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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第88話 ささやかな助力

 引き続き調査を行う一部のスォームビートルを残し、バタフィー王子と一緒にクラウンを撃退したスォームビートルたちがクロナのところへと戻ってきた。


『ただいま戻りました、聖女様』


「ご苦労さま。異常はありませんでしたか?」


 特にやることもなく、暇を持て余しているクロナが、スォームビートルたちの声に反応している。

 クロナは元々は普通の少女で聖女候補だったのだが、邪神の介入で頭に触角が生えて以降、虫の声が分かるようになっていた。このスォームビートルたちと会話ができるのも、その影響だ。

 クロナに質問されたスォームビートルたちは、なんとも渋った反応をしている。


「……何かあったのですね。教えてください、王都で何があったのでしょうか」


 間に異常を感じたクロナは、慌てた様子でスォームビートルたちに問いかけている。その様子を見たスォームビートルたちは、自分たちが調査に向かった王都で何があったのかを話し始めた。


「なんですって、魔族が侵入したですって?」


 クロナはとても驚いている。

 まだ十歳とはいえど、聖女としての能力はしっかりと目覚めていた。そのクロナが十歳を前にして張り直した結界の中に、魔族が侵入したのだという。それはかなりショックのようだった。


「……あの日以降のごたごたで、結界が弱まったのでしょうかね。それで、王都は大丈夫でしたか?」


 クロナは十歳とは思えない様子で、スォームビートルに迫っている。

 頭に触角が生えて王都を追われて以降、兄や親友に命を狙われたこともあって、精神的にかなり追い詰められたせいだろう。荒みつつも、かなりしっかりとした心の持ち主になっていた。


『王子が追い払ったので、とりあえずは無事』


『だけど、クラウンとかいう魔族がばら撒いた宝石が、悪さをすると思う』


『王都の中で問題が起きる。聖女様を狙う連中が減る。聖女様安泰』


 スォームビートルはいろいろしゃべっている。

 特に、王都が混乱に陥ればいいというような言葉には、クロナはつい頷いてしまう。

 邪神によって心が捻じ曲げられ、クロナへの好意が強ければ強いほど、反転して憎悪が強くなる。シュヴァルツやメープルがクロナたちに襲い掛かってきたのも、そのせいだ。

 ブラナは強い精神力によって抗っていたものの、それでも一時的にその術に落ちてしまっていた。

 そういったことを考えれば、このまま王都が混乱に陥っていることは、三年間という時を生き延びなければならない自分にとっては好都合なのだ。

 だが、心が荒んでしまったとはいっても、クロナはそもそも優しい心の持ち主だ。すべての運命が戻ることになる三年後というタイミングで、イクセン王国が残っていなかった場合はどうなるのか。そのことを考えると心が痛むのである。

 壊れたように思えたクロナの心も、まだ何とか必死に持ちこたえていたのである。


「いかがなさいますか、クロナ様。クロナ様は命が狙われているお立場。いくらイクセンを守るとはいえ、こちらから打って出るわけにはまいりません。王都を守るのは、無理だと思われます」


 話を聞いていたブラナが意見をしている。

 確かにその通りなのだ。邪神の手によって運命が捻じ曲げられてしまっている以上、クロナは王都どころか、王国民に一切近づくことができない。王国民に近付くということは、襲撃の機会を与えてしまうことになりかねないからだ。

 戦いになれば、当然ながら、相手を殺さないといけなくなる。いや、クロナが殺す気がなくても、相手が勝手に死んでまで襲い掛かってきてしまう。それは、兄のシュヴァルツ、親友のメープルで体験済みだ。

 なんにしても、実に悩ましい限りである。

 自分は襲撃されないような状況を保ちつつ、王都を守護しなければならない。その難しい課題に、クロナはしばらく頭を悩ませることとなった。


 数日間悩んだクロナは、ある対抗策を思いついた。

 それは、相手の使った方法を真似るというものだった。

 クロナのいる場所は、国境の山脈の中に掘られた穴の中だ。つまり、石ならばいくらでも存在している。

 ブラナとイトナの二人に手伝ってもらって、ある程度の大きさと輝きを持つ石を掘り出してもらったクロナは、その石に向かって魔法を使う。


「お嬢様、これは一体何を?」


「スォームビートルの報告にあった、クラウンが宝石を作って民を操ろうとしたというものから考え付いた方法ですよ」


 ブラナの質問に、クロナはにこりと微笑んでいる。

 答えたクロナは、集めた輝く石に一つ一つ聖女としての力を込めていく。

 全部で五つの石に力を込めたクロナは、スォームビートルたちにそれを託す。


「いいですか。王都を囲むように、五か所にその石を埋めて来て下さい。そうすれば、私の祈りの力が発動し、王都を守る結界が強まるはずです。そうすれば、魔族たちは中へと侵入できなくなるでしょう」


『ボクたちは?』


「お前たちは心配要りません。私の眷属であるのなら、私の力で張った結界など無視して侵入できます。引き続き、王都の状況の監視をお願いします」


『聖女様のお言葉のままに』


 クロナが頼みをすると、スォームビートルたちは宝石を持って、クロナの拠点から再び王都を目指して移動を始める。

 なんにしても、クロナにはまだ心配の種が尽きることはなかった。

 魔族の侵攻もだが、バタフィー王子や父親であるコークロッチヌス子爵の動向が気になって仕方ないのだ。

 このまま隠れ住んでやり過ごせればいいのだが、クロナは難しいだろうと考えている。

 スォームビートルたちを送り出したクロナは、複雑な気持ちでしばらく祈りをささげたのだった。

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