EP3-8 「Time waits for no one.」
四人で過ごす初めての夜。問題はお風呂だった。
三葉が「一海の後はなんか嫌だ」とうるさい。
「一海、覗かないでよ?」
そんな三葉が俺を睨みつける。
「そんなに気になるなら家で入ってこいよ」
「私が見てるから、大丈夫よ三葉ちゃん」
遥はずっと微笑みながら、三葉のわがままを聞いていた。
「初日から頭が痛い」
俺はガシガシと頭を掻きながらソファーに倒れ込んだ。
「兄さん、映画でも見る?」
「あぁ、お前の好きなのでいいよ」
「兄さんはどんなのが好きなの?」
そういえば好きな映画の話なんてしたことなかったな。
「好きな映画か……」
「恋愛は見ないんだよね?」
遥が俺の横に座りながら言った。
「んー俺はたぶん、なんでも一緒だ」
結局、二湖と遥が二人で話し合って、青春恋愛アニメ映画を見ることにしたようだ。俺も最初は座り直してちゃんと見ていたが、「Time waits for no one.」辺りで眠たくなってきて、そこからは覚えていない。
俺が目を覚ますと遥の匂いがした。いつの間にか遥にもたれかかって寝ていたようだ。その遥が泣いている。
「んー」
俺が伸びをすると遥と三葉に睨まれた。どうやら良いシーンらしい。二人とも涙目だ。あれ、三葉? 二湖じゃなかったっけ? 今、聞いたら殺されそうだ。
俺は遥と反対方向に寝転んで、ボーッとテレビ画面を眺めていた。やがて映画はエンディングを迎えた。いくら二人が通じ合っていても、離れ離れになってしまったらそれはハッピーエンドと言えるのだろうか。全部見てたらまた違ったのかな。
「空いたよ」
風呂場の方を見ると、バスタオルで頭を拭きながら、二湖が出てきた。そうか、三葉と入れ替わりで風呂に入ってたのか。
「一海くん先に入る?」
「いいよ。遥行ってこいよ」
「ありがとう。私は覗いてもいいからね?」
「お前ら、俺のことをなんだと思ってるんだよ」
「ふふっ、じゃあお先」
遥が風呂場に入っていくと、俺はもう一度ソファーに寝転がった。
二湖もソファーの前まで来たが、立ったままで動かない。どうやら俺の長い足が邪魔らしい。
俺が膝を曲げてやると、空いたスペースに二湖が座った。
俺は足を伸ばし、二湖の太ももの上に足を置いたが、二湖は無反応だった。こういういたずらは反応してもらわないと困るな。
そのまま横になっているとあくびが出て、また寝てしまいそうだった。
「なぁ、二湖……」
俺が身体を起こしながら言うと、二湖はこちらを見ながら人差し指を口元に当てていた。二湖にもたれて三葉が寝ているようだ。
なんだよ。良い雰囲気じゃん。俺はにやける口元を腕で隠しながら、横になっていた。
いつの間にか……また寝ていた。誰かが俺にキスしてる。眠たい目を擦ると、遥が微笑んでいた。
「お風呂空いたよ」
「あ、あぁ……」
衝動が走る。
俺は遥の頭を捕まえて自分の方に引き寄せると、もう一度キスをした。もっと……と思って我に返った。
「はぁ……二人きりじゃないんだった」
「二人きりだよ?」
部屋を見回しても二湖と三葉の姿はなかった。
「でも……なぁ……」
「……部屋で待ってるから」
遥は俺の耳元で囁くと自分の部屋に入って行った。
俺が浴室に入ると、男二人暮らしのときと違う匂いがした。遥のシャンプーの匂いなのかな。ドキドキする。
さっきまで寝てたせいか、目が冴えてきた。さっさとシャワーだけして出るか。
風呂場から出ると下着とズボンだけ穿いて、リビングに戻った。ソファーの背もたれにTシャツをかけると、そのまま背もたれを乗り越えて腰掛けた。
タオルで濡れた髪を拭きながら遥の「部屋で待ってるから」という言葉を思い出していた。
こういうのは待たさない方がいいんだろうか。でも、あんまり早く行きすぎても盛ってるみたいだしなぁ。とりあえずコーラだ。
冷蔵庫からコーラを出して、コップに注ぐ。コップを持ち上げて……ふと、遥の部屋を見た。少しドアが開いていて、遥がこちらを見ている。
「ははっ……っ」
俺は慌てて口を塞いだ。多分、二湖も三葉も寝ているのに、大きな声で笑ってる場合じゃない。しかし、笑いは止まらない。遥のヤツ、なにやってんだ。
コーラを一気に飲み干して、俺が遥の部屋の前まで来た時には、すでにドアは閉まっていた。
「入るぞ」
小さく断ってから、ドアを開けると目の前に遥が立っていた。
「……遅い」
少し頬の膨らんだ遥は可愛かった。
「悪い」
俺は後ろ手でドアを閉めると、そのまま遥を抱きしめた。
俺が腕に力を込めると、同じだけ遥は抱き返してきた。
遥の体温と匂いに包まれて幸せな気持ちになっていると、遥がふっと力を抜いた。俺も腕を緩めて顔を覗き込む。
一瞬、見つめ合ってキスをした。先ほどリビングで出来なかった深い口づけ。
唇が離れると、遥の呼吸が乱れていて、ゾクゾクした。背中に回された遥の手に力がこもる。
「遥……」
「……」
「声……出すなよ?」
真っ赤な顔で小さく頷く遥をベッドの方に導いて、上から覆いかぶさった。
さっきまでの欲望はどこへやら……ずいぶんと心に余裕があった。反対に、余裕のなさそうな遥を見下ろしていると、自然と頬が緩んだ。
俺は遥の唇だけでなく、耳や首すじ、お腹、服がはだけて露出してる部分にキスをした。吐息をかけるようにゆっくりと。
「ん……ぁ……。一海……我慢できない……」
「……すげぇかわいい」
「…………いじわる」
もう少しだけ、この夜が続けばいいのに。




