第98話 驚きの事実と提案
怒りに満ちた少女の魔法が放たれる。
その火球はクロナとブラナめがけて、勢いよく降ってくる。
「お嬢様!」
「ブラナ、ここは私に任せて下さい!」
クロナをかばおうと立ちふさがるブラナだが、いかんせん魔法の威力が強すぎる。
クロナは聖女の力を吸使い、障壁を展開する。
障壁と魔法が衝突すると、その場に大きな衝撃波が伝わる。少女の魔法よりもクロナの障壁が強かったため、少女の放った火球はその場で霧散してしまった。
「うそでしょ……。この私の魔法が弾かれるなんて」
少女は片手で顔を押さえながら、信じられないと驚きを隠せずにいた。
「うそだといいたいのは、こちらですよ。メープル、生きていたのですか?」
障壁を展開させた状態で肩で息をしながら、クロナは少女に問いかけている。
そこにいた少女は、かつて自爆によって散ったはずのメープル・ホーネット伯爵令嬢とうり二つだったのだから。
「はっ、あんな姉と一緒にしないでちょうだい……」
「姉ですって?」
少女の放った言葉に、ブラナが表情を歪めている。
確かによく見てみると、メープルにはなかったほくろが、首筋にぽつりとついている。いや、なかったというよりはドレスやチョーカーによって隠されて見えていなかっただけかもしれない。だが、目の前の少女には、はっきりと首筋のほくろが見えている。
「私はフォリッジ・ホーネット。ホーネット伯爵家の忌み嫌われた、メープルの双子の妹よ」
「なんですって」
「メープルは一度もそんなことを言っていませんでした。そんなはずはないのです」
自分の名前を名乗ったフォリッジから聞かされた事実に、クロナは動揺を隠しきれない。自分の親友だった少女が、隠し事をしていたなんて信じたくないのだ。
そんな中、フォリッジは話を続けている。
「それはそうでしょうね。私は姉の存在を知っているけれど、向こうは私のことを知らされずにいたんですからね。挙句、私を秘密裏に捨ててくれたからね」
「捨てた? あのホーネット伯爵家が?!」
クロナもブラナもショックを隠し切れない。
イクセン王国の中でも名家と名高いホーネット伯爵家だ。そのホーネット伯爵家にそんな汚点があるだなんて一切知らなかったのだから。
「私を捨てた連中は言っていたわよ。双子は不吉だから、片方は捨てるか殺すかしろと。だけど、私は姉のスペアとして生かされ続けた。しかし、去年のある時、私は唐突に捨てられた。魔力を封印された状態でね」
「そんな……」
「事実だとするならば、ホーネット伯爵家の存続にかかわるようなお話ですよ」
動揺するクロナとブラナの姿を見て、フォリッジは顔をにやけさせている。
聖女と呼ばれる人物の動揺を誘えて、かなり満足しているようなのだ。
「捨てられた私は、魔族に魔力の多さを理由に拾われた。そして、今回、魔王様によって私は、その力を認められたの。私を見出してくれた魔王様のため、お前たちはここで殺す。コークロッチヌスもろとも滅ぼしてくれる!」
フォリッジから強力な魔力があふれ出す。あまりにも強い魔力がゆえに、クロナとブラナは思わず防御態勢を取ってしまう。
ところが、その攻撃は放たれることはなかった。
「フォリッジ、ちょっと待ってもらおう」
「ま、魔王様? なぜ止めるのですか」
フォリッジの身長の二倍はあろうかという大男が現れる。その身体的特徴は、ブラナが対峙したクラウンとどことなく似た感じがあった。
魔王と呼ばれたその男は、クロナたちの方をじっと見つめている。
「ふむ。お前がイクセンの聖女か。頭に面白いものが生えているな」
「ま、魔王が、なぜこんなところに……」
「お嬢様、私がお守りします。下がっていて下さい」
見下すように話しかける魔王を目の前にして、クロナは完全に怯えてしまっている。ブラナはクロナを守ろうとして魔王を睨みながら短剣を構えている。そのブラナも、強大な力を目の前にして、体を震わせていた。
一方の魔王は、とても冷静にクロナたちのことを見ている。
「話を聞かせてもらおうか」
「何を語るようなことがあるというのですか。私たちは敵対関係にあるのですからね」
魔王が静かに語りかけると、ブラナが声を荒げて抵抗している。だが、体を震わせているような人物の強がりなど、今の魔王にはまったく意味がなかった。
「どうして、本来ならイクセンの守護者として重宝されているはずの聖女が、王国の人間、しかも実の父親から命を狙われているのだ。余にはよく分からぬ。敵対関係にあるとはいえど、力になれるやもしれぬ。よかったら、話してもらえるか?」
思いもよらない魔王からの言葉だった。
どうやら、邪神がかけた呪いは、魔王は対象外のようである。
その話の内容を聞きながら、フォリッジはものすごい形相でクロナを睨みつけている。クロナと魔王が話していることが、どうやら気に食わないようだ。
「フォリッジ、そんな顔をするでない。この状況はうまくいけば積年の恨みを晴らせる状況やもしれんのからな」
「魔王が、何を言っているというのです。お嬢様、魔王の言葉に耳を傾けてはなりません!」
魔王の言葉を聞いていたブラナは、クロナを必死に守ろうとして訴えている。
だが、クロナが出した結論はこうだった。
「いえ、お話をするだけなら構わないでしょう。これまで散々命を狙われてきましたので、話だけで戦いを回避できるのであるのなら、それもまたよいではありませんか」
「お嬢様……。承知致しました」
ブラナはクロナの判断を受けて武器をしまい込む。
どうやらクロナは、魔王の提案を受け入れたようだった。




