第89話 結界の復活
スォームビートルたちは、クロナから託された宝石を持ってイクセン王国の王都へと向かっている。
今現在、拠点としている洞窟の壁から掘り出した、光り輝く石。それに、クロナの神聖力を封じ込めた。スォームビートルたちが持っているのは、そういった石である。
王都から戻ってきたばかりだというのに、すぐに王都に向かわされているスォームビートルたちだが、主であるクロナに対して文句を言うものは誰一匹としていなかった。むしろ、聖女であるクロナの役に立てるとあって、すすんで役目を引き受けていた。
『聖女様のご命令だ』
『必ず果たしてみせるぞ』
『王都に急げ!』
闇夜に紛れながら、スォームビートルたちは一心不乱に道中を駆け抜けていく。
必死に駆け抜けていった結果、スォームビートルたちは目的地となる王都にたどり着いた。
『着いた着いた』
『あとはタイミング』
『聖女様、気付かれないように夜に行ってほしいって言っていた』
『日が暮れるのを待とう』
王都に着いたものの、クロナからの言いつけを守るために、スォームビートルたちは一時的に身を潜めることにしたようだ。
なぜこんなことをクロナが言いつけたかというと、自分の力をできるだけ王都の人間に察知してもらいたくないからだ。今は王国中から命を狙われている身である以上、極力その存在を秘匿にする必要がある。そのため、多くの人の意識が寝静まる夜を指定したというわけなのだ。
スォームビートルたちは忠実なるクロナの眷属ゆえに、その言いつけをしっかりと守ろうとしているわけなのだった。
やがて、日が落ちる。
そろそろ頃合いかと、スォームビートルたちが動こうとしたその時だった。
「虫けらどもが、何をしにきた」
スォームビートルたちの前に、聞いたことのある声が響き渡る。
顔を上げてみると、そこにいたのはバタフィー王子だった。
『げぇ、王子?!』
『王子に気付かれた、どうする?』
『ボクたちはどうなっても構わない。聖女様の言いつけを守るんだ!』
スォームビートルたちは散り散りになって逃げようとする。
ところが、その様子を見たバタフィー王子は何かに気が付いたようだ。
「まて。お前たちは一体何を持っている?」
問いかけられたスォームビートルたちはぴたりと動きを止める。
バタフィー王子から発せられる気迫に、スォームビートルたちは恐れを抱いているのだ。
実際、バタフィー王子とクラウンの先頭を目の当たりにしていることも、大きいだろう。逆らったら殺される。虫であってもそのくらいの恐怖心を抱いても不思議はないのだ。
スォームビートルたちが動きを止める中、その中で光り輝く石にバタフィー王子が手を伸ばす。
「ふむ……、神聖力を閉じ込めた石のようだな。魔物がこのような石を平然と持っていることは驚きだが、これをどこで手に入れたというのだ」
バタフィー王子はスォームビートルたちに問いかけている。
だが、相手が魔物では、その質問に対してまともな答えが返ってくるわけもなかった。なにせ魔物との間でまともな言葉を交わせるわけがないのだから。
バタフィー王子はハッとして、頭を押さえて首を横に振っていた。
「まったく、よく分からんな」
スォームビートルたちを目の前にして、バタフィー王子はなにやら頭を悩ませているようだ。
普通、魔物であればすぐに討伐するところなのだが、バタフィー王子は目の前の虫たちを殺せずにいた。いくら前回、クラウンを追い払うために共闘したとはいっても、なかなかにおかしな感情である。
頭を左右に振ると、バタフィー王子は改めてスォームビートルへと視線を向ける。
「その石に宿る神聖力からすると、この王都に結界を張ろうというわけだな」
バタフィー王子が確認するように問い掛けると、スォームビートルたちは一度体を起こして再び伏している。どうやら、人間でいうところの首を前後に振る行動をしているようだった。
その姿を確認したバタフィー王子は、パンと自分の膝を打っている。
「分かった。俺も手伝わせてもらおう。この王都に、魔族どもを入れるわけにはいかんのだからな」
まさかの協力の言葉に、スォームビートルたちも驚いている。
「お前たちが持つ石は全部で五つ。それを頂点として結んだ星型の図形の中心。そこで俺が力を使えばいいのだろう。どうやら俺にも、聖女の持つような力が宿っているようだからな。きっとうまくいくさ」
そういったバタフィー王子の頭に、クロナの顔がパッと浮かんでくる。
だが、すぐにバタフィー王子は激しく首を横に振っていた。
(いやいや、なぜ今、あの魔族の顔が頭に浮かんだのだ。くそっ……)
バタフィー王子は歯を食いしばりながら、怒りに満ちた表情を浮かべていた。
しかし、すぐにその表情を引っ込める。今はそれどころではなかったからだ。
「よし、すぐにでも行動に移そう。魔族を入れなくする状況を作り出すのは、一刻で早い方がいいからな。さぁ、早くいけ」
スォームビートルたちに命じたバタフィー王子は、散り行く姿を確認すると、星型の模様の中心となる場所へと向かっていく。
バタフィー王子は必死に否定しているようだが、思わぬ形でクロナとの共同作業が行われようとしているのだった。




