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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第101話 王都での新たな動き

 同じ頃、イクセンの王城内では、バタフィー王子が頭を悩ませていた。

 それというのも、王都を守る結界を発動させた際に、邪神の洗脳から逃れたからだ。

 王国内においては、一様にクロナのことを魔族として敵視している認識が広がっているため、バタフィー王子一人ではとても状況をひっくり返せそうにない。

 なので、表向きは今まで通りにクロナを敵視しながらも、どうやってその攻撃の手をクロナから逸らすかということを考えるようになっていた。

 タイミングを同じくして魔族の侵攻も始まったために、それでうまく目くらましができないかと考えたのだが、バタフィー王子の苦悩は続いている。


(あの日以降、俺の頭の中には、クロナを殺せという不気味な声が聞こえ続けていた気がする。だが、今はそんな声は聞こえてこない。なんだったのだろうな、あれは……)


 自室で勉強をしながら、ついクロナのことを考えてため息が出てしまうバタフィー王子である。

 そう、バタフィー王子は婚約者としてだけではなく、個人的にもクロナには好意を寄せていたのだ。だからこそ、邪神の反転の呪いで人一倍強いクロナへの殺意を抱いていたのだろう。

 洗脳の解けた今となっては、本当に後悔の念が尽きないというものだ。


(それにしても、クロナは今どこにいるのだろうな。ああ、君の顔が見たいというものだ)


 バタフィー王子は、クロナへの思いを募らせてしまっているらしく、気が付いたら勉強をする手が完全に止まってしまっていた。

 だが、王国中が敵に回ってしまっている現状を考えると、自分の想いがあるからと簡単に動けない。下手に行動すれば、そこからクロナに迷惑が掛かりかねないからだ。

 大きなため息をついて、バタフィー王子は今思い描いたことをすべて忘れることにした。


 それから数日後のこと、王都に衝撃的な話が伝えられる。

 魔族による大規模襲撃が報告されたのだ。その場ではクロナも姿を現したらしく、国王は由々しき事態として緊急会議を行うことを決定する。当然ながら、バタフィー王子も参加となってしまった。

 王城内の会議の間に招集され、バタフィー王子は国王の隣に座っている。他にも大臣や騎士団長など、それはそうそうたる面々が揃っている。ところが、問題のコークロッチヌス子爵だけは姿がなかった。


(コークロッチヌス子爵は事後処理のために領地に留まっているか……。まぁ、領主がいた方が何かと話は早いだろうしな。代わりにいるのは、家令か)


 バタフィー王子は、会議の場に座っているコークロッチヌス子爵の使いの姿をじっと見つめている。その人物は、クロナと会う時に見たことのある人物の一人なので、バタフィー王子もよく覚えている。

 子爵の父親よりも若いが、長年、子爵家に仕えている人物であるために信用の厚い人物には違いない。


「さて、魔族の襲撃があったということだが、コークロッチヌス子爵側からの報告を聞かせてもらおうか」


「はっ。旦那様は事後処理にあたっているがために、この私めで失礼をさせていただきとう存じます」


「うむ、仕方あるまい」


 会議の場に出席している国王は、コークロッチヌス子爵側の事情を配慮して、家令からの報告を了承している。

 話によれば、とんでもない魔法を使う女魔族が現れたとのことらしい。そこに割り込むようにしてクロナも登場して、三つ巴の戦いになったのだという。

 子爵はクロナのことをしつこく狙ったようだが、魔族がまだたくさんやってきているという情報を聞いて、やむなく魔族討伐に向かったのだという。しばらくすると魔族たちは撤退をしていき、コークロッチヌス子爵領の平和はなんとか守られたのだという。

 家令は子爵の強さにおののいて逃げていったと強く主張しているが、バタフィー王子だけは何かが引っかかっているようだった。


「どうした、バタフィーよ」


「いえ、父上。なんでもございません」


 バタフィー王子の様子が気になった国王が声をかけるも、バタフィー王子はハッとしてすぐにごまかしたようだった。

 だが、同時にコークロッチヌス子爵の家令に対して顔を向ける。


「すまないのだが、俺が子爵領に出向いても構わないだろうか」


「王子殿下がでございますか? いえ、さすがにそれは私めでは判断を致しかねます……」


 バタフィー王子の言葉に、家令は慌てふためいた反応をしている。なにせコークロッチヌス子爵の領地は辺境の地。魔族との戦いにおける最前線なのだ。そんな場所に王子を向かわせるわけにはいかないというわけである。

 ところが、国王は何かを感じ取ったようで、コークロッチヌス子爵の家令に対して命令を下す。


「バタフィーが見たいというのだ。悪いが、連れていってもらおう。王命である」


「はっ……。承知致しました」


 さすがに王命と言われてしまえば、家令に断わる権限はない。否、王国中を探してもこれを拒否できる人物は数えるほどしかないのだ。

 コークロッチヌス子爵の家令が受け入れる姿を見て、国王はバタフィー王子へと視線を向ける。まるで、これでいいのかと確認しているようだった。


(ありがとうございます、父上)


 国王の表情を見たバタフィー王子は、視線でお礼を言っていた。

 このことによって、バタフィー王子は初めてコークロッチヌス子爵領へと足を運ぶことになる。子爵邸は訪れたことはあるものの、それは王都にある屋敷だけだったので、本当に初めてのことである。

 はたしてバタフィー王子は、コークロッチヌス子爵領で何を見ることになるのだろうか……。

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