EP2-10 本気?
退院はしたが、ギプスに松葉杖の生活。遥の練習を眺める毎日だった。
「どう? まだ痛い?」
「いや、無茶しなきゃ大丈夫」
遥は俺のギプスを触ってから隣に腰掛けた。
「左足には魔法かけなかったから」
「こっちが壊れるとは思わなかったもんな」
「早く治りますように」
左足に手を置きながら、ほっぺにキスをされた。
「練習中にそんなことしてたら怒られるぞ」
俺がグラウンドの方を気にしていると、遥は何食わぬ顔で立ち上がった。
「タイム落とさないようにしないと」
「俺のせいでタイムが落ちたとか言われたら、シャレにならん」
「フラれない限りは大丈夫かなー」
俺がフラれる可能性の方が高いだろ。
「そうだ。今日は二湖に用事があるんだった」
遥は振り返ると、不安そうな顔をした。
「ひまわり?」
「あぁ」
「……何の用?」
俺は松葉杖を握り直して立ち上がった。
「あの時のリレーな、二湖にお願いされたから出たんだ」
「うん」
俺はそこまでの経緯を話した。
「一海くんは、二湖くんと三葉ちゃんをデートに行かせたと?」
「そう。その代償がアキレス腱断裂」
遥は俺の左足を見つめていた。
「二湖くん、相当ショックなんじゃない?」
「だろうな。顔には出さないけど」
「それで慰めに行くの?」
「まぁそんなとこ」
「どうやって?」
「三葉のために走るのが二湖のお願いだったからさ。今度は、二湖自身のお願いを叶えてやりたいんだ」
「それ、本気で言ってるの?」
遥は俺ににじり寄ってきた。
「どうして?」
「だってあなた、嫌々でリレー走ったんでしょ?」
「まぁ」
「それでこんな怪我して」
「うん」
「まだお願いを聞いてあげるの?」
「あぁ」
「……そっか。みんなが一海くんを好きになる理由、ちょっとわかった気がする」
遥は少しだけ寂しそうに笑った。
「二湖と話すだけだから」
「うん」
遥は小さく頷いた。俺は遥の頭をそっと撫でるとグラウンドを後にした。
二湖と話すだけとは言っても、三葉にも会うことになる。
ダメなんだろうなきっと……。
ひまわりに着いて、そっとドアを開けた。
「一海くん。いらっしゃい」
「こんにちは。三葉いる?」
店の奥の方にいる三葉と目が合った。すると、プイッと顔を背けて二階へと上がって行った。
なんで向こうが怒ってるんだよ。怒りたいのはこっちだろ。
「兄さん、いらっしゃい」
「おぅ、ちょっと話あるから後で来てくれよ」
「うん。すぐ行けると思うよ」
「あと、コーラ頼む」
「わかった」
俺はいつもの席に座って二湖を待った。
「はい、兄さん。話って?」
すぐに二湖がコーラを持ってきて、そのまま向かいの席に座った。
「こないだのお願いのことだけど」
「あぁ、悪かったよ。あんなお願いしなければ……」
「違うって、あれは三葉のお願いだろ? お前は何かないのかよ」
「は?」
「お前の願いも聞いてやるよ」
「兄さん。本気で言ってる?」
こいつと遥は実はすごい気が合うんではないか。いつも同じことを言ってる気がする。
「本気だよ。なんか言ってみろよ」
「……少し考えさせて」
「あぁ」
二湖は店内を慌ただしく動いていた。もう少しかかりそうだな。
俺は机に突っ伏すと、すぐに寝てしまった。
「兄さん」
「んー」
「兄さん、起きて」
「あ、すまん」
俺は頭を掻きながら、立ち上がった。そして、コーラを注ごうとコップを手に取った。
「やろうか?」
「頼むわ」
「兄さんも疲れてるんだよ」
「なーんにもしてない」
「その足じゃ大変でしょ?」
「まぁな」
二湖はすぐにコーラを持ってきてくれた。
「それで、お願いは決まったのか?」
「あぁ。でも、兄さんには叶えられないかな」
「どうして?」
「無理だから」
「なんだよ。言ってみろよ」
「遥さんと別れてほしい」
二湖は真剣な顔でそう言った。
「……ん? なんて?」
「無理でしょ?」
「は?」
「兄さん、遥さん大好きだもんね」
俺は二湖を睨みつけた。
「当たり前だろ。いい加減にしろよ」
「じゃあ、僕とデートしてよ」
「デート?」
「どこか行こうよ。二人で」
「それがお前のお願い? そんなもんいつでも……」
「二人で出かけたことなんてないじゃないか」
確かになかった。三人で出かけることは何度かあったが、二湖と二人で出かけたことは記憶にない。
「わかったよ」
「じゃあ今度の月曜日に」
「二湖」
「なに?」
「さっきのは、なんだよ?」
二湖はニコッと笑うと「冗談だよ」と言った。




