31話「幕間1-1・レイア15歳、ラインハート16歳・お祭りデート」レイア視点
剣術大会から四年が経過した。
私は十五歳、ラインハートは十六歳になった。
来月には学園に入学する。
ラインハートは一年先に入学している。
クロードは来月に留学してくる予定だ。
ああ……!
ついに始まるのね!
「花の聖女」の物語が!
ラインハートとクロードの、ヒロインを巡る熱い戦いが間近で見られるのね!
クロードの初恋は私だろうって?
四年も前のことだよ。
ヒロインのニーナは天真爛漫な美少女!
彼女に出会ったら、私への恋心なんて吹きとんじゃうって!
ラインハートはシスコンを拗らせて過保護気味だけど、ヒロインに出会ったら妹のことなんてどうでもよくなるわ!
原作とは違いラインハートは貴公子!
ヒロインもラインハートにめろめろになるはずよ!
それが私の願いなんだけど……。
なぜだろう……?
ちょっとだけ悲しい。
というか……もやもやする。
ラインハートが妹離れするのが寂しい?
ラインハートにおでこに二回キスされたのが今でも引っかかってる。
しかも、クロードが帰国した日に二回だけだし。
挨拶なのか、特別な意味があったのかわからない。
「兄弟なら普通」って言ったんなら、毎日じゃなくても時々してくれても……。
……って、何考えてるの!?
ラインハートはヒロインのものなのに!
……今はこのことを考えるのは止めよう!
せっかくの春祭りだし!
外出の許可が出たんだから楽しまないとね!
今日はラインハートと一緒。
入学したらヒロインに夢中で放置されちゃうだろうから、兄妹水入らずでの最後のイベントだ。
今までもお祭りに参加したことはあった。
でもその時は、広場の中央に作られた王族の席から眺めるだけ。
市場を歩いたり、灯籠流しを見たことはないのよね。
というより、町に散策に出ること自体が初めて!
前世では一人で外を歩くなんて当たり前だったけど、王族となるとそうもいかない。
馬車から眺めるのがせいぜいだ。
だから今日のお祭りをとっても楽しみにしていた。
どこから回ろうかな〜〜?
◆
お祭りの会場はランタンが飾られ、たくさんの出店が並んでいた。
まだ午前九時なのに、たくさん人が集まっている。
「わぁ〜〜! 活気がある! これがお祭りなのね〜〜!」
どの店から回ろうかしら!
ウキウキしながら眺めていたら、荷物を抱えた人に突き飛ばされてしまった。
よろめいた私をラインハートが抱きとめてくれた。
「はしゃぎすぎると怪我するぞ」
彼は背がすらっと伸び、今では私より頭ひとつ分大きい。
筋肉もついて逞しくなった。
今のラインハートに抱きしめられるのは、流石にちょっとドキドキする。
もう、子供の頃のように気軽に抱きつけないわ。
「気をつけます」
ちなみに私もすらっと背が伸びて、モデル体型に成長した。
胸もけっこうある。
これには、前世のあだ名が「まな板」だった私は感涙した。
さすが乙女小説の世界。
モブでもサブヒーローの妹ってだけで、女優さんみたいな体系になれるなんてお得!
ラインハートは、剣の腕も上達した。
今では騎士団が束になってもかなわないほどだ。
剣だけでなく魔法の腕も上達している。
彼は最強のボディーガードというわけだ。
しかも護衛と違って口やかましいこと言わないから最高だわ。
二人きりで出かけることを許されたのは、ラインハートの腕が信頼されているからだ。
私も妹として鼻が高いわ。
普段着では外にでれないので、私達は庶民に変装している。
ラインハートは青色のラフな服をまとっている。
私も町娘に見えるように、白いブラウスに赤いリボンと桃色のスカートに着替えた。
ラインハートは下町の服も似合うのね。
「ねぇ、彼素敵じゃない?」
「役者さんかしら? それとも騎士団員?」
近くにいる女性二人組が、ラインハートを見てひそひそと話している。
ラインハートは質素な服を纏っているが、溢れ出る高貴さは隠しきれていない。
なので女の子の注目の的だ。
ライハートは、彼女たちをギロリと睨みつけて追い払ってしまった。
「兄様、そういう態度はよくないと思いますよ」
「ああいうのは、ほっとくと増える」
一理ある。
美しいものは人を惹きつけてしまうのだ。
「絡まれたら面倒だ。
今日はせっかくの……デ、デートなのに」
「兄様、何か言いました?」
荷馬車が通ったので、よく聞こえなかった。
「なんでもない!
行くぞ!」
ラインハートは私の手を取り歩き出す。
ラインハートはなんて言ったのかな?
まぁいっか、お祭りを楽しもう。
キラキラ光る青い鉱石を売っているお店、ガラス細工を売っているお店、可愛いアクセサリーを取り扱っているお店、どこから見て回ろうかしら?
「買うなら小さいものにした方がいい。
持って歩くのが大変だからな。
それから、ガラス細工を買うのは最後だ。
割れるからな」
ライハートから的確なアドバイスを受けた。
「それもそうですね。
では持って歩かなくても済むように、食べ物屋さんに行きましょう!」
お腹に入れてしまえば手ぶらで歩けるわ!
パン屋さんに、果物屋さんに、大きな鍋でスープを煮込んでいるお店に、串焼きのお店、りんごの飴を売ってるお店もあるわ〜〜!
「朝食を食べたばかりだろ?」
「朝ご飯を減らしてきたので大丈夫です!」
お肉が焼けるいい匂いにつられ、私は串焼き屋の前に移動した。
鉄の網の上で串に刺さったお肉がジュージューと音を立てている。
炭火でじっくり焼いたお肉! 絶対美味しいわ!
「おじさん串焼き二本ください。
一番おいしやつ」
「あいよ」
串焼きを食べるなんて、前世ぶりだわ。
「お嬢ちゃん可愛いから、おまけしとくよ」
おじさんから串焼きを三本受け取った。
ラッキー!
「いいねお兄さん!
恋人がべっぴんで羨ましいよ!」
恋人……?
私とラインハートが……?
「おじさん、私と彼はきょ……」
「そう見えるか? 彼女は俺の大切な人なんだ!」
ラインハートは私の肩を抱き寄せた。
とくん……と心臓が高い音を立てた。
見上げると、ラインハートは嬉しそうに口角を上げていた。
「大事にしなよ」
「もちろんだ!」
ラインハートってば悪ノリしすぎよ!
訂正し忘れちゃったじゃない!
私たちは場所を移動し、ベンチに座って串焼きを食べることにした。
「食べないのか?」
さっきのラインハートの発言が頭の中でくるくるしていて、食欲がない。
胸がキューキュー音を立ててる。
「食べるわよ!」
食べないのはおじさんにも串焼きにも失礼よね!
「美味しい〜〜! やっぱり焼きたては違うわ〜〜!」
一口食べたら胸のもやもやが消し飛んでしまった!
肉汁とタレが絶妙なハーモニーを奏でている!
これだけでもお祭りに来てよかった〜〜!
「お姫様なのに、食べ慣れてるんだな。
買い物も初めてとは思えないくらい手慣れてた」
「……!」
肉を喉に詰まらせそうになった……!
「じ、侍女に町の様子を聞いて、買い物の練習をしていましたから……。
く、串焼きの食べ方も指導を受けまして……」
「ふーーん」
ラインハートは訝しげに私を見ていた。
「お腹もいっぱいになりましたし、他のところも見て回りましょう!
パン屋さんもありましたし、りんご飴も美味しそうでした!」
話題を変えよう!
「どれだけ食べるんだよ……」
「いいではありませんか!
こういう機会でもないと外に出れないんですから!」
私はラインハートと共に屋台を巡った。
異国の珍しい果物や、王宮の白パンとは違う固くてパリパリしたパン、前世の味を思い出すりんご飴など屋台の味を堪能した。
ラインハートは、ご飯を食べる私を楽しそうに眺めていた。
◆
その後もアクセサリーの店などを見て回った。
気がつけば日は西に傾いていた。
「こうしてはいられません!
兄様、移動しますよ!」
「どこに行くんだよ?」
「大通りです!
今日のお祭りの一番の見所!
パレートの時間です!」
ラインハートの手を取り、人混みをかき分ける。
朝より人が増えていてなかなか前に進めない。
「大通りに行くなら、こっちの方が早い!」
ライフハートは私の腕を掴み、別の方向に歩き出した。
強くてたくましい手。
大きな体で人混みをかき分けていく広い背中。
ラインハートは立派な青年なんだ。
そんなことはわかってたはずなのに……。
改めて実感し、なぜか心臓がドキドキした。
ラインハートの案内通りに進むと、大通りに出た。
パレード目当ての見物客で溢れていた。
「良かった!
パレードはまだ始まってないみたいですね!」
歩道と車道の間には、人々が飛び出さないようにロープが張られていた。
私たちは何とか前の方に移動することもできた。
「兄様、なぜ裏道を知ってたんですか?」
私も地図を見てある程度は道を把握していたけど、彼ほど詳しくない。
「今日初めて街に来たとは思えません。
もしかして王宮を抜け出して街に……」
「たまにな……」
ラインハートは頬をポリポリと書きながら、気まずそうに呟いた。
「ずるいです!
私も行きたかったのに!」
「城を抜け出すのは簡単じゃないんだ。
連れて行けるわけないだろ」
それは確かに、私はラインハートみたいに身軽じゃないけど……。
「それに……。
お前を守れる自信がなかった。
王都が治安がいいとはいえ、絶対に安全とは言えないから」
ライフハートが私に向ける目は、親猫が子猫を守ろうとするような優しさに満ちていた。
ラインハートはとても強い。
でも足手まといがいたら迷惑よね。
「なぜ今回は連れてきてくれたのですか?」
「騎士団員をまとめて倒した事で、国王から信頼が得られた。
さすがに国王の許可なしには連れ出せない」
それで騎士団に勝負を挑んだんですね。
ラインハートが無意味に自分の力を誇示するはずがないもの。
「どうしてそこまで?」
「レイアがお祭りを見たがっていたから。
護衛と一緒じゃ雰囲気がぶち壊しだろ」
私の為に……?
「嬉しいです。
兄様、ありがとうございます」
私が微笑むと、彼は顔を染め口元を手で押さえた。
「天使……!!」
ラインハートが何か呟いたが、よく聞こえなかった。
「では、次からは兄様が町に行く時は毎回私もお供します」
抜け駆けなんてずるいわ。
「無茶言うな」
でも無理かな。
そのうち、ラインハートはヒロインとのデートで忙しくなる。
今日が最初で最後のお忍びになるのか……。
そのとき、周囲が騒がしくなった。
どうやらパレードの先頭が来たようだ。
湿っぽいのはなしなし!
今日はとことん楽しむって決めたんだから!
「おい……!
何だあのでかい生き物は?
魔物か……!?」
「違いますよ、兄様!
あれはゾウとキリンです!」
パレードの先頭には、美しい刺繍が施された布を背中に乗せたゾウとキリンがいた。
彼らは観客を魅了しながら勇壮に歩いている。
広場からはパレードは見えなかったから、私も現世でゾウとキリンを見るのは初めてだ!
「詳しいんだな。
驚いてもないし、前に見たことがあるのか?」
前世で動物園で見ました、とは言えない。
「わ、私も図鑑で見たことがあるだけですよ〜〜」
「レイアは博識なんだな」
良かった。ライハートは信じてくれたみたいだ。
「うおおおーー!!!!」と周囲の男性から歓声が上がった。
皆が同じ方向を見ている。
そちらに目を向けると、異国のセクシーな民族衣装を着た踊り子の集団が見えた。
周囲の男性たちの熱気はすさまじいものだった。
「兄様も踊り子に興味ありますか?」
ちらりとラインハートを見上げる。
「知らない女が何を着ててもどうでもいい」
ラインハートが踊り子に向ける視線は、石などの無機物に向けるものと同じだった。
ほっ……良かった。
ん……? 今の良かったとは?
ヒロインに出会ったとき、セクシーなお姉さんに鼻の下伸ばさない事への安堵だよね?
それ以外ないよね?
「レイアが着るなら、興味あるけど」
それはどういう意味かしら?
「ただし、俺以外に見せない前提でな」
ラインハートは厳しい目をしている。
出たシスコン。
ラインハートの前で透け透けの踊り子の服……?
ぼっ……と音を立て顔に熱が集まる。
私をからかって楽しんでるのかしら?
ならこっちもお返し。
「兄様がお望みなら着ましょうか?」
できるだけ平静を装いそう伝える。
「えっ……!?」
ラインハートの顔が真っ赤に染まる。
なにその反応……?
「馬鹿!
冗談だ……!
嬉しいけど、そ、そう言うのは結婚したあとにだな……!」
ラインハートはかなりテンパっているように見えた。
「嘘です。
兄様をからかっただけです。
あんな露出度の高い服は着ません」
「そ、そうだよな……。
わかってる」
ラインハートは落胆した表情で、肩を落とした。
彼が考えていることはよくわからない。
その時、近くにいた男性たちが間近で踊り子を見ようと身を乗り出した。
彼らに押され、私の体はロープを乗り越えそうになってしまう。
ちょうど私の前を、踊り子を警備する騎兵隊が通った。
今、通りに出たら馬に蹴り飛ばされてしまう……!
ギュッと目をつぶり……衝撃に備える。
背後から抱き止められる感覚があり、振り返るとラインハートが私の体を支えていた。
彼の逞しい腕が、私のお腹を押さえている。
「兄様、ありがとうございます」
「気をつけろ。
民衆が想像以上にパレードに熱狂している」
「はい」
ラインハートは私を背後から抱きしめたまま離そうとしない。
体温を背中に感じる。
ラインハートの息が髪にかかる。
私の髪ちゃんとシャンプーの香りしてるかな?
「兄様、もう大丈夫ですから」
「危ないからダメだ」
ラインハートは相変わらず過保護だわ。
さっきからかったのもあるから、こっちは心臓がドキドキしてるのに。
ラインハートは平気なのかしら?
ヒロインが学園に入学したら、ラインハートは彼女に夢中になる。
あとちょっとだけこのままでもいいかな。
過保護な兄を堪能できるのは今だけだから。
切ない気持ちになるのは、お祭りの終わりに近づいてるからだよね?
読んで下さりありがとうございます。
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