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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第100話 黒いクロナと誓いのブラナ

 現在の拠点となる国境の山脈の洞窟に戻ってきたクロナとブラナは、疲れ果てたかのようにその場に座り込んでいた。

 なにせ長距離を移動していった上に、魔王と遭遇したのだから、生きた心地はしなかっただろう。


『お帰りなさいませ、聖女様。すぐにお食事をご用意いたします』


 そのように話しかけてくるのは、アサシンスパイダーのイトナだ。見た目は気味の悪い巨大なクモのままではあるが、その瞳はクロナの眷属になったことでとても澄んだきれいな状態に変わっている。今ではブラナとともに、クロナの身の回りをしたり、周囲の警戒にあたったりする従者となっている。


「ありがとうございます。お願いしますね」


『はい、承知致しました』


 イトナはそのまま、調理をするために移動をしていく。

 その姿を見送ったクロナは、ブラナと顔を見合わせている。


「……驚きましたね、ブラナ」


「そうでございますね」


 腰を落ち着けながら、二人は静かに言葉を交わす。ただ、そのひと言の後は、どちらも言葉が続かなかった。

 それというのも、なんて言葉を続けていいのか分からなかったからだ。

 コークロッチヌス子爵領に近付いてきた不穏な空気を感じ取って、急いで向かっていったのはいいものの、そこで出くわしたのは驚きの連続。二人の気持ちはまだ整理がついていないのだ。

 もちろん、コークロッチヌス子爵の反応は予想通りだったので、二人にとってはどうでもいいことなのだが……。


「魔王が打って出てきたこともですけれど、フォリッジ・ホーネットとは驚きましたね、お嬢様」


「ええ、まさかホーネット伯爵家に、あんな隠された真実があるなんて思いもよりませんでした」


 再び黙り込む。

 実際、フォリッジ・ホーネットのことは驚きだった。

 クロナもブラナも、メープル・ホーネットのことはよく知っている。ホーネット伯爵家の令嬢であり、クロナにとっての親友である。魔法にも長けている上に、頭もとてもいい。ホーネット伯爵家の跡取りとして申し分ない能力を持っていた。

 だが、そんなメープルには隠された双子の妹がいたことは、一度も聞いたことがなかったのだ。あまりにも衝撃的なことに、二人としてはとても反応に困っているようである。


「……ある意味、今の私と似た境遇かもしれませんね」


「そうかも知れませんね。ただ、あちらの方が相当に恨みは強そうですけれどね」


「そうですね……。生まれてきたのになかったことにされた挙句、あのように捨てられてしまったのですからね。魔王軍に加担してしまう気持ち、よく分かります」


 ブラナが淡々と話すのに対して、クロナはフォリッジにかなり同情しているようである。

 どうにかして、彼女を救い出すことはできないのだろうか。クロナはそのように考えてしまう。

 しかし、ブラナはそのクロナの考えをやめさせる。


「お嬢様、私のように真っ当な道に必ず戻せるとお考えになるのはおやめください。相手はあの魔族の手に落ちているのです。暗殺者に手を染めていた私とは、わけが違うのですから」


「ブラナ……」


 ブラナの必死の訴えに、クロナは思わず言葉が詰まってしまいそうになる。

 しかし、クロナは大きく首を横に振った。


「いいえ、私は必ずフォリッジを表の世界に呼び戻してみせます」


「お嬢様、どうしてそこまで……」


 覚悟を決めたような表情を浮かべるクロナに、ブラナは確かめるように問いかけている。

 問いかけられたクロナは、にこりと笑みを浮かべている。ただ、その笑顔はちょっとだけ邪悪を秘めている感じだった。


「だって、その方がいいじゃないですか。そうですよ、さらに魔族たちと和解もできればいいですね」


「お嬢様、なぜそこまで……」


 なんとも悪い感じに話を始めたクロナに、ブラナは疑問を投げかけている。

 驚くブラナに対して、クロナは黒い笑みを浮かべる。


「だって、その方があの役立たずのじじいと、私の運命を狂わせた邪神に一泡吹かせられるじゃないですか。ふふっ、私を弄んだ罰というものを、しっかりと受けてもらおうじゃありませんか。うふふふ……」


 クロナは、それはとても名案とばかりに、心の底から笑っている。

 その姿を見て、ブラナはやはりクロナの心は壊れてしまっていると確信した。

 コークロッチヌス子爵領に出向いた時は、以前の優しいクロナに戻ったと思ったのだが、どうやら思い違いだったようである。

 しかし、今のブラナは、昔のような暗殺者ではなく、クロナの侍女だ。クロナに対して自分の身を捧げる覚悟を決めているので、このような痛々しい状態になったとしても、その誓いは曲げられないのだ。


「しょうがありませんね。私はクロナお嬢様の侍女でございます。お嬢様の向かうところであるのなら、地の果てだろうが地獄だろうが、どこまでもお供いたします」


「ありがとう、ブラナ。必ず二人で、三年間、生き延びましょうね」


「はい、もちろんですとも」


 この時の笑顔を見て、やはり自分はクロナからは離れらないなと悟るブラナである。

 話がちょうど終わる頃、食事を用意し終えたイトナがやって来る。

 イトナを労うと、クロナはブラナとともに食事を食べ始める。

 この時の食事は、いつもちょっとおいしいかなと感じるクロナなのであった。

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