27話「ラインハート対クロード!」
ラインハートの治療の為に、決勝戦は予定より三十分遅れで開始されることになった。
怪我の治療に三十分しか、もらえないなんて……!
でも試合が行なわれるってことは、ラインハートは棄権しないってことよね?
思ったより怪我が軽かったのかな?
それとも……無理をして出場するつもりなの?
涙で視界が滲む。
私が泣いてどうするのよ!
最後までラインハートの勇姿を見届けないと!
試合開始の時間になり、ラインハートとクロードが姿を現した。
歓声の中に、「ラインハート殿下は大丈夫なのか?」という声も混じっていた。
私もラインハートが心配。
いますぐ彼の元に駆け寄って治療したい!
でも、試合が終わるまでは我慢しなくちゃ!
ラインハートの勝ちたいという気持ちを踏みにじるわけには、いかないのよ!
武舞台に上がったラインハートの姿は、怪我をする前と変わらないように見えた。
だけど、ふとした瞬間に右の肩を庇うような動きが見える。
やっぱり、傷が痛むのね。
クロードもラインハートの怪我が重いことに気づいているよね?
手加減してくれないかな……?
淡い期待を込めてクロードを見る。
クロードの顔は闘志に満ちていて、対戦相手に向ける目は氷の刃のように鋭かった。
クロードのあんな顔初めて見たわ。
今までのどの試合も涼しい顔をしていたのに。
この試合だけ、やたらと気合に満ちてる。
両者は中央で対峙し、試合の前の礼をした。
緊張が一気に高まる。
私の心臓もどきどきと音を立てている。
ラインハートは左手に剣を構えた。
会場からざわめきが起こる。
ラインハートの額には汗が浮かんでいた。
試合が始まる前からあんなに汗をかいてるなんて……!
右肩の怪我がひどいんだわ!
だけどラインハートの目は、勝利を諦めていなかった。
気迫のこもった目で、クロードを真っ直ぐに見据えている。
「ラインハート兄様……!」
私は胸の前で手を合わせ、天に祈った。
どうかお願いします。
試合が終わるまでラインハートの痛みを和らげて!
もどかしい!
私には祈ることしかできない!
そのとき、再び会場がざわめいた。
武舞台に目を向けると、クロードが左手に剣を構えていた。
ラインハートが利き腕を怪我してるから、クロードもそれに合わせてくれたの?
左手でも勝てるという余裕からなの?
それともフェアで戦いたいのかな?
クロードが何を考えているのかはわからない。
でも、両者とも利き腕ではない左手での戦い。
これで勝負の行方は分からなくなったわ。
「ラインハート兄様、無理しないで!」
私は祈るように呟いた。
武舞台の上は、ピリピリとした空気に包まれていた。
「これより、決勝戦を開始する!」
心配な試合開始の掛け声と共に、ドラが鳴り響いた。
両者が一斉に飛びかかり、互いの剣が交わる。
カン、カンという木刀を打ち合う音が、会場に響く。
しばらく鍔競り合いが続いた。
白熱した高レベルの戦いに、会場の熱気はヒートアップしていく。
私も手に汗握りながら、試合の行方を見守った。
互角……?
ラインハートは苦悶の表情を浮かべてる。
クロードの表情には余裕があるわ。
この試合、長引けばラインハートが不利だわ!
激しい打ち合いの末、ラインハートがほんの一瞬右肩をかばう動きをした。
その隙を見逃さずクロードが打ち込み、剣を下から上に振り上げた。
ラインハートの剣が打ち上げられ、剣は彼の手を離れくるくると回転し、床に落ちた。
剣が手を離れても、審判が十数える間に拾えば試合続行可能だ!
審判が「ワン、ツー……」とゆっくりとカウントしていく。
「ラインハート兄様ーーっっ!! 勝ってーーーー!!!!」
私は立ち上がりボックス席と一般席を隔てる柵まで駆け寄り、声の限り叫んだ!
ラインハートに留めを刺そうとクロードが剣を振り下ろすが、彼は床を回転しうまく躱した。
ラインハートは剣の元に走り、素早く拾った。
審判は「ナイン」まで数えていた!
ギリギリだわ!
ラインハートが体勢を立て直すより早く、クロードが斬り掛かってきた。
ラインハートはなんとか攻撃を受け止めた。
ほっ……と息をつく隙もなく、次から次へとクロードの剣がラインハートを襲う。
ラインハートは徐々に武舞台の端へと、追いやられていく。
このままだと、場外に落とされてしまうわ!
気がつけば、武舞台の端ギリギリまでラインハートは追い詰められていた。
ラインハートがよろめいた瞬間、クロードが剣を振り下ろした。
クロードの渾身の一撃を、ラインハートは受け止めた!
防がれるとは思っていなかったのか、クロードは目を見開いている。
ラインハートはその隙をついて、剣を力の限り振り上げた。
クロードの剣は武舞台の外に弾き飛ばされ、ラインハートの剣は真っ二つに折れてしまった。
時が止まったような静寂に包まれた。
試合中の二人は、愕然とした表情でその場に立ち尽くしていた。
予想外の事態に、一転して会場中がざわめき立つ。
「この場合はどうなるんだ?」
「先に折れたのは、ラインハート殿下の剣だろ?」
「いや、クロード殿下の剣が場外に落ちる方が早かったぞ!」
「ほぼ同時に見えたが……」
審判もどう判断したら良いか困惑しているようだ。
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