28話「レイアのときめき!? 癒やしの力」
審判では判断がつかないということになり、最終判断は国王が下すことになった。
国王の判断は、「引き分け」である。
ラインハートを勝たせたら隣国から文句を言われるし、クロードを勝たせたら自国の貴族からぶーぶー言われそうだ。
だから、「引き分け」にしたのだろう。
ことなかれ主義の国王らしい判断だわ。
勝負は引き分けに終わったが、白熱した戦いに、観客からは惜しみない拍手と声援が送られた。
良かった。
ラインハートが負けなくて本当に良かった……!
今すぐラインハートに駆け寄って、「よくやったね」と言って抱きしめてあげたい。
試合のしきたりに則り、二人は握手を交わし健闘を称え合った。
その時、ラインハートがふらつき床に膝をついた。
彼は眉間にしわを寄せ、真っ青な顔をしていた。
額から大粒の汗が流れている。
「ラインハート兄様……!」
私はボックス席を出て武舞台に向かった。
お母様が何か叫んでいるけど、無視した。
もう試合は終わった。ルールに縛られる必要はない!
原作ではラインハートが負けたとき、彼が怪我をしていても誰も近寄らなかった。
人々はラインハートをスルーし、クロードの元に駆け寄ったのだ。
そんな惨めな思いはさせないわ!
なにより、ラインハートの怪我が心配!
一刻も早く治療しないと!
武舞台へは「関係者立ち入り禁止」の為、入口は衛兵によって守られていた。
「通さないなら首にするわよ!」
衛兵は顔を青ざめさせ、道を開けてくれた。
「ラインハート兄様っっ!!」
私が武舞台に上がると、ラインハートがこちらに気づいた。
彼は苦悶の表情を浮かべ、床に膝をついたままだった。
私は来ると思っていなかったのか、ラインハートは目を見開いている。
「兄様! しっかりして!」
私はラインハートに駆け寄り、彼を抱きしめた。
「レイア……?」
「兄様……!
怪我をしてるのに出場するなんて無茶です!!」
すぐに回復魔法をかけようと思っていたのに……。
涙がボロボロと溢れて、上手く呪文が唱えられない。
「レイア、男には怪我を押してでも戦わなくてはいけない時があるんだ」
そんな苦しそうな顔で言わないで。
「ぐす……っひっく、意味がわかりません……!
もっと……、ひっく、……ひどい怪我をしたら……どうする、つもりだったんですか!?」
「しなかったんだからいいだろ」
「ひっく……ふぇ、そういう問題じゃ……ありません!
剣を持てなく……なったかも、ぐすっ、知れないんですよ……!」
ラインハートは私の背に、ゆっくりと自分の腕を回した。
「優勝して叶えたい願いがあったんだ。
いや違う……。
俺はただ、クロードを優勝させたくなかっただけだ」
「はいっ……?」
クロードを優勝させないのと、自分が勝ちたいのは同じじゃないの?
ラインハートは少し体を離し、私の顔を見つめた。
彼の顔色は青白く、時おり苦しそうに眉を歪めていたが、何かを達成したような満足げな目をしていた。
「大事なものを守れたからそれでいい」
ラインハートは私の髪をなで、頬にそっと触れた。
その時のラインハートは、幼い少年の顔ではなく、戦士の顔をしていた。
小説の挿絵でも描かれることのなかった、勇ましくも優しさに満ちたその表情に、心臓がトクンと音を立てる。
何……? 今の?
推しに対する感情でも、兄に対する感情でもない。この胸の高鳴りは……?
「っ……!
気を抜いたら痛みがぶり返してきた」
ラインハートが眉根を寄せ、口を引き結ぶ。
「今、回復魔法かけます!」
私は慌ててヒールを唱えた。
私の手から淡い光が溢れ、ラインハートの体を包む。
会場がざわめいてるような気がする。
「あれが癒しの力……?」
「始めて見た……!」
人前で使うべきではなかったかもしれない。
原作でヒロインのニーナが回復魔法を使った時に、今のようなどよめきが起きていた。
『聖女様の力!』、『希少な回復魔法!?』
人々はニーナの神秘的な力を、敬うような気持ちで見つめていた。
……私が先に使ってしまったら、ストーリーが変わってしまう?
ニーナはヒロインだし、彼女の魅力は回復魔法だけじゃないから大丈夫だよね?
ラインハートを包んでいた光が徐々に小さくなっていく。
彼の治療が終わったみたい。
「兄様、肩の調子はどうですか?
右手の指はどうですか?
小指の爪の先までちゃんと感覚はありますか?」
ラインハートは右肩を何度か回し、その後右手を閉じたり開いたりしていた。
「大丈夫だ。
ちゃんと動く」
ラインハートは眉を少しだけ下げ、頬を緩め、穏やかに微笑んだ。
「良かった……!」
本当に本当に、心配したんだから!
「レイア王女、よろしければ僕にも回復魔法をかけてもらえませんか?」
クロードに声をかけられた。
彼の手には包帯が巻かれている。
彼の背後には、医師や看護師が何人も控えていた。
医師たちは、ラインハートよりクロードの手当を優先したのね。
他国からの来賓を怪我させたまま放置するわけにはいかないし、原作通りの展開なので仕方ないのだけど……。
もやもやするわ。
「もちろんですわ、クロード殿下」
相手は国賓、断れないよ。
「ラインハート殿、僕もレイア王女に治療してもらってもいいですか?」
なぜラインハートに許可を取るのかしら?
「この状況でダメと言えるわけないだろ」
ラインハートが眉根を寄せ、不機嫌そうに答えた。
大勢が見てる前だ。
ラインハートも、私の力を独占するわけにはいかないのだろう。
剣を交えたことで友情が芽生えて、お互いを尊重しあった結果だったら嬉しいわ。
「ただし、レイアがお前のために力を使うのは今回限りだ」
ラインハートは、クロードを威嚇するように睨みつけ、私の腰に手を回し抱き締めた。
残念ながら、二人の間に友情は芽生えなかったようね。
その後、クロードにも同じように回復魔法をかけた。
「これがレイア王女の癒しの力……!」
クロードは完治した手をじっと見つめていた。
彼は驚きと感動が混じったようなそんな目をしていた。
◆
波乱はあったけど無事に剣術大会は終了した。
優勝者はなし。
ラインハートとクロードは二人とも準優勝。
国王が閉会の挨拶をして、閉幕となった。
準優勝の二人には、会場から盛大な拍手が送られた。
なぜか二人を治療した私も、拍手されてしまった。
読んで下さりありがとうございます。
少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。




