EP5 モデル
「また絵を描いてんのか」
仕事の合間に、二湖がスケッチブックに何やら描いていた。
「なぁ、ちょっと見せろよ」
「嫌だよ。兄さんに見せたら馬鹿にされる」
「どんな兄貴だよ」
「こんな兄貴だよ?」
まったく。信用も何もないな。
しかし、ちらっと見えた絵は、店内に立っている三葉だった。二湖はいつもそんな絵を描いている。この店で描いてるんだから、当然か。
「ねぇ、一海を描いてみれば?」
三葉はスケッチブックを取り上げて、パラパラとめくりながら言った。
「ちょっと、返してよ」
「ほら、一海描いてるのなんて見たことないもん」
「弟が兄貴の絵を一生懸命描いてたら嫌だろ」
「どうして?」
「いや……」
「ねぇ、今描いてみてよ」
「鏡でも置いて描け」
「今日のオムライスは無料です」
俺は二湖と顔を見合わせた。
「ちょっと動かないでよ兄さん」
「動いてないだろ」
「瞬きしてる」
俺は目を見開いた。
「ちょっと普通にしてよ」
「お前が言ったんだろ」
俺は頬杖をついて、ずっと二湖を見つめていたが、たまに目が合った。
「こんな風にじっくり見ながら描くのは貴重なんだ。ありがたいよ」
「三葉にでも描かせてくれって言えばいいだろ」
「僕が?」
まぁ無理だろうな。
「なぁ、次の祝日は休みなんだろ?」
「そうだね。月曜日だから」
「三葉を連れて、どっかで絵を描いてこいよ」
「無理だよ」
「なんで?」
「お金が無い」
「お前、こないだもらった五万どうしたんだよ?」
思わず頬杖をやめてしまった。
「ほら、ちゃんとポーズ取って」
「で、あれはどうなったんだ?」
「母さんに渡した」
「あの女……。あれはお前が自由に使っていいお金だったんだ」
「だから母さんに渡したんだ」
俺は馬鹿らしくなって、背もたれにもたれかかったが、二湖は何も言わなかった。もう描けたのかな。
「じゃあ、三葉に弁当作らせて、動物園でも行ってこい」
「いいわね」
両手にスパゲッティを持った三葉がちょうど通りかかった。
「三人で行きましょ」
「僕もそれならいいよ」
俺も行ったら意味ないだろ。
「二人で行けよ」
「僕がスケッチしてる間、三葉が退屈じゃないか」
それは……そうだ。
三人で動物園に行って……二湖が絵を描いている間に……俺が三葉を退屈させないようにする。それじゃ、俺と三葉のデートじゃねぇか。




