EP2 美人マネージャー
「じゃあ今日はここまでだ」
先生が教室から出ていくと、皆がざわざわと帰り支度を始めた。俺は最後に配られた部活動についてというプリントを眺めていた。
「一海、部活するの?」
「三葉はどうすんだよ。また陸上部のマネージャーか?」
「いや、私は家の手伝いしようかなって」
「そっか。二湖もずっとバイトだろうな」
「それで?」
「ん?」
「一海は?」
なんでそんなに気にするんだよ。
「俺は何もやらないよ」
「……そっか」
「なんだよ、残念そうだな」
「私、一海が走ってるのを見るのが好きだったから」
三葉は嬉しそうに笑った。
「大会で一海が走るの、楽しみにしてた」
三葉は笑ったまま、少しだけ遠くを見るような目をした。
「……それは悪かったな」
「おい、一海!」
「なんだ?」
隣のクラスの里崎幸太郎だ。中学時代に俺と同じ陸上部だった。
「陸上部に美人マネージャーがいるらしいぞ。見学に行こうぜ」
「なんだよそれ」
「いいから早く行くぞ」
「ちょっと」
俺は幸太郎に腕を引かれ、無理矢理、廊下に出された。振り返って三葉を見たが、目が合わなかった。
「あー、疲れた」
俺がひまわりに入ると、三葉が振り返った。
「おかえり一海」
「兄さん、コーラでいい?」
「あぁ、頼む」
時計を見るともう五時を回っていた。
「どうだった? 美人マネージャーさん」
三葉はコーラをテーブルに置いて、向かい側の椅子に腰掛けた。
「いなかったんだよ」
「いなかった?」
「どうやら今年入るマネージャーが美人だとか何とか」
俺は三葉の顔を見た。
「何よ?」
「いや……」
まさかな。
「その後、実は野球部だとか、いやバレー部だってあちこち回ってさ」
「それで? 美人は見つかった?」
「いや……いなかったよ」
「残念ね」
「三葉ー!」
「呼ばれたから行ってくるね」
「あぁ」
あの二人は、もうここが部活みたいなもんだな。俺も入部するか。イケメンマネージャーで。
「何の話?」
今度は二湖が座った。
「陸上部の美人マネージャーの話だよ」
「三葉のこと?」
「…………」
「兄さん?」
「お前……」
「どうしたの?」
「いや……」
二湖は何でもないことのように首を傾げていた。
「僕おかしなこと言った?」
「いいのいいの」
「なんだよ……」
「今日はこれ飲んだら帰るよ」
「もう、ゆっくりしていけばいいのに」
「じゃあな」
俺はひまわりを出て、家へと向かった。
なんとなく振り返ると、店の窓から二湖と三葉が見えた。二人で何か話している。
俺はしばらく立ち止まっていた。
…………。
帰るか。




