26話「レイアの悲鳴と大会のルール」
一回戦・一試合目
いきなりラインハートの試合だわ!
相手は騎士団に所属していて、ラインハートよりも三歳年上で、体もガッチリしている。
いきなり体格差がある相手だけど大丈夫かしら?
対戦相手は「こんなちび楽勝だぜ!」みたいな顔で、薄ら笑いを浮かべラインハートを見下ろしている。
ラインハートは開始の合図と共に斬り掛かった!
相手はラインハートの速さに目を見張っている!
相手が剣を振り下ろす隙を与えず、ラインハートは喉元に剣を突きつけた。
かっこいい!!
「きゃーー! ラインハート兄様! 素敵ーー!」
思わず立ち上がり叫んでしまった。
「レイア」
お母様の冷ややかな視線が突き刺さる。
「すみません、つい」
私は席に座り直した。
大勢の観客の前で、緊張してるかと心配していたけど。
ラインハートは普段通りね。
むしろ、いつもより動きに切れがあるわ。
◆
一回戦五試合目は、クロードの試合だ。
対戦相手の少年は、出場する騎士の中で二番目に強い人だわ!
きっとクロードでも苦戦するわ。
戦いが長引けば、クロードの戦い方がわかるかも!?
「そこまで! 勝者クロード殿下!」
対戦相手の剣は場外に飛ばされ、床に尻餅をつき、降参のポーズをとっていた。
瞬きしている間の出来事だった。
彼の強さは想像以上だわ……!
試合を終えたクロードは、涼しい顔で武舞台を降りていく。
髪型一つ乱れていない。
圧倒的な強者のオーラだわ。
ラインハートは彼に勝てるのかしら?
私が信じてなくてどうするのよ!
ラインハートは誰にも負けないんだから!
◆
ついでにワグナーの試合結果も報告しておこう。
彼は一回戦で、靴の紐を踏んで転んで剣が場外に飛んでいき、戦わずに負けた。
あんな無様な負け方は見たことないわ。
あれと半分でも血が繋がっているのかと思うと、げんなりするわ。
ちなみに第一王妃は……。
「きーー! 審判はどこに目をつけてしているの! ワグナーは負けてないわ! 対戦相手がずるしたのよ! 対戦相手の親は左遷よ! 審判は首よ!」
パワハラ発言を連発していた。
◆
準決勝。
ラインハートもクロードも順調に勝ち進んでいる。
ラインハートのファンは確実にファンを増やし、彼が闘技場に上がると会場のあちこちから黄色い歓声が上がった。
それは第一試合のときよりも確実に大きくなっていた。
ラインハートのかっこよさに、皆が気づいてくれて嬉しいわ。
彼のファンとしても妹としても誇らしく思う。
もう離宮で一人寂しく過ごしていた頃の彼はいないのね。
そう思うと感動で胸が震えた。
「勝負あり! 勝者、クロード殿下!」
先に決勝進出を決めたのはクロードだった。
さすがと言うか何と言うか、クロードは全ての試合を一分以内に終えている。
彼の額には汗すら浮かんでいない。
相手も弱いわけではないのに……。
彼の強さは桁外れだわ。
◆
次はラインハートの試合ね!
しっかり応援しなくちゃ!
ラインハートの決勝戦の相手は、第五騎士団長の息子ベアントだった。
彼はラインハートとクロードを除いた出場選手の中で、一番強いと言われている。
ちなみに私とラインハートの剣術の先生は、第一騎士団の隊長なのでベアントとは無関係だ。
ベアントは背も高いし、腕も太く、力も強い。
対戦前に中央で向かい合った時の体格差は、大人と子供だ。
試合開始を告げるドラが鳴り響き、両者が激突する。
今までの試合は、ラインハートが圧勝してきた。
だけど、今回はそうはいかないようね。
武舞台の中央で一進一退の攻防が続いている。
両者の力は拮抗しているみたい。
「兄様……!」
私にはハラハラしながら試合の行方を見守ることしかできない。
このあと決勝が控えているから、お互いに体力を消耗したくないはず。
その焦りからか、ベアントが大ぶりの一撃を繰り出した。
あの体格から繰り出された技をまともに食らったら、ラインハートが大怪我してしまうわ!
「避けて兄様!!」
ラインハートはすれすれのところで攻撃を躱し、間髪入れず相手の胴に一撃を入れた。
「そこまで! 勝者、ラインハート殿下!」
会場が一瞬の静けさに包まれ、その数秒後に歓声に包まれた!
「やったわ! 兄様が勝ったわ!!」
私も立ち上がり、力の限り叫んでいた。
お母様が何か言ってるけど、もう聞こえない。
ベアントがよろよろ立ち上がる。
彼は眉間にしわを寄せ、悔しそうに唇を噛んでいた。
「くそがっ!!」
ベアントが木刀を力いっぱい床に叩きつけた。
叩きつけられた衝撃で木刀は二つに折れ、切っ先がラインハートに向かって飛んでいく!
ラインハートは背後から飛んでくる木片に気付かない!
バキッ! という鈍い音のあと、ラインハートが肩を抑え床に膝をついた。
観客席がどよめきに包まれた。
「ラインハート兄様!!」
私はいても立ってもいられず、ボックス席の仕切りまで走った。
ライフハートは右肩を押さえたまま動かない。
よりによって、利き腕だわ!
「どうしよう! 兄様の怪我は重いんだわ!!」
ベアントは係の人に取り押さえられ、退場した。
ベアントの馬鹿! マナーが悪すぎよ!!
あらゆる大会に一生出場禁止よ!
騎士団から永久に追放よ!!
「私が回復魔法をかければ、兄様を助けられるわ……!」
「なりません、レイア!」
扉を開けようとする私の手を、お母様が掴んだ。
「お母様、どうして止めるのですか!?
兄様が怪我をしているのに!」
遠目にもわかるくらい、ラインハートは苦しそうな顔をしている。
このままじゃ、次の試合に出れないよ!
決勝の相手はクロードなのだ。
万全の状態でも勝てるかどうかわからない。
利き腕を怪我してたら、勝負にすらならない。
今すぐ治療しないと!
「試合中の怪我は、医務官による治療のみが認められています。
これが大会のルールです」
「そんな……!」
「決勝まで怪我をせず勝ち残るのも強さの証。
怪我をするということは、それまでということです」
「それはあんまりです!
ラインハート兄様の怪我は試合中のものではありません!
試合が終わった後、相手の選手によるもので……いわば事故です!」
試合中に油断をして怪我をしたのなら、私だって諦めがつく。
相手の選手がしたことは、明らかなルール違反だ。
「不慮の事故による怪我を、兄様の責任にするのはおかしいです!」
「もちろん相手の選手には厳しい罰を与えます」
相手に罰を与えてもラインハートの怪我は治らないわ。
「王族としてルールは守らなくてはいけません。
そうでなくては、秩序が保たれません」
お母様の顔にいつもの穏やかさはなく、王妃としての威厳に満ちた目をしていた。
「あなたがラインハートに回復魔法をかけたら、彼はその時点で失格。
クロード殿の優勝が決まります」
利き腕を怪我してたら、勝負にすらならないよ……!
でも、回復魔法で治療したら失格になっちゃう……!
涙が溢れてきた。
ラインハートはあんなに訓練を頑張ったのに……!
せっかく決勝まで勝ち進んだのに……!
全力も出せないなんて……!
こんなのあんまりだよ……!




