EP4 泣いてた?
「兄さん」
「なんだよ」
「三葉、泣いてたよ」
俺が店に入るなり、二湖が迫ってきた。席に座るまで待てよ。
「三葉は?」
俺はいつもの席に座った。
「上、行っちゃった」
それでいないのか。
「何したんだよ」
「あいつが馬鹿だから馬鹿って言ったんだよ」
二湖が俺を睨む。
「三葉を傷付けたら許さないよ」
俺は二湖を睨み返した。
「……コーラ」
「え?」
「置いといてくれ」
俺は席から立ち上がると、店の奥から、小日向家に続く階段を上がって、三葉の部屋に向かった。
「三葉?」
「……なに?」
「悪かった」
ドアが開いて、三葉が顔を出した。目は潤んでないし、赤くもなっていない。二湖のヤツ……。
「何が悪かったの?」
「は?」
「なんで謝りにきたの?」
「いや……」
「二湖に言われたから謝りにきたんてしょ?」
「……」
「自分は悪くないと思ってるのに」
「なんだよ。俺はお前が……」
「何よ?」
「泣いてるって、聞いたから」
三葉は急にドアを閉めた。
「おい」
「……ほっといて」
俺はドアを見つめていた。何を考えればいいのかすら、俺にはわからなかった。
三葉の部屋から離れて、階段を下りる。そこに二湖が待っていた。
「ちゃんと謝ったの?」
「あぁ」
「三葉はなんて?」
「バンッて、ドアを閉められたよ」
「もう」
「手伝うよ」
「え?」
「三葉がいない分。皿洗いぐらいしかできないけど」
「兄さん。あれ、飲んでからでいいよ」
二湖はいつもの席を指さした。
「あぁ、飲んだら行くって言っといてくれ」
「わかった」
俺は立ったまま、一気にコーラを飲み干した。喉が痛い。涙が出る。はぁ……やるか。
俺が皿洗いを始めてからしばらくして、三葉が下りてきた。
「ごめん。遅くなっ……あっ」
俺のことに気付いたみたいだ。
三葉と一瞬、目が合ったが、プイッとそっぽを向いて、客席の方に行ってしまった。
なんだよ。やってられるか。
「もうお手伝いは終わりかい?」
俺がエプロンを外しているとおじさんが言った。
「三葉が来たからね。でも、ここにある分だけやるよ」
ガシャン。と三葉がカウンターに食器類を置いた。
俺はおじさんの顔を見たが、ニコッと笑うだけで何も言わなかった。
はいはい。やりますよ。エプロンを締め直して、俺は皿洗いを再開した。




