第85話 王都の宝石商
数日後、バタフィー王子は兵士を数人そろえて王都の中を歩いていく。
やって来たのは、王都の中でも比較的新しい宝石商だ。
「殿下、本当にここなのですか?」
「ああ、ここで間違いない。お前たちはここで待機していろ」
「はっ!」
連れてきた兵士を店の外に待機させて、バタフィー王子は店の中へと入っていく。
(うっ……)
中へと入った瞬間、バタフィー王子はとても気分が悪くなる。
別に中は変なにおいがしているわけではないし、いたって普通の雰囲気の店内だ。だが、バタフィー王子はものすごく不快感を感じている。
(この感じは……、どこかで感じたことがあるな)
店の中の雰囲気に気持ちが悪くなりながらも、バタフィー王子は冷静にその雰囲気を分析していた。
「当店へようこそ。おやおや、何か気分がすぐれないようですが、大丈夫ですかな?」
少し顔をしかめながら立つバタフィー王子を見て、店の主人が出てきて声をかけている。
ところが、その声を聞いた瞬間、バタフィー王子の動きがぴたりと止まる。
それもそうだろう。この時、バタフィー王子の耳に聞こえてきた声は、どこかで聞いたことのある声だったからだ。
バタフィー王子は声の主を確認する。
(こいつは……っ!)
気持ち悪そうにしていた表情が、一気に険しくなる。
だが、ここはまだ店に入ったばかりのところだ。いくら王子とはいえど、ここで問題を起こすわけにはいかないので、バタフィー王子はぐっとこらえている。
「これはどうも、心配をおかけしましたね。俺はバタフィー・イクセン。ちょっと貴店の宝石に興味があって、少し見せてもらいたい」
笑顔で宝石商の店主へと挨拶をしている。
自己紹介の名前を聞いて、店内にいた他の客たちも王子の来訪に気が付き、騒めきたっている。
騒がしくなる店内を見て、宝石商の店主はこれはしめたものという表情をしている。
「これは王子殿下でございましたか。当店の宝石に興味があるということでしたら、どうぞごゆるりをご覧になっていって下さい」
「ああ。だから、奥でゆっくり話をしたいといっているのだ。それともなにかな。なにか奥に行かれては困る事情があるとでもいうのかな?」
店の主人が売り場で済ませたそうに話をするも、バタフィー王子はまったく引かなかった。どうしても奥に行きたいと、がっちり食い下がっている。
ここまでバタフィー王子に食い下がられてしまうと、店の主人も困ったような反応を示すしかなかった。
さすがに一国の王子を無下に扱ってしまえば、その扱いがあっという間に評判として広まってしまいかねない。
そのことを危惧した宝石商の店主は、苦い表情をしながら、やむをないという感じという反応を示してしまう。
「承知致しました。では、貴賓室にてお話をいたしましょう」
「うむ。ぜひとも素晴らしい宝石を見させてもらおう。俺たち王族が身に着けるにふさわしい逸品をな」
奥へ案内されることが決まったバタフィー王子は、にこやかな表情で対応していたかと思うと、後半はなかなかにドスの利いた声を響かせていた。
あまりにもバタフィー王子の心の内が漏れ出た声だけに、宝石商の店主も顔を引きつらせてしまっている。
他の店員に売り場を任せた宝石商の店主は、店の奥へとバタフィー王子を案内している。
しばらく進んで貴賓室へと案内すると、中でしばらく待つようにとバタフィー王子に伝える。どうやら、店主自らが宝石を持ってくるらしい。
普通ならば、そういうこともあるだろうと思うところだが、バタフィー王子は店主が部屋を出ていった後、後をつけるために椅子から立ち上がっていた。
がちゃっ、がちゃがちゃっ。
ところが、扉をいくら開けようとしても、まったく扉が開く気配がなかった。
(ちっ、閉じ込めていきやがったか。となると、やはりこの建物の中には、人に見せてはいけないものがあるということなのだろうな)
びくともしない扉を前に、バタフィー王子は推理をしているようである。
とはいえ、このまま閉じ込められたままでおとなしくしているバタフィー王子ではない。なにせここにやって来たのは、数ある調査を経て怪しいとにらんだ場所なのだから。ここまでやって来て、何の収穫もなしに戻るわけにはいかない。
意を決したバタフィー王子は、自分に身体強化の魔法をかけ、改めて扉へと体当たりをする。
なんと、一発で扉が開いてしまった。どんだけ強化したというのだろうか、この王子。
(よし、なんとか部屋を出たな。さぁ、あいつは一体どこへといったのだろうかな)
建物の中を、じっくりと歩いていくバタフィー王子。
さすがに怪しいやつの化けの皮を剥ごうと意気込んでいるので、漂う魔力に気持ち悪くなりながらもしっかりと耐えている。
そんな中で、バタフィー王子は一層気持ちの悪くなる場所へと到着する。
(なんだ、ここは……。今までの比にならないくらい気持ち悪い場所だな……)
バタフィー王子が立っている場所には、ただ壁があるだけである。だが、この壁の向こうから、バタフィー王子が気分を悪くする魔力が大量に漏れ出してくるのだ。
だが、間違いなくここには何かあるのだろう。
怪しさを確信したバタフィー王子は、その壁へとそっと手を伸ばす。
バタフィー王子の手が壁に触れた瞬間、とんでもないことが起きる。ばらばらと壁が崩れていったのだ。
「はっ、隠し通路か。ということは、この先にここのとんでもない秘密があるということだな」
隠し通路を見つけたバタフィー王子は、ゆっくりと隠し通路へと進んでいくのだった。




