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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第95話 打って出る子爵

 コークロッチヌス子爵領。


「子爵様、大変でございます!」


「なんだ、騒々しい」


 先日の魔族の襲撃のこともあり、こまめに領地を確認しに戻っていた子爵の元に、騎士の一人が駆け込んできた。

 かなり血相を変えており、それだけ緊急事態だと思われるのだが、子爵は明らかに不機嫌である。

 その時の鋭い視線に対し、報告きた騎士は思わず一瞬怯んでしまう。だが、あまりの緊急事態ゆえに、ぎゅっと気を引き締めて改めて姿勢を正して子爵と向かい合う。


「報告いたします。国境付近の森の奥に、魔族どもの姿を確認いたしました」


「……数は」


「はっ、尖兵と思しき魔族たちが二十ほど確認されております。おそらくは背後に本体が待ち構えているものと思われます」


 騎士の報告を受けた子爵は、かなり表情を険しくしている。

 魔族が二十ほどというのは、種類によっては普段から見られないわけでもない。低級種族ともなれば、集団生活をするような魔族だって存在はする。

 だが、子爵がここまで警戒するのには理由がある。それは、子爵領内ということだ。

 普段から厳しく警邏を行い、都度退治してきた経緯があるからこそ、これだけ険しい表情をしているというわけだ。


「間違いなく、こちらの様子を窺うための尖兵だな。まったく……、性懲りもなく、また攻めてきたか」


 子爵は椅子から立ち上がる。


「すぐに用意をしろ。打って出るぞ」


「はっ!」


 コークロッチヌス子爵の指示を受けた騎士は、すぐさま子爵私兵の招集に向かう。


「ふん。このコークロッチヌスにケンカを売ろうなど、片腹痛い。最近、虫の居所が悪いからな、お前たちで憂さを晴らさせてもらうぞ!」


 コークロッチヌス子爵は外套を羽織ると、騎士たちを鼓舞するために外へと出て行った。


 子爵私兵たちを目の前にして、コークロッチヌス子爵はじっと睨みつけるような視線を向け続けている。

 今は戦いを前にした状況だ。この程度の視線で怯むような軟弱者は要らないということなのだろう。


「兵士諸君、どうやら魔族どもが、再び俺たちに対してケンカを吹っかけてきたようだ」


 子爵が話を切り出せば、兵士たちの間に動揺が広がっている。

 なにせ前回のクラウンと少年型の魔族がやって来た時には、たった二人の魔族相手にかなり翻弄されたのだ。兵士たちも苦手意識を持ってもおかしくないというわけだ。

 ところが、子爵の視線をまったく変化を見せない。少しくらい同情を見せると思ったのだが、そんなことはなかったようだ。


「魔族相手に怯むような軟弱者は、さっさとこの場から往ね。コークロッチヌスの兵士は勇敢な者ばかりだ。魔族どもに、イクセンの守護者としての力を見せつけてやろうではないか!」


「おおーっ!」


 補給部隊に兵糧の準備を指示すると、コークロッチヌス子爵は精鋭部隊を率いて領都から国境へと向けて出発する。

 短期間で二度の襲撃を受けることに少々疑問を感じたものだが、子爵にとっては些細な問題。おのれの力を誇示できるのであるならば、なんだっていいのである。

 領都から出発した子爵たちは、あっという間に国境付近の森へと到着する。

 子爵の到着を発見した国境警備隊の兵士が、報告をするために駆け寄ってくる。


「子爵様、現状を報告いたします」


「うむ、聞こう」


 駆け寄ってきた兵士からの報告を、馬上に跨ったまま受ける子爵である。状況によってはすぐに打って出られるようにするためだ。

 去年のクロナの誕生日以降というもの、子爵は魔族に対して激しい憎悪というものを抱いている。魔族を自分の娘として紛れ込ませられたのだから、当然といえば当然だろう。邪神の策略というものがなければだが。

 さらにはそのことで自慢の息子が死に、さらには領民まで苦しめられたという事情までもが重なったので、このような状態になるのも無理もない話なのだ。


「本体が後ろにいる可能性がある。警戒しつつ進む。俺に続けっ!」


「おーっ!」


 報告を踏まえた上で、子爵は兵士の一部を率いて、森の中へと突撃していく。

 森の中をどんどんと進んでいくと、魔族たちの姿がちらほらと目に入る。


「おりゃあっ!」


「ギャワーッ!」


「でりゃあっ!」


「グオオォンッ!」


 子爵が剣を振るえば、魔族たちは一撃で沈んでいく。

 さすがはイクセンにその人ありといわれるコークロッチヌス子爵である。

 相手は下っ端魔族とはいえど、いともたやすく一刀両断してみせていた。


「おおっ、さすが子爵様!」


「子爵様、万歳!」


 さすがの実力を目の当たりにして、兵士たちの士気が上がっていく。

 これは決して悪いことではない。悪いことではないのだが、子爵の中には、不思議と妙な胸騒ぎが巻き起こり始めていた。


(いくら斥候とはいえど、手応えがなさすぎる。いや、この手応えであるならば、通常は逃げるところだろう。だが、なぜ立ち向かってきた……?)


 そう、斥候としてうろついていた魔族たちの動きが気になったのだ。

 少し考え込んだ子爵は、何かを感じ取る。


「総員、一時退却する。嫌な予感がする」


 子爵が声を上げた時だった。

 先程までなんともなかった上空から、とんでもない魔力の塊が現れたのだ。

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