33話「幕間2-1・ラインハート16歳・城下町の出会いとクロードへの借り」ラインハート視点
――ラインハート視点――
祭りの一週間前、城下町。
「この辺は飲み屋が多いから、レイアを近づけさせないようにしないとな」
地図にバツ印をつける。
国王からレイアと一緒にお祭りを見に行く許可が出た。
俺の実力を認められたということだ。
任されたからには、絶対にはレイア危険な目に遭わせない。
剣術大会から四年が経過し、レイアは背がすらっと伸び、美しい女性へと成長した。
長く艶のある髪、整った顔、瑞々しい肌、美しい所作、長い手足、あどけない笑顔、どれも愛おしい。
可愛いとか可憐という言葉より、美しいとか綺麗という言葉が似合うようになった。
レイアとすれ違った男は皆振り返り、彼女に見惚れている。
昔から若い兵士を中心に人気があったが、今では女神の如く崇められている。
正直、俺も時々直視するのがしんどくなるレベルで美人だ。
レイアは世間知らずな上に男に対して警戒心が薄い。
そんなレイアを街に連れ出すんだ。
しっかりと下調べをして、彼女の安全を守らないとな。
◆
「ここが出店が並ぶ通りか」
道を歩く人たちは上流階級の商人など身なりの整った者が多く、道にゴミもしていない。
この辺りの治安は良さそうだな。
しかし油断はできない。
当日は各地から、いろんな人間が集まる。
堅気じゃない人間がまじる可能性も考慮しておこう。
「ここから大通りへの道も調べておくか」
例年大通りではパレードが行われている。
レイアなら見たいと言うはずだ。
◆
地図に印を付けながら街を見て回った。
気がつけば、街の外れに来ていた。
冒険者はごろつきが多い場所だ。
当日は、絶対にレイアを近づけさせないようにしないとな。
「トリシャ王女!」
背後から呼びかけられ、とっさに腰の剣に手をかけた。
暗い裏通り、その奥に二つの目が光る。
俺に声をかけてきたのは老婆だった。
彼女は、懐かしいものでも見るような目で俺を見つめている。
身なりは貧しいが、どこか品のある女性だった。
敵意はなさそうだな。
俺は剣から手を離した。
「トリシャ王女……!」
老婆は俺の元まで歩いてきて、こちらに手を伸ばした。
「トリシャは死んだ」
トリシャというのは俺の母親の名前だ。
「……そうですか。
噂には聞いておりましたが……。
認めたくありませんでした……」
老婆が伸ばしていた手を引っ込め、自身の顔を覆った。
すすり泣く声が聞こえる。
母のために悲しんでくれているようだ。
「ではもしや、あなたはラインハート殿下……?」
「そうだが、お前は誰だ?」
「私の名前はヒルマ。
トリシャ王女の乳母をしておりました」
「母の……」
「漆黒の御髪、整ったお顔立ち……まさにトリシャ王女の生き写し……!」
老婆が俺の顔に触れる。
この人は母に仕えていたんだな。
それで俺を母と間違えたのか。
「金色の瞳は、お父上にをよく似ておいです」
「俺の父親を知っているのか?」
胸がざわめく。
侍女たちの噂話で、国王が父親ではないことは知っていた。
だが誰も、本当の父親の素性は知らなかった。
「教えてくれ!
俺の父親のことを!」
俺は老婆の肩を掴んだ。
「あなた様の父親はリカード。
リッター伯爵家の嫡男で、トリシャ王女の護衛騎士をしておりました」
「リカード……」
それが俺の父親の名前。
そうか滅ぼされたとはいえ、俺の父親も貴族だったんだな。
「なぜ護衛騎士が王女と通じた?」
「トリシャ王女とリカード様は幼馴染でした」
「幼馴染……」
「兄妹のように仲がよく、ご幼少の頃はよく二人で庭を駆け回っておりました」
なんだか俺とレイアみたいだな。
「城が落ちる前日、トリシャ王女に命じられたのです。
リカード様と二人きりにしてほしいと。
おそらく、トリシャ王女は滅亡を覚悟していた……。
敵に辱められるなら……。
その前に愛する人と思ったのでしょう……」
「そうか、そんな事情が……」
母は愛する人と一緒になれたんだな。
それが、たとえ一夜だけでも。
「ラインハート殿下、ご立派になられて……。
お城でどのような生活をしているか心配しておりましたが……。
立ち居振る舞いを見ればわかります。
きちんとした教育を施されたのですね」
「ああ、自分でも驚くほど大切にされている」
これもすべて、レイアとブレンダ様のおかげだ。
「殿下の今のお姿を見たら、トリシャ王女はさぞ大喜びになることでしょう」
老婆の頬を涙が伝う。
「使え」
ポケットからハンカチを取り出し、老婆に渡した。
この者は今、母のために泣いている。
きっと、今まで母のために何度も涙を流してくれた。
「ありがとう。
そなたのお陰で救われた」
「滅相もない。
救われたのは私でございます」
老婆は、俺が幸せに暮らしてるとわかり安堵したのだろう。
別れ際に見た彼女の表情は、出会った時よりも安らかだった。
◆
幼い頃、洗濯室で侍女が話していたことは本当だったんだ。
母付きの侍女の話だから、九割以上は信じていたが……。
一パーセントほど、疑っているところがあった。
だが、今日その疑いが完全に消えた。
レイアへの気持ちは日に日に強くなっていく。
今更「血の繋がりがある」と言われても、諦めることはできない。
俺はレイアを愛している。
兄妹だったとしても、事実を捻じ曲げて結婚したいくらいに。
だが、レイアの気持ちを思うと……気持ちにブレーキがかかる。
だけどもう、そんなものは壊していいんだ。
俺はレイアに恋をしていいんだ。
結婚して、子供を作っても問題ないんだ。
レイアと兄妹じゃないと、確信できたことが嬉しかった。
それから、俺は両親が愛し合った末に生まれた。
それがわかったことにも感動した。
来月にはクロードが留学してくる。
奴には剣術大会の借りがある。
試合は引き分けだったが、あいつが右手を使っていたら俺は一瞬で負けていた。
『ラインハート殿。次に会う時までレイアのボディーガードは任せます』
あいつが一方的に言い放ったことだが、この約束を守ることで、あいつへの借りを返せると思っている。
クロードがレイアのおでこにキスにとどめたから、俺もそれ以上のことをレイアにしなかった。
あいつがいない間に、レイアに告白するのは卑怯な気がして……。
自分の気持ちを抑えてきた。
四年間、兄として護衛としてレイアを守ってきた。
ブレーキになっていた問題が、二つとも解消した。
レイアと血の繋がりがないことは確信にかわった。
クロードが留学してくるなら、ボディーガードの役目を終えていい。
あいつへの借りは返した。
クロードが留学してきたら、もう遠慮はしない。
今まで抑えてた分も、レイアに気持ちを伝えていく。




