EP12 大会
ある日の放課後。二湖と並んで、ひまわりに向かっていた。
「一海くん」
遥が追いついてきた。
「おぅ」
「こんにちは」
「ねぇ、今度、大会があるの。見にこない?」
「遥が出るのか?」
「そう。まだ地区予選だけどね」
「三葉と行ってきたら?」
二湖がさらっとそんなことを言う。
「あいつは……」
「三葉は喜ぶんじゃない?」
「じゃあ、三葉ちゃんに聞いてみて」
「……あぁ」
遥はそれだけ言って、そのまま行ってしまった。見送った俺は二湖の顔を見た。
「お前どういうつもりだよ?」
「三葉は兄さんと出かけたいと思うよ?」
「そうだとしても陸上なんて……」
「兄さんはわかってないなぁ」
二湖は呆れ顔で左右に首を振っていた。
「陸上? 行こうよ!」
その後で三葉に聞いてみると、あっさりと答えた。
「え?」
「お母さん、次の日曜日休んでいい?」
どうして三葉が遥を見に行くんだよ。てっきり、なんで私が行かなきゃいけないの。って、言われると思ってた。……ほんとに行くのか。
「一海、ちゃんと来てよ?」
「そんな疑うような目で見るな」
「前科がありますからね」
「ちゃんと行くよ」
「僕は行かないからね」
「わかってるよ」
二湖は嬉しそうに俺を見ていた。
「お前、なんでそんな嬉しそうなんだよ」
「だって、三葉があんなに嬉しそうじゃないか」
「恋敵じゃなかったのか?」
「恋敵だよ?」
「……なんだよ」
「兄さんだって、僕と三葉をデートさせて、喜んでたじゃないか」
「何言ってんだよ。チケット代も払ったし、一日仕事してたんだぞ俺は」
それでも……嬉しかった。あの時、俺は嬉しかったんだ。
「そういうことだよ」
「……あぁ」
大会の日になった。
三葉とは駅前で待ち合わせた。
「一海、待った?」
「待った」
「じゃあ行きましょ」
「……」
俺たちの街から電車と徒歩で一時間ほど。地域で唯一の競技場。地元の大会は、だいたいここで行われる。
「遥さんは百だけ?」
俺たちはまばらな観客席に座っていた。
「知らん」
「あなたねぇ。早く探して聞いてきなさい」
「へいへい」
フィールドに下りてくると、昔のことを思い出した。そうそう、あの辺にみんなで荷物置いて。懐かしいな。
「一海くん!」
思い出に浸っていると、遥が先に見つけてくれた。
「あーよかった。三葉が何に出るか聞いてこいって」
「今日は百メートルと二百も出るわ」
「プログラムみたいなのない?」
「選手の受付に行ったらもらえるんじゃないかしら」
「あー、そうだっけ。じゃあ聞いてくる」
「うん」
「がんばれよ」
「ありがと」
俺は受付でプログラムをもらって、三葉のところへ戻った。
「二百もだって」
「やっぱり。遥さん、二百の方が向いてそうだもん」
「そうかな」
「一海は二百ダメだったよね。あ……ごめん」
「何が?」
「昔の話はしないんだったね」
「こんなとこまで来て何言ってんだよ」
俺は座席に寝転びながら言った。
「前はあんなに怒ってたのに」
「そう……だったかな」
「それより見ないの?」
「遥を見に来ただけだから」
「見てたらやりたくならない?」
俺は身体を起こした。
「十三秒だぞ? 十三秒」
「何が?」
「体力テストの結果だよ」
「速いじゃない」
「ばーか。遥より遅せぇよ」
俺はもう一度、寝転んだ。
「遥さんって速いのね」
「みたいだな」
雲を眺めたり、目をつぶったり。たまにスタートの電子音と歓声が聞こえてくる。陸上大会だなぁ。
「あれ、遥さんじゃない?」
「どれ?」
起き上がってフィールドを探した。次の組かな。
「ドキドキするね」
「なんでお前がドキドキするんだよ」
「だって……勝ってほしいじゃない」
「……まぁ、負けて泣いてるやつを励ますのはダルいけど」
「一海は知らないのよ」
「……」
遥の番がきた。
「勝って喜んでる時が一番カッコいいんだから」
位置について、よーい、ドン。
「遥さん、綺麗ね」
「あぁ……」
ほんと、いいケツしてる。
遥の速さは予選だと圧倒的だった。そして三葉の言う通り、文句のつけようがない綺麗なフォームだった。
「おめでとう遥さん」
競技を終えた遥と合流した。三葉は遥と楽しげに話している。
「なぁ、ひまわり行くけど、遥も来るか?」
「いいの?」
「あぁ、優勝祝いにオムライス奢るよ。三葉が」
「あなたが奢るんでしょ!」
「じゃあお言葉に甘えて」
俺たちはひまわりに戻ると、いつもの一番奥の席に座った。
いつも二湖と三葉が並んで座り、俺の隣が空いているのだが、今日は遥が座っていた。狭い。
「遥さんって綺麗なフォームで走るんですね」
「ありがとう」
「まぁ、俺の方が綺麗だけどね」
「そうよ。中学の時に見てから、一海くんのフォームを参考にしてるの」
「それでか。私、遥さんのこと好きになっちゃった」
「あら、可愛いわね」
俺が女子の会話にうんざりして二湖を見ると、いつもの笑顔で俺の方を見ていた。




