなければ無効だ」


「こ、こちらはこのあとの展開を期待してイル美ちゃん介護を献身的にこなしたんですよ?」


「仲間を助けるのに理由はいらない。そうは思わないか? ミミッ子よ……お前がイル美を助けたのはイル美を利用して自分の行動に正当性を持たせるためだったのか?」


「う、うう、ロジャーさんも一緒に寝ましょうよおおおおお! 寂しいんですわたしだってずっとずっと独りぼっちだったんですよぉ! 人のぬくもりがほしいんですってばぁ!」


 泣き落としである。目尻に大粒の涙が溜まって今にもこぼれ落ちそうだ。


「わかった。だが、寝るだけだからな」


 すうっと涙が引っ込んでミミッ子は背後から俺の腰に腕を回して抱きしめた。


 俺を先頭にミミッ子とイル美が連結したような格好だ。


 ミミッ子が声を上げた。


「連結人間ムカデ~!」


 イル美が「なんだか強そうでかっこいいデスねミミッ子氏」と、こちらもご満悦だ。


 人間俺だけだろ。2/3が魔物ムカデだろに。

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