13.恋だとは認めたくないので
頭がぼうっとする。瞼が重い。
私の身体は、かたくてしっかりした何かに運ばれているようだ。
振動が少しずつ現実味を帯びてくると同時に、意識もはっきりしてきた。
目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
「え、ちょ、あの……っ!」
あわあわと口を開閉すれば、近すぎる距離の篠崎くんが怒ったような声を出す。
「黙ってじっとしてろ」
「は、はい……」
私はどういう訳か篠崎くんにお姫様だっこされている。
本当に、どうしてこうなった!
倒れた私を運んでくれているのは有り難いし、置いて行かれなかったことは心底嬉しい。
しかし、せめておんぶがよかった。という私の願望を篠崎くんが理解してくれるはずもなく、私は真っ赤になる頬を両手で押さえて羞恥に耐えなければならなかった。
(私は犬じゃないのに……なんで、無駄に優しい手つきなの)
できるだけ私の身体に衝撃がないように、気遣ってくれているのがわかる。
犬にしか興味がないと分かっているはずなのに、こんな風に大切に扱われると調子が狂う。
いつもみたいに突っ込みを入れる気力がない。
何か話しかけようと思っても、私が口を開くと篠崎くんはむっとしてしまうから、結局は黙り込むしかない。
そんな訳で、きらるたんのかわいらしい声と、足音と、風に揺れる木々の音だけが私の耳に届く。
無言が嫌な訳ではないが、なんだか気まずい。
頭は少しめまいが残っているが、自分で歩いた方が篠崎くんにお姫様だっこされるよりもいい。
心臓がおかしな鼓動を刻んでいる。
このままでは緊張で死んでしまいそうだ。
「あの、やっぱり私、自分で歩く……」
真上にあるのは、威圧感たっぷりの篠崎くんの顔。
だから、私は目をそらしてもごもごと主張してみた。
けれど。
「まだ呂律もまわってねぇ奴が何言ってんだ。それとも何か、俺の腕に不満でもあるのか!」
「いやっ! そういう訳ではなくて……」
むしろ篠崎くんの腕は鍛えられてるだけあってすごく頼もしい。
同じクラスの委員長みたいにひょろっとした軟弱男子だったらいつ落とされるのかヒヤヒヤものだろうけど、篠崎くんの腕は安心できる……と、そこまで考えて、また私の顔は熱くなる。
普段まったく活動しない乙女心が今急速に活動をはじめてしまっている。危ない。
(このままじゃ、篠崎くんのことを本気ですきに……)
ぎゅっと目を閉じて心臓を落ち着けようと努力していると、篠崎くんが大きな声を上げた。
「きらるたんっ! なんて良い子なんだ!」
そのメロメロな甘い声に目を開けると、もう森を抜けていた。
しかも、目と鼻の先に建物が密集している一帯がある。
町、だろうか。
ようやく、人――ではなく犬がいるところに出られたようだ。
きらるたんを褒めちぎっている篠崎くんを見て、私は冷静になる。
断じて、私は篠崎くんのことを恋愛的な意味で好きではない。
クラスメートとして、興味を持っているだけだ。
ストーカーのような行為をしていたためにこんな事態に巻き込まれたのだが、私はもとから篠崎くんのことは好きではない!
「じゃあまずは宿探しだ」
「どうして?」
私が真っ先に思い浮かんだのは、地図を手に入れることだった。
しかし、先を急ぎたいはずの篠崎くんは宿屋だと言う。
「お前が休むために決まってんだろ」
その一言を聞いて、落ち着いていた私の心臓はまた暴れ出す。
やめてください、本当に違うんです、これは恋のドキドキなんかではなくてっ!
自分で自分に言い訳をしてから、私は口を開いた。
「……ありがとう」
驚くほど小さな声になってしまったが、まぁ至近距離にいるのだから篠崎くんに聞こえていないはずはない!
ラブなんて一切ない、元の世界に戻ることだけを胸に旅に出たはずだった。
それなのに、私は篠崎くんのせいでいっぱいいっぱいだ。
これが恋ではありませんように、と私は心の中で祈った。




