EP2-11 双子
「来週の月曜日は二湖と出かけてくるよ」
遥と練習の合間に話していた。
「それが二湖くんのお願い?」
「そう」
「かわいいお願いね」
「それの前にさ」
「ん?」
「遥と別れてくれ……って」
「それで? 別れ話?」
遥はいたずらな顔で俺の顔を覗き込んだ。
「……馬鹿」
「……三葉ちゃんのためかしら」
「それ以外、考えられない」
「そうかしらねぇ……」
遥はなにか言いたそうだったが、それ以上は聞いてこなかった。
そして月曜日になった。
俺がまだ不自由なのと、二湖の希望もあって、美術館に行くことになった。
「ありがとう兄さん」
「ほら、行くぞ」
二湖と駅で合流して、美術館までは電車で移動だ。
「全部出してやるけど?」
「交通費ぐらいは自分で払うよ」
「そっか」
二湖と並んで電車に乗るのは、あの県大会の決勝以来だろうか。
「どうしたの兄さん」
「いや、お前と電車に乗ったのはいつぶりかなって」
「最後は兄さんの大会の日だったね」
「あぁ、そうだったっけ。めちゃくちゃ昔に感じるよ」
「……そうだね」
会話らしい会話はそれぐらい。最近はひまわりに行かなくなったとはいえ、ずっと一緒にいたんだ。今更、なにを話せばいいのかわからなかった。
美術館に着いてからもそれは続いた。二湖は熱心に作品を見ているが、俺の方はやっぱりよく分からない。ずっと二湖の様子を眺めていた。
「兄さん、双子だって」
「んー?」
「この作品。タイトルが双子」
「へぇ」
その作品は、赤と青の帽子を被った二人にも見えるし、一つの塊のようにも見えた。
二湖はずいぶんとその絵を眺めていた。自分なりの解釈でもしているのだろうか。
「行こう」
「もういいのか?」
「うん」
ほんとに二湖はこんなことがしたかったんだろうか。これぐらいなら、たまには付き合ってやってもいいのかもしれないな。
「ねぇ兄さん、最後にまた絵を描かせてよ」
「鏡見て描けって」
「なんでも聞いてくれるんでしょ?」
「わかったよ」
近くの公園に連れて行かれ、ベンチに座らされた。
「動かないでよ?」
「わかってるよ」
二湖は真剣な眼差しでこちらを見ている。
「ホントは脱いでほしいんだけどなぁ」
「ヌードモデル?」
「そう」
「三葉に言えよ」
「ぶん殴られるよ」
「ははっ」
二湖と二人きりの時間は俺にとっても特別だった。気を使うこともなく、使われることもなく。
遥といる時でも、もっと……。
離れて暮らす双子だからだろうか。心が休まった。
やがて、二湖がスケッチブックを閉じた。
「終わった?」
「うん」
俺は立ち上がって身体を伸ばした。モデルってのも楽じゃないな。
「二湖、ラーメン食いに行くか」
「うん」
俺たちは地元に戻ってから、カウンター席に並んで、ラーメン食べた。
「たまにはラーメンもいいだろ?」
「……うん」
「どうした?」
「……美味しいね、兄さん」
「あぁ」
いつもならあっという間に食べ終わる二湖が、今日はやけにゆっくりと箸を動かしていた。話しかけても返事が遅い。
ラーメンを食べ終えると、そのまま帰路についた。
「じゃあ、また明日な」
俺がそう言うと、二湖が抱きついてきた。
「ありがとう兄さん」
「なんだよ。どうした?」
「なんでもない。じゃあね」
なんだよ……。
二湖の姿が見えなくなるまで、その場で見送った。
誰もいない真っ暗な家に帰って、水を飲んだ。ギプスを濡らさないように、ビニールを被せてシャワーを浴びる。その後はソファーでテレビを見て、自分の部屋に戻った。
ベッドに寝転がっていると、美術館で見た双子の絵のことを思い出した。二湖はあの時、なにを考えていたんだろう。
その時、父さんの部屋の電話が鳴り出した。こんな時間に誰だ。父さんかな?
「はい、田中です」
「こちら警察の者ですが、ご遺体の身元確認をお願いしたく、ご連絡しました」
「……え? 父はまだ帰ってきてませんけど」
「そうですか。では、お父様がご帰宅されましたら、病院の方へお越しいただけますか? 場所の方は……」
「はい。わかりました……」
電話を切った。
ご遺体ってなんだ。身元確認って……。
一体、何が起こってる……。




