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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第97話 深まる混迷

 クロナとブラナ、コークロッチヌス子爵とその部下、さらには謎の少女と、事態は混迷を深めている。

 コークロッチヌス子爵が自分に対して執着を深めているように見ると、クロナは右往左往する兵士たちへと声をかける。


「みなさん、お父様の代わりに、コークロッチヌス領をお守りください。このままでは控えている魔族たちが一気になだれ込み、コークロッチヌス子爵領は壊滅します!」


 魔法を使って父親の攻撃を受け流しながら、クロナは兵士たちに必死にお願いをしている。

 本当なら、こんな領地なんていうのは放っておきたかった。

 しかし、直前に大きな魔力の波動を感じたクロナは、聖女としての自覚からか動かざるを得なかった。そこで、アジトのことをイトナに任せ、クロナと二人で打って出てきたのだ。

 今の状況は予測していたものの、クロナは自分が出てきて正解だったとみている。

 その理由は、ブラナが相手をしている少女だ。少女の力は、どの魔族と比べてもかなり強い。まともにやり合えば、コークロッチヌス子爵領は焼け野原になっていただろう。


(あの魔力の大きさは、ブラナにも荷が重いと思われます。なんとしても、お父様をこの場から引き離さねば……)


 ちらりと私兵の方へと視線を向けるものの、困ったことに兵士たちが動く気配がない。これにはさすがにイラッときてしまう。


(この者たち、自領を守る気持ちがないのですか?)


 コークロッチヌス子爵の娘として、次期聖女として、クロナは怒りを覚える。

 このような者たちが、どうして王国の防衛線となりえるのか。クロナはコークロッチヌス子爵の剣を魔法で受けながら、唇を強くかみしめている。


「はーっはっはっ、ざまぁないわね、クロナ・コークロッチヌス!」


「ぐっ!」


 少女の高笑いに、クロナは悔しさをにじませている。


「ふん、ここまで腰抜けどもとはな! お前たち、魔王様にいい手土産を贈るチャンスだ。コークロッチヌス子爵領を、腰抜けごと潰してしまえ!」


 少女がブラナに対して牽制の魔法を放つと同時に、空に向けても魔法を一発放つ。

 それが合図となって、周囲に大きな地響きが起きる。


「な、何事だ?!」


「た、大変です。魔族と魔物が、こちらに大量に押し寄せております!」


「なんだと!?」


 偵察に出ていた兵士からの報告を聞いて、コークロッチヌス子爵はものすごく驚いている。そして、クロナの方へと視線を向けている。


「ぐぬぬぬ……。この憎たらしい魔族を殺してやりたいものだが、そういう状況ではなくなったようだな」


「だから、さっきからそう言っているではありませんか! 聞き入れなかったのはお父様ですよ!」


「お父様と、呼ぶなぁっ!」


 悔しがる子爵に、クロナは怒りのひと言をぶつけている。だが、その呼び方を聞いて逆上した子爵は、クロナに向けて剣を横薙ぎしている。

 だが、その渾身の一撃も、クロナの魔法によって防がれてしまう。一応ひびを入れられただけ、子爵の力のすごさは示せたようである。


「いいか、すぐに戻ってくる。戻ってきたら殺してやるから、おとなしく待っているのだな! 行くぞ、お前たち!」


「はっ!」


 捨て台詞を吐いて、ようやくコークロッチヌス子爵は魔族討伐へと向かっていく。

 ようやく厄介払いをできたことで、クロナはひと安心したようだ。

 だが、まだ気の抜ける状況ではない。

 ブラナと戦う謎の少女が残っているからだ。

 元暗殺者であり、魔族として生まれ変わったブラナは、かなりの腕前を持っている。そのブラナをして、五分以上の勝負をしている少女。一体何者だというのだろうか。

 その一方で、クロナもブラナも、謎の少女に対して何かを感じ取っているようだ。なにか、知っているような不思議な感覚を覚えてしまう。

 しかし、その少女は一貫して強い敵意をクロナたちにも向けている。

 この状況で少しでも気を抜けば、少女の魔法でやられてしまいかねない。クロナたちは緊張の戦いを強いられることになる。


「ふふっ、クロナ・コークロッチヌスと戦えるとは光栄ね。魔王様のため、その首、この私がもらい受けるわ!」


「やれるものなら、やってみるといいのですよ。お嬢様には、この私が指一本触れさせません」


 挑発を続ける謎の少女に対して、ブラナは睨みを利かせて対峙している。

 パッと見の状況は五分のようにも見えるのだが、少女の方は呼吸の乱れがないのに対し、ブラナの方には少し疲れが見える。いくら魔法が得意だからとはいえ、暗殺者であるブラナに対してここまで息を乱さずに戦い続けられるというのは大したものである。


「何を言っているのよ」


 少女はあごを上げて見下すような仕草をする。


「私は魔法を使うのよ? 指一本、触れる必要なんてないのよ!」


「無詠唱?!」


 かなり大きな火球を、少女は瞬時に作り出していた。


「焼け死ねぇっ!」


 同じセリフを吐きまくっているのだが、今回ばかりはシャレにならない状況だ。

 このまま放たれてしまうのは仕方がない。だが、火球が大きすぎただけに、今回は少女に大きな隙が生まれている。


「はぁっ!」


 その隙を狙い、ブラナは少女に対して短剣を投げつける。


「ちっ!」


 ところが、少女はその攻撃にも反応している。首をずらし、短剣を躱す。だが、躱しきれずに着けている仮面に当たってしまったようだ。


「しまった!」


 少女の叫び声とともに、仮面に隠されていた素顔が露わになる。


「えっ?!」


「ありえません。そんなわけがないのです!」


「お前たち、よくも見たな……? 形すら残させない。燃え尽きてしまえ!」


 驚き戸惑うクロナたちに対して、少女は発生させた火球を渾身の力で放つのだった。

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