EP3-2 愛情?欲望?
それから何日か後の放課後。二湖の家のソファーで遥とダラダラ過ごしていた。
「この前さ」
「なぁに?」
「遥をここに連れてきた日」
「う、うん」
遥の顔が少し赤くなった。
「あの日、遥を送って行ったあと、ひまわりに寄ったんだ?」
「二湖くんと話したの?」
「あぁ」
「二湖くん、何か言ってた?」
「俺に遥の事が好きか? って」
「なんて答えたの?」
遥は俺の肩に頭を乗せながら言った。
「好きだよって」
「ふふっ」
遥は嬉しそうに笑っていたが、続きを話さないといけない。
「なぁ遥。人を愛することってなんだ?」
「急にどうしたの?」
「二湖が言ったんだよ」
「なんて言ったの? 二湖くん」
「僕はもう諦めることにした。人を愛することを」
遥は俺の方を見ながら、何か考えていた。
「二湖くんは誰かを愛していたけど、それを止めたってことかな」
「誰を?」
「あなたじゃない?」
「……なんでそれを諦めるんだ?」
遥は俺の身体に腕を回すと、優しく抱きしめてきた。
「それは、二湖くんに直接聞いた方がいいかな」
「あぁ、そうするよ」
俺は遥を自分の胸に抱き寄せた。こうして遥の匂いや体温を感じていると、衝動がグワッと身体の中から溢れてくる。
「なぁ、遥」
「んー?」
「こうしてると……襲いたくなる」
「ふふっ」
「これは愛情?」
「え?」
「それとも、ただの欲望?」
「んー、あなたのそれが、ただの欲望だったら……」
「うん」
「もう押し倒されてると思う」
「……我慢してるだけだよ」
「じゃあ、今日は我慢ね」
「……」
こちらを見ながら、いたずらに笑う遥が愛しかった。
我慢できないと思ったから、遥とは反対の方に寝転がった。
「どうしたのかな?」
遥はニヤッとしながら身体の上に乗っかってきた。
「今日は欲望を抑えて、愛について考えるんだ」
「……かわいい」
俺が遥から顔を背けていると、首筋の辺りにキスをされた。
「ねぇ……遥。爆発しそう」
「我慢は?」
そう言いながら首を傾げる遥と目が合って、何かが爆発した。俺は遥を抱き上げるとそのまま部屋に連れていき、欲望に負けてしまった。
「はぁ……」
ため息が出る。結局、体力の限界まで遥に欲望をぶつけて、我に返った。
俺の腕を枕にして遥が寝ている。俺は遥をちゃんと愛せているんだろうか。
「一海! いるか?」
玄関の方から父さんの声がした。こっちに来るなんて珍しいな。
「いるよ! すぐ行くから待って」
「ん……」
「ごめん。父さんが来たみたいだ」
「うん……」
俺は慌てて服を着て、リビングに出た。
「どうしたの?」
「これからひまわりで二湖のことを話す。お前も同席しろ」
「ちょっと待って、遥がいるから先に送ってくるよ」
「わかった。ひまわりで待ってる」
俺は慌てて部屋に戻った。
「遥、ごめん、急ぐ」
「聞こえてた。一人で帰れるけど?」
「いいよ。送ってく」
俺は遥の手を取った。自分から手を繋いだのは、初めてだった。遥は何も言わず、いつもより強く手を握った。
遥を送って、俺がひまわりに戻ると、いつもの席に父さんと二湖が座っていた。
「お待たせ」
「二湖、小日向さんを呼んでくれ」
「うん」
二湖がおじさんを連れて戻ってくると、そのまま二湖とおじさんが並んで座り、俺は父さんの横に座った。
「すみません、お時間をいただいて」
父さんが軽く頭を下げた。
「いえいえ、話とはなんですか?」
「二湖のことですが、美冬が亡くなって、うちで引き取ろうと思っています」
「はぁ」
「二湖には不憫な思いをさせた。これからは自由にさせてやりたい」
俺は二湖をずっと見つめていたが、二湖は少し俯いたままで何も言わなかった。
「小日向さんにずっとお世話になっていましたが、バイトを辞めさせようと思っています」
「お世話だなんて……うちも助かってますし」
「しかし、このままずっとここで働かせてもらうわけにもいきません。これからは学業もさせなければなりませんし」
「二湖くんの判断に任せるというのは?」
「二湖はまだ子どもです。それに私はこの子にそんな苦労をさせたくない」
「それは私もそう思っていますが……」
二湖は突然立ち上がって、足早にひまわりを出て行ってしまった。
「田中さん。やはりあの子の気持ちを最優先にしてもらえませんか?」
「すみません。もっと二湖に話を聞くべきでした」
「父さん。ここは二湖にとって家みたいなもんだから。苦労とか辛いとか思ってないと思う」
「……そうだな」
「私からも二湖くんの話を聞いておきます」
おじさんはそう言うと立ち上がって仕事に戻っていった。
「二湖はどこに行ったんだ?」
「家に帰ったのかな……」
俺は父さんと二湖の家に戻ったが、真っ暗で人の気配はなかった。
「あいつ……どこに行ったんだ」
「一海、あいつが帰ったらお前からも話を聞いておいてくれ」
「……わかった」
その日、二湖は家に帰って来なかった。




