4.分からないことだらけで
「あの、これが、部屋……?」
ぎゃんぎゃんわんわんわおーん……篠崎くんを迎える犬の鳴き声が響いていたその部屋の扉を開けると、ものすごい光と突風に目を開けていられなくなった。
そして、きつく閉じていた目を開くと、目の前には緑いっぱいの自然が広がっていた。
どう考えても部屋の中ではない。
室内ではありえないほどの解放感と、目の前に広がる空と芝生が美しい大地。
さきほど、確かに私たちは犬の鳴き声が響く部屋の前に立っていたはずだ。
もしかすると、部屋の扉ではなく、外へ続く扉だったのか……と私が考えて後ろを振り返るとそこにあの大きな屋敷はなく、代わりに遠くの方にお城のようなものが見えた。
「…………」
隣の篠崎くんが何か知っているかと思ったが、突然の変化についていけないのか固まっている。
「あの、篠崎くん?」
「……った……?!」
「え、何どうしたの?」
なんだか篠崎くんの様子がおかしい。拳を握りしめ、下を向いて震えている。
「俺のかわいこちゃんたちどこ行った?!」
絶望的な顔をして、篠崎くんは大声で叫んだ。
まぁたしかに、言われてみれば先ほどまで部屋の中から篠崎くんを待っていた99匹の犬はどこに行ったのかは気になる。
しかし、全く知らない空間に放り出されてしまったというのに、一番に気になるのは犬のことなのか……。
「ねぇ、篠崎くん? わんちゃんも気になるけど、まずここがどこなのか知りたくない?」
犬たちを探して、緑広がる大地を走っている篠崎くんを追いかけて私は恐る恐る尋ねる。
「そんなことより! あのこたちを探さねぇと……! 今頃寂しくて泣いてるかも……俺がいてやらねぇと……!」
その切羽詰まったような篠崎くんの様子に、私はもう何も言えなくなった。
(きっと、犬を必要としているのは篠崎くんの方なんだ)
何が篠崎くんをそうさせたのか、私にはわからない……それでも、目の前で必死に犬を探す篠崎くんを、何故だか放っておけなかった。
「私も探す……!」
ここがどこかは分からないし、犬が消えた理由も、篠崎くんが必死な理由も、何もかも分からないことだらけだけど、篠崎くんの力になりたい!
私がそう意気込んだ時、突然黒い影に囲まれた。
「お前たちは何者だ?」
ドスのきいた低い声、なんだか良くない出来事に巻き込まれそうな予感がする。
「そういうお前らこそ、黒いマントなんて被って何者だ?」
さすが喧嘩慣れしている篠崎くん、得体の知れない相手にも、動じない。
私は篠崎くんを初めて心強く思いながら、成り行きを見守る。
「俺たちか? 俺たちはなぁ……」
男がもったいぶって言葉を区切った時、ビューっと強い風が吹いて、男たちが被っていた黒いマントが飛んでいった。
「な、なんだと……?!」
篠崎くんが驚愕の表情で彼らの姿を見つめる。
ぴんと立った耳、クンクンと動く鼻、ふわふわの毛並み。
篠崎くんが驚くのも無理はない。
彼らは、犬だったのだ。
篠崎くんの愛する犬が、二足歩行で鎧を着て武器を持っていた。
「ど、どういうこと……?」
しかも武装した犬は一匹だけではなかった。
ざっと見ただけでも十匹はいる。
この状況には、さすがについていけない。
そして、別の意味で衝撃を受けている篠崎くんはもう使い物にならない。
「あやしい奴らめ……お前らだな。我らが姫をさらったのは」
リーダーのような犬が、威嚇するような声で私たちを見て言った。
いやいや、本当に何のことだか分からない。
しかし二足歩行のかわいくない犬たちによって、私たちは捕らえられてしまった。
犬相手に、篠崎くんは何の役にも立たなかった……。




