32話「幕間1-2・レイア15歳、ラインハート16歳・お祭りデート」レイア視点
熱狂のうちにパレードは終わった。
通りに集まっていた人々が、少しずつ別の場所に移動していく。
名残り惜しいが、ラインハートの腕をほどかなくてはいけない。
「兄様、こうしてはいられません!
河原に移動しますよ!」
「今度は何だよ」
「本日のメインイベント!
灯篭流しです!」
「さっきも似たようなこと言ってなかったか?」
「いいから行きますよ!」
私は記憶の地図を頼りに、彼の手を取り河原に移動した。
◆
暗くなり始めた河原には、すでにたくさんの人が集まっていた。
河畔林にはランタンが吊るされ、幻想的な雰囲気を醸し出している。
川にはいくつかの灯籠が流れていた。
ゆっくりと遠ざかっていく淡い光が何とも神秘的だ。
私達もランタンを一つずつ購入した。
「兄様知ってます?
願い事しながら灯籠を流すと叶うそうですよ」
「へ〜〜」
ラインハートは訝しげに灯籠を見つめている。
「疑ってますね。
信じて流さないと願いは叶いませんよ」
「レイアは何を願うんだ。
食べきれないほどの串焼きか?」
「違います」
私をどれだけ食いしん坊だと思ってるの?
「じゃあ何だ?」
ラインハートは私の顔を覗き込むように見つめた。距離が近いよ。
「私の願いは……」
ライハートが幸せになること。
「内緒です。
人に話すと願いが叶わなくなるんです」
面と向かって「兄様の幸せを願います!」とは言いづらい。
「そういう兄様は?」
「俺は……お前と……いや、何でもない。
教えたら願いが叶わないんだろ?」
ラインハートは私から視線を逸らした。
「そうですけど」
言いかけてやめたら気になる。
灯籠に火を灯し、願いを込めて川に流す。
私たちの願いを乗せた灯篭がゆっくりと川を下っていく。
どうか、ラインハートの願いも叶いますように……!
私は心の中でそう祈った。
「なにを祈ってるんだ?」
「兄様の願いが叶いますようにって」
ラインハートの顔がほのかに色づく。
「俺の願いは……レイアとずっと一緒にいたいなのに……本人に言えるかよ」
ラインハートのつぶやきは、爆音で打ち消された。
ひゅ〜〜〜ドーン!
という前世の夏に何度も聞いたなじみ深い音が響く。
「今度は何だ?」
「本日のお祭りの締め!
最大の盛り上がり!
打ち上げ花火ですわ!」
日本人が書いた小説なので、お祭りには打ち上げ花火もセットでついてくる。
昨年までは、花火の上がる前に王宮に帰っていた。
王宮からは、宮殿の周りを囲む森が邪魔でよく見えなかった。
だからこれが現世で初めて見る花火だ。
「兄様も花火を見るのは初めてですか?」
「ああ、毎年の爆音な正体はこれか……」
ラインハートは感慨深げに空を見上げている。
「たまや〜〜ですわ」
「なんだその掛け声は?」
「気にしないでください」
ついつい前世の癖で言ってしまうのだ。
「もっと人の少ないところで見れるといいんですけど」
「夜の河原で人気のない場所で二人きり……?」
ラインハートの頬が色づいて見えるのは、きっと花火のせいだろう。
「あっちの方に行ってみましょう!」
私はラインハートの手を取り、静かに花火が見える場所を探した。
◆
少し離れたところに人の少ない場所があった。
ランタンが花火の邪魔にならない程度に道を照らしている。
「兄様、ここならゆっくり見れそうです」
「ああ」
田舎の花火大会のように、一発一発を大事に上げていく……そんな感じの花火だった。
「綺麗ですね」
「ああ、凄く綺麗だ……」
そう言いつつ、ラインハートは全然上を見ていない。
彼の視線はやや下を向いていた。
「兄様、ちゃんと見てますか?」
「見てるよ」
ラインハートが私の髪を梳かすように撫で、耳に髪をかけた。
「ちゃんと見てる」
ラインハートの大切なものを見るように私を見つめた。
そんな目で見られると、そわそわしてしまう。
「お前にプレゼントがある」
ラインハートは、ポケットから何か取り出し私の手に乗せた。
ちいさな髪飾りが手の中にすっぽりと収まっていた。
「バレッタですね!
黄色のお花がついてる!」
「黄色じゃなくて……金色。
俺の瞳の色で……まあいい。
前髪を止めるのに使え」
「兄様、これは前髪ではなく後ろ髪を止めるものです」
「そうなのか……?」
ラインハートはショックを受けたようで、目を見開いている。
男の子はアクセサリーに疎いですものね。
「正面から見た時、俺がプレゼントしたアクセサリーがあれば、クロードが留学してきた時、牽制になると思ったのに……!」
ラインハートは口に手を当ててボソボソと呟いている。
花火の音が大きくてよく聞こえません。
このバレッタは、私が出店で買おうかどうか迷っていたものだった。
私に内緒で買ってくれたんだ。
彼の心遣いに胸が熱くなる。
「兄様、ありがとうございます!
大切に使いますね!」
満面の笑顔でお礼を伝えると、ラインハートは頬を緩め穏やかに口角を上げた。
「私は兄様にお返しできるものがなくて……」
今日はラインハートにたくさん助けてもらったのに、お返しができないなんて……
こんなことなら屋台で何か買っておけばよかったわ。
「構わない。
俺が好きで贈っただけだ」
「そういうわけには参りません。
市場に戻って買い物を……」
「もう、閉まってるだろ」
お祭りも終わりに近づいている。
今から戻っても何も買えない。
でもそれでは私の気持ちは収まらない。
「別にいいよ、後でも」
「街で買い物できる機会なんて早々ありません」
自分で選んだものをラインハートに贈りたかった。
「そうだ!
私が持ってるもので、兄様が欲しいものがあるなら言ってください!
なんでも差し上げます!」
「本気で言ってるのか?」
ラインハートの瞳が驚いたように揺れていた。
「はい!」
お城に帰って、ラインハートへのプレゼントを探そう。
でも、私の宝箱に入っているのは女の子用のアクセサリーだけ。
ラインハートが欲しいものがあるかしら?
「なら、お前の初めてがほしい」
ラインハートは真剣な表情をしていた。
「はい……?」
それはどういう意味……?
「許可はとったからな」
ラインハートの手が私の頬に触れる。
今のは同意の意味の「はい」では……。
彼に真っ直ぐに見つめられ、ドキンと心臓が跳ねる。
どうしよう……体が動かない。
ラインハートの顔が近づいてくる……。
おでこへの口づけの時とは角度が違う……。
ラインハートの熱い眼差しに耐えられず瞳をギュッと閉じる。
直後、彼の唇がほっぺたに触れた。
あと数センチずれたら、唇に当たってしまう……それくらい繊細な位置だった。
おでこにキスされたときよりも彼の唇をリアルに感じる。
目を開けることができない。
永遠とも思える長い時間が流れ、彼の唇が少しづつ離れていく。
ゆっくりと目を開けると……。
ラインハートと視線が交差する。
彼は耳まで真っ赤に染めていた。
私の顔もトマトのように赤いと思う。
「兄様……!」
私は頬に手を当てラインハートをジト目で睨んだ。
「レイアの初めてをもらうって言っただろ?
おでこへのキスはクロードに取られたから、ほっぺたは俺がもらった」
ラインハートは照れくさそうに視線を逸らし、手の甲で口を覆った。
何それ?
なぜそんなことで競ってるの?
これは、あれよ!
挨拶代わりのキスよ!
ラインハートが私のおでこにキスしたときも「兄弟なら普通」って言ってたし。
異世界あるあるよ!
文化の違いよ!
ぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜ……全然! 動揺なんかしてないんだから!!
心臓がバクンバクン音を立ててるのは、一日お祭りを回って疲れているからよ!
ほっぺへのキスにときめいたからじゃ、ないんだから……!
ラインハートの馬鹿!
こんなことされたら、眠れなくなっちゃうじゃない!!
「意味がわかりません!」
「今はわからなくてもいい」
ラインハートが私の腕を掴み抱き寄せた。
「兄様……!?」
「クロードが留学してくるからもう遠慮しない。
奴への借りは返した。
もう負い目はない。
優しい兄でいる必要もない。
ボディーガードは終わりだ」
わけがわからないよ。
そんなに強く抱きしめられたら、離れたくなくなっちゃうよ。
読んで下さりありがとうございます。
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明日はラインハート視点のお話を上げます。




