30話「ラインハートの嫉妬。キスは回数で勝負!」第一部完。
クロードの帰国後、ラインハートは機嫌が悪い。
私から片時も離れようとせず、部屋にまでついてきた。
ソファーに座ろうとすると、ラインハートが先に腰掛け、膝の上に座ることを要求された。
背後から抱きしめられ、身動きが取れない。
ゆっくりお茶を飲もうと思ったのに……。
「ラインハート兄様、いい加減に機嫌を直してください」
「俺に内緒でクロードと会ってた。
奴のことを『様』付けにした。
その上、奴はレイアのことを呼び捨てにした。
さらに、奴はレイアの額と手の甲にキスした……!
これが平静でいられるか!」
「隣国の王太子からお誘いを受けたのですよ?
簡単に断れません」
「奴を様付けで呼んだ理由は?」
「準優勝の褒美が欲しいと言われたので……」
「それで、呼び捨てにされることも許可したのか?」
「私がお願いされたのは、『クロード殿下』から『クロード様』に呼び方を変えることだけです。
呼び捨てはクロード様が勝手に……。
否定する隙もありませんでした……」
ラインハートが乱入したから……と続けようと思ったが言葉を呑み込んだ。
今の彼に伝えても逆効果だわ。
「額へのキスは……?」
「あれは……。
その……不意を突かれたといいますか……」
クロードは武術の達人なのだ。
素人の私が避けられるはずがない。
「キスされて、嬉しそうに頬を赤らめていたのは……?」
「う、嬉しそうになんてしてません……!」
あれは驚いてただけよ。
「顔を真っ赤にしてたんじゃないか」
「それは……!
お風呂に入ったり、運動した後、体温が上がるのと同じような原理です!
深い意味は……」
「ふーーん」
ラインハートは、私の体をくるんと反転させ自分の方に向けた。
彼がジト目でこちらを睨んでいる。
「キ、キス……されたのなんて初めてでしたし……。
し、自然な反応です!」
「なるほど……」
ラインハートはまだ私を疑ってるようだ。
彼の視線がぐさぐさと刺さる。
「それより兄様!
クロード様に聞きましたよ!
彼は剣術大会で優勝したら、褒美に私を望むつもりだったと!
兄様はそれを知っていて、止めてくれたんですよね?」
いつかはお嫁に行く。
でも、今じゃないと思う。
「王族なので政略結婚は覚悟していました。
ですが、この歳で他国に嫁ぐのは想定していませんでした」
十一歳だもの。婚約も結婚も早すぎるわ。
「家族と離れなくてほっとしました。
慣れない土地で、頼れるのは少数のお供だけの生活なんて、私には耐えられませんから」
なにより、隣国に行ったらライハートの成長が見守れない。
「私のためにありがとうございます!」
ラインハートは苦しさと切なさが混じったような、表情で私を見つめた。
「半分は正解だけど、半分は違う」
彼はすっと目を細め、まっすぐに私を見つめた。
「俺はお前が思ってるほど、家族思いでもなければ、崇高な人間でもない」
ラインハートの手が私の頬に触れる。
「兄様……?」
「自分の欲望のためにしただけだ。
お前を手放したくなかったから」
それはどういう意味……?
彼の顔が近づいてきて……額にキスされていた。
「………!
い、いきなりなにするんですか!?」
まさか、一日に二人からキスされるとは思わなかった!
「このくらい、兄妹なら普通だろ?」
ラインハートの頬はほのかに色づいていた。
前世では挨拶代わりにキスをする国があった。
この世界にも、そんな文化があるのかしら?
もしかして兄様の母親の祖国の風習?
どちらにしても、前世が日本人の私には刺激が強すぎるわ!
「クロードには許したのに、俺は駄目なのか?」
彼は悲しげに眉を下げた。
鍵を忘れて家に入れない時の小学生みたいな顔しないで……!
「駄目……ではありません」
それは本当だ。
クロードの時は、ただただ動揺した……。
でも、ラインハートの時は胸がキュンとなるような……。
二人の違いって……?
「なら、続けてもいいんだな」
そう言ってラインハートは、また私の額にキスした。
先ほどより長い時間、彼は唇を押し当てていた。
その間、心臓がずっとドキドキしていた。
彼の唇が離れたとき、私はきっと耳まで真っ赤になっていたと思う。
ラインハートの顔も先ほどより高潮している。
「ふ、不意打ちは卑怯ですよ……!」
クロードにキスされた感触は宇宙の彼方へ消え去った。
代わりに、ラインハートの唇の感触が鮮明に残り続けている。
当分、忘れられそうにない。
「初めては他のやつに奪われたから、俺は回数で勝負する!」
そう言って、ラインハートは私の手を取り口づけを落とした。
「今のは消毒、次が本番……」
ラインハートったら、クロードにキスされたところに、上書きで口づけするつもり?
乙女向け小説のヒーローを舐めていたわ!
この世界のヒーローは、どいつもこいつもスキンシップが多すぎるわ!
――第一部・完――
【後書き】
※ラインハートは、剣術大会でクロードに左手で戦ってもらったことに、負い目があります。
だからクロードが戻ってくるまでは、レイアには妹として接し、おでこと手の甲にキスまでで我慢することに決めました。
クロードに先を越された苛立ちと焦りから、レイアのおでこと手にキスを二回しましたが、それ以降は我慢してます。
次回は幕間。
学園に入学直前、15歳のレイアと16歳のクロードがお祭りに行くお話です。
そちらもお楽しみいただければ幸いです。




