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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第102話 王子と隠された魔法少女

 バタフィー王子は、護衛の騎士たちとともにコークロッチヌス子爵領へと向かう。もちろん、案内を行うのはコークロッチヌスの家令だ。

 隣国との国境にも近い場所ということで、なんとも物々しいものである。

 ちなみに、この国境というのは、クロナの隠れている山脈の方とは違い、平坦な部分に森が広がっているというような場所である。ただ、クロナの隠れている山脈のアジトからは意外と近い場所なので、先日のようにクロナはあっさりと駆けつけることができたのだ。


「なんとも独特な雰囲気を持った場所だな」


 コークロッチヌス子爵領に入ったバタフィー王子は、そのように感想を漏らしている。


「それはそうでしょう。ここは隣国である軍事国家との国境にある上、魔族たちの住む場所からも近いとされております。イクセンの国を守るために、騎士も兵士も我々も日々鍛錬を積んでいるような場所でございますよ」


「なるほど。それは物々しくなるものだな」


 家令の説明を聞かされて、バタフィー王子はものすごく納得がいったようである。

 その途中、何かを感じ取ったバタフィー王子はぴたりと歩を止める。


「どうかなさいましたか、殿下」


「いや、何かを感じた気がするのだが、気のせいだったようだ。それでは、向かうぞ」


「はっ」


 同行している文官に首を傾げられたものの、バタフィー王子はなんでもないと移動を再開した。

 だが、バタフィー王子はその後も、何かが気になっているようで、先程の方向に何度も視線を向けていた。


 先触れを出しておいたおかげか、コークロッチヌス子爵邸に到着した時には、バタフィー王子は熱烈な歓迎を受けていた。いろいろとあった後とはいえど、王子が来るとなればきちんともてなさなければならない。貴族というのは大変なものである。

 ただ、到着した時間が遅かったということもあり、詳細な説明を受けるのは、翌日以降となった。やむを得ないというものだ。


 その日の夜、バタフィー王子は不思議と寝付けなかった。ずっと、自分に対する視線を感じていたからだ。

 ベッドに横になりはしたものの、眠れなかった王子は体を起こす。ベッドから立ち上がると、部屋の隅の方へと視線を向ける。


「さて、こんな夜分に誰かな? 姿を見せたらどうだい?」


 バタフィー王子が声をかけると、その先から、ゆらりとなんとも形容しがたい姿の女性が姿を見せた。

 その姿を見て、バタフィー王子は冷静に自分よりも年下の女性だと見抜いていた。


「その髪色は、ホーネット伯爵家のご令嬢かな。メープル嬢は、クロナとの戦いで命を落としたと聞いたのだけど……」


「ちっ……」


 バタフィー王子が語りかけてきた言葉に、女性は露骨に表情を歪ませている。


「なぜわかった」


「ホーネット伯爵家は、双子の存在を隠そうとしていたことは知っているよ。なるほど、秘匿された双子の妹の方か。その格好は、魔族の元にいるということでいいのかな?」


「……まったく、食えない王子様だことね」


 ひと目見ただけで全部を見破られたことに、少女は怒りをにじませているようだ。


「私はフォリッジ・ホーネット。仰られた通り、ホーネット伯爵家の隠された令嬢ですわよ」


「やっぱりね。双子らしく、よく似ている」


 正直に名乗ったフォリッジは、バタフィー王子の言葉に怒りをさらに募らせる。


「心配しなくてもいいよ。君がここに来たことは、誰にも言わない。気付かれて返り討ちにされたとでも報告すれば、信じてもらえるだろう。クラウンとやらも、俺とはいい勝負だったのだからな」


「く、クラウンですって? あれと戦って無事だったというの? あんたみたいな子どもが?!」


 バタフィー王子が話す内容に、フォリッジは表情を引きつらせていた。フォリッジもどこかでクラウンの実力を知ったらしい。おそらくは、魔王の代わりをさせられていることからの推測だろう。

 フォリッジは、バタフィー王子への警戒を強めていく。


「疑うのなら、クラウンに聞いてみるといいよ。とにかく、ここで暴れても君に勝ち目はない。子爵家を滅ぼせても、俺は殺せない」


「やってみなくちゃ分から……ひっ!」


 冷めた目を向けてくるバタフィー王子に襲い掛かろうとするフォリッジだったが、次の瞬間、体が凍り付いてしまう。

 どこから取り出したのか分からない剣を、フォリッジの首筋にぴたりと当てているのだ。

 フォリッジは魔法使いとはいえど、魔族の影響を受けてその能力は上がっている。だというのに、それでもまったく目で追えなかった。


「魔法を使うかい? その前に、君の首が落ちることになるけれど、それでもいいの?」


「わ、分かったわよ……。引き下がればいいんでしょ……」


 さすがのフォリッジも、命が惜しいようだ。


「よろしい。ああ、そのついでだけど、伝言を頼まれてくれるかい?」


 フォリッジの首筋に剣を当てながら、バタフィー王子は笑顔で語りかけている。あまりにも表情と行動が一致しないバタフィー王子に対し、フォリッジは恐怖を感じてしまう。


「な、何を伝えればいいのよ」


 死にたくない一心で、フォリッジはバタフィー王子の頼みごとを聞き入れることにした。

 上には上がいる。そのことを思い知らされたフォリッジは、命からがらコークロッチヌス子爵邸から逃げ出したのだった。

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