EP3-9 隣
寒い……。遥の隣で目が覚めた。時計に目をやると朝の五時半を回ったところだった。
遥はよく寝ているようだったので、俺は自分の部屋に戻ることにした。
そーっとドアを開けて部屋を出る。静かにドアを閉めていると、隣の三葉の部屋から眠そうに目を擦っている二湖が出てきた。
俺が驚いていると、二湖は何も言わずニコッと微笑んだ。
そして、先に二湖が俺たちの部屋に入ってしまったので、気まずくて俺は部屋に戻れなくなった。
とりあえずソファーに寝転んだが落ち着かない。
俺たちの声は聞かれていたんだろうか……。どれぐらい聞こえるも
んなんだろう。
二湖がどうして三葉の部屋から出てきたんだ。まさか二湖と三葉が……。見つめる二人、二湖が顔を近づけ、三葉はそっと目を閉じる。ふふっ……やっぱり想像できないな。
俺はただ目をつぶって、自問自答していた。もし、二湖と三葉がそうなったら……。いいじゃないか。俺が昔から望んでいたことだ。
もし、そうなったら俺と遥も遠慮なく恋人をしていられる。
昨日の遥、可愛かったな……。いつもは俺の方が余裕なくて、ちゃんと遥のことを見れてなかったのかもしれないな……。
なんだか遠くの方で話し声と食器の音が聞こえている。
「一海まだ寝てるの?」
三葉の声だ。俺、寝ちゃってたのか。でも、夢と現実の境にいるような……。寝返りを打って、毛布に包まる。ん、毛布? 誰かが毛布を掛けてくれたみたいだった。
「今日は日曜日だし、兄さんはニートだから」
誰がニートだ……。
「二人は何時からひまわりに行くの?」
「九時ぐらい。遥さんは練習?」
「私も九時から。今日は午前中だけなの」
「じゃあお昼にひまわりに来る?」
「そうね。でも、夜は私の家に行かなきゃなの。週に一度は顔を見せに来いって言われてて」
あー。そんなの言ってたな。まぁ、今は寝るか……
それから俺が目を覚ましたのは十時になってからだった。
「遥は練習で、二人はバイトか」
俺は……洗濯ぐらいしとくか。洗面所に行くと、すでに洗濯機が回っていた。干しとけってことね。
しかし、俺は今までどうやって生きてたんだ……。他のみんなはもうすでに動き出していて、ちゃんと生きている。
あの三人が立派なだけで、大半の高校生はこんなもんだろう。今の俺にできるのは立派な三人をサポートしてやることかもな。ブラジャーの干し方も今度、聞こう。
洗濯機が止まるまで少し時間があったので、軽く掃除をして、洗い物もして。洗濯機が止まったら物干しに干して。
やることがなくなった俺は、ひまわりに行くことにした。遥に書き置きをしてから家を出た。
「おはよう」
「兄さん」
「おぅ」
俺はおじさんたちに挨拶をすると、上着をいつもの席に放り投げてキッチンに入った。
「今日は珍しく手伝うよ」
「じゃあ洗い物、頼むよ」
「はーい」
「助かるよ」
「三葉は?」
「来てすぐに上に行ったよ」
あいつ……全然立派じゃないじゃないか。
「体調でも悪いって?」
「いや、あんまり寝れてないからって」
「ふーん」
俺は食器を洗いながら昨日のことを思い出していた。寝れてないって、やっぱりそういうことなのか……。
「混んできたね」
昼前になって、店が賑わってきた。調理をするおじさんの手も止まらない。
「俺もホールに出ようか?」
「一海くん、助かるよ」
三葉がサボってるせいだ。しかし、お客さんから見ると、俺と二湖が二人でホールにいるのってどんな風に見えるんだろう。あっちにもこっちにも、同じ顔がいると不思議なのかな。
「いらっしゃ……あれ、遥か」
「あ、一海くんも働いてるのね」
昼過ぎになって、遥が練習から帰ってきた。
「三葉が上で寝てるらしいんだよ」
「そう、大丈夫かしら?」
「さぁね」
「一海くんこっちお願い」
「はーい。遥、いつもの席で待ってろよ」
「私も手伝おうか?」
「おじさんに聞いてみなよ」
そりゃ、俺まで働きだしたら遥だけ座ってるわけにもいかないもんな。遥の性格なら当然だ。
俺がキッチンに戻ると遥は皿洗いをしていた。
「代わろうか」
「いいよ。私やるから」
「美人はホールにいる方がいいだろ。手も荒れるしな」
「今日はこれやるの」
真面目なんだか、頑固なんだか。遥も手伝うなら……俺はいいか。エプロンを放り投げて俺は奥の階段から三葉の部屋に向かった。
「おーい。三葉。入るぞ」
勝手にドアを開けると、三葉はベッドで寝ているようだった。
「いつまで寝てるんだよ」
「んん……」
俺はベッドの横に座って、三葉の顔を眺めていた。
「ん……あ、一海?」
「おはよ」
三葉は目を覚ますと、目を擦りながらゆっくり起き上がった。
「昨日、寝てないのかよ?」
「……一晩中、二湖が隣で寝てたの」
「……添い寝?」
「……ばか。今の一海みたいに座ってたの」
「なんであいつ……」
「私が服を掴んでたみたいで……」
「なるほど、優しいな二湖は」
「それに気づいてから眠れなくて……」
三葉は小さくあくびしながら伸びをした。どうやら思っていたのと全然違うようだ。
「もう昼になる。お前がいないと大変だろ」
俺は三葉の頭を撫でながら言った。
「一海は……そうやってすぐ頭を撫でたりするけど……」
「なんだよ」
「二湖はいつもそばにいるだけ……」
「……」
「どうして?」
「……知るか。そんなこと」
俺は立ち上がって部屋から出ようとした。
「ねぇ……」
「ん?」
俺はドアの前で振り返った。
「二湖は私のこと……どう思ってるのかな」
「……二湖に聞けよ」
「うん……」
「お前は……どう思ってるんだよ。二湖のこと」
三葉は俯いたまま黙っていた。いや、何かを考えてるようだった。
「私が……二湖のこと好きだって言ったら、一海にフラれたからだと思われる」
「ははっ」
「何がおかしいのよ」
「いや、なんでもない」
「一海にこんな話するんじゃなかった!」
「……早く来いよ?」
俺は三葉の部屋を出た。はぁ。
わざわざ二湖に話すようなことはしない。でも、ポロッと何かの拍子に話してしまうかもしれない。三葉が余計なことまで話すから、俺の身体は少しだけ重たくなった……。




