EP10 ただの?
地元の商店街を歩いていた。
「こっち?」
「そうよ。あの角を曲がった所」
通い慣れた道だった。
「あの角……」
「そう。一海くんの家もこの辺なんでしょ?」
「まぁ」
「それなら、行ったことあるかも」
店の前に着いた。ここは色々とまずい。
「ねぇ、ここはやめない?」
「どうして? ほら入ろ」
遥がドアを開けて入っていく。
「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
「ええ」
「あれ、一海ちゃん?」
「……ども」
「お父さん! 一海ちゃんが女の子連れてきたよ!」
あーあーあー。
「一海ちゃんって? やっぱり知ってるお店?」
「……まぁ」
その時、二湖が店の奥から顔を出した。
「兄さんが女の子を?」
「……よぉ」
「ほんとだ。いらっしゃい」
「一海くんにそっくり……」
「双子の弟なんだよ」
「二湖です」
「遥です。よろしく」
「こちらの席にどうぞ」
いつもの席とは違う所に案内された。今日はお客様だと言われてる気がした。
「びっくりしたわ。中から一海くんが出てくるんだもの」
「学校でもあいつは目立たないから」
「二湖くんがいるからここはやめようって言ったの?」
「いや……」
階段を慌ただしく下りる音がした。二湖の野郎。わざわざ三葉を呼びに行きやがったな。
「いらっしゃいませ。一海! ちょっとこっち来なさいよ」
「なんだよ」
三葉は遥に笑顔で挨拶したかと思えば、俺の腕を掴んだ。
「ちょっ……」
「来なさい」
三葉に店の奥まで引っ張られた。
「誰よ?」
「二年の藤原遥さんだよ」
「は?」
「ほら陸上部の美人マネージャー。選手だったけど」
「それがどうして一海と?」
「俺が聞きたいよ」
俺は掴まれた腕を払って席に戻った。
「ごめんね」
「あの子は誰?」
「私は一海の保護者です」
三葉が俺の隣に座った。
「なんだよお前は」
「あの、お二人はどういったご関係で?」
「ただの友達だよ」
「……ただの」
遥が俯く。俺と三葉は顔を見合わせた。
そして睨まれる。
「いや……三葉、オムライス」
「は?」
「遥もオムライスでいいよね?」
「……うん」
俺を睨んでいた顔が、驚きに変わり、呆れに変わった。面白いヤツだ。
「……かしこまりました」
ようやく三葉がいなくなって、遥が口を開いた。
「仲良しなのね」
「あぁ、あいつは幼なじみなんだ」
「ただの?」
遥は俺の顔を覗き込むように首を傾げた。
「ただの……」
俺はキッチンの方にいる三葉を見た。ただの幼なじみ。大切な? なんだろう……。
「そんなに見つめて。好きなの? あの子のこと」
「え?」
「好きなのね」
「家族みたいなもんだよ。三葉は」
「そう」
「ここも家みたいなもの」
「……いい所ね」
その時、二湖がコーラを一つ持ってきた。
「遥さんも何か飲まれますか?」
「私は食後にコーヒーをいただくわ」
「かしこまりました」
二湖は丁寧に頭を下げると、他のテーブルの食器を回収しながらキッチンに戻っていった。
「一海くんは手伝わないの?」
「あー、たまに皿洗うぐらい」
キッチンに目をやると、三葉がこちらを睨んでいるが、あまり気にしないようにしよう。
「さっきね」
「うん?」
「あなたが、走るのが好きなんじゃなくて、速いのが好きだったって言ったとき」
「あぁ」
「私、ハッとした」
「どうして?」
「私はどうなんだろうって。速く走れなくなったら、陸上を続けられるんだろうかって」
「そんなもん」
「え?」
「そうなってから考えりゃいい」
「……そうね」
「みんなが、過去の自分とコンマ一秒を競ってる時に」
「えぇ」
「俺は、過去の自分の二十メートル後ろにいた」
「……」
「心が折れた。いや、折れる心すらなかったよ」
「……あなたを陸上部に誘うのは諦めるわ」
「……」
「でも、あなたのことは諦めないから」
「……え?」
三葉がドンッとオムライスを置いた。
「お待たせしました。ごゆっくり」
なんだこれ。俺のオムライスだけいつもの三倍ぐらいある。
「あなたのはいつもそれなの?」
「いや……まぁ、よく食うから」
三葉のヤツ……。嫌がらせだろこれ。後で覚えてろよ。
しかし、遥が何か言っていた気がするが、よく分からなかった。
とりあえず、オムライスを食おう……。




