25話「剣術大会開幕! 応援はお淑やかに」
――レイア視点――
はぁ〜〜男の子ってよくわからないわ。
ラインハートとクロードが噴水広場に私を残して、どこかに行ってしまった。
しばらくして帰ってきたと思ったら、二人とも険しい表情をしていた。
クロードに「明日の剣術大会に備えて訓練をしたいので、お茶会はまた今度にしましょう」と言われた。
ラインハートは「稽古に行く」と言って、私の手を取りスタスタと歩いて行く。
二人が殴り合いの喧嘩をしてるんじゃないかと、こっちはひやひやしていたって言うのに……。
ラインハートに聞いても、「今は訓練に集中したい」としか言わないし……。
庭園の案内が終わって、ラインハートが稽古に行けるのはいいんだけど、私だけ蚊帳の外だわ。
私はこの感覚を知っている。
男の子がわいわいミニカーやプラモデルや釣りの話をしてる時、女の子が入っていけない空気。
前世でもあったわ。
二年生ぐらいまで一緒に遊んでた男の子と、三年生や四年生になったら急に話が合わなくなったことが……。
ラインハートも二次的成長が始まったのね。
女の子と遊ぶより、男の子と遊ぶ方が楽しくなってしまったのね。
二人で話してる間に、「明日の剣術大会、互いにベストを尽くそうぜ!」、「お前には負けないぜ!」、昔の青春漫画のようなキラキラ展開になったのね。
それはそうだよね。
ラインハートは男の子だもん。
いつまでも妹べったりではいられないよね。
健全な成長なのかもしれないけど、心の中にぽっかりと穴が空いたみたい……。
子供が巣立ったときの親ってこんな気分なのかしら?
その日のラインハートは、いつも以上に気迫に満ちてて、訓練中に声をかけられなかった。
稽古に集中するのはいいことなんだけど、気合が入りすぎてて少し心配になるわ。
◆
そして迎えた剣術大会当日。
闘技場の真ん中には、高さ一メートル、直径二十五メートルほどの円形状の武舞台がある。
武舞台の周りは人や機材が通れる通路が二メートルほどあり、壁を隔てて階段式の観客席が設置されている。
出場選手は武舞台の上で戦い、そこから落ちたら負けとなる。
降参したり、審判が試合続行不可能と判断したり、剣が折れた場合も負けとなる。
剣が弾き飛ばされ、武舞台の下に落ちたら負け。
でも剣が武舞台の上にある間はセーフ。
審判がテンカウントする間に、剣を拾えば試合続行可能とみなされる。
怪我をしないように考慮して、試合は木刀で行われる。
年齢差が有りすぎると勝負にならないので、出場者は十一歳から十五歳までの王族と貴族。
それから騎士団に所属している少年騎士だ。
私は、国王や母とともに王族専用ボックス席で観戦することになった。
この日のために用意した応援旗や、侍女たちに持たせようと思った小さな旗や、「ラインハート兄様! 必勝!」と書いた応援幕などは、お母様に没収されてしまった。
一国の王女として恥ずかしくない振る舞いをするように、お母様に釘を刺された。
清楚な微笑みを浮かべ、しとやかに手を振るってことらしい。
王族めんどくさい。
そんなんじゃ、私の熱意がラインハートに伝わらないわ!
しかもワグナーやクロードを含め、出場選手全員を満遍なく応援するように言われてしまった。
「ワグナー! あなたの力を存分に見せつけておあげなさい! 弱者を蹴散らすのですよ!!」
第一王妃が客席から激を飛ばしている。我が子だけを応援し、他者を見下すような発言までしている。
「お母様、あれはいいのですか?」
小声で尋ねると「実の親子・兄弟なら贔屓しても問題ありません」母はそう答えた。
「あなたはラインハートと半分しか血が繋がっていません。だから皆をまんべんなく応援しなくてはいけないのです」
はぁ……やっぱ王族めんどい。
◆
そうこうしてる間に選手の入場が始まった。
満員の観客席から歓声が上がる。
一番に出てきたワグナーだ。
「ワグナー! 他の出場者を完膚なきまでにやっつけておしまいなさい!!」
第一王妃のひときわやかましい歓声が響く。
私は「ワグナー兄サマー、頑張ッテクダサイネーー」私は作り笑いを浮かべ、棒読みで声援を送った。
次にラインハートが登場した。
若い女性から黄色い歓声が上がった。
小説では、誰も彼に声援を送らなかった。
原作の彼は薄汚れていたし、礼儀作法を知らなかったから仕方ない。
今が正当な評価なのだ。
手塩にかけて育てたかいがあったわ。
皆に愛されていて嬉しいわ。
「ラインハート兄様、ファイトーー!!」
声を張り上げたら、隣の席のお母様に睨まれてしまった。
おしとやかに応援するって難しい。
ラインハートがこちらに向かって手を振った。
気づいてくれたんだ!
私も小さく手を振り返した。
次に登場したのはクロードだ。
彼が姿を見せた瞬間、大歓声が沸き起こった。
「キャァァァァーー!!!! クロード殿下ァァァァーー!!!!」
耳が痛くなるような声援があちこちから上がる。
ラインハートの時は若い女性が中心だったけど、こちらは老若問わないようね。
クロードは、にっこりと微笑みを浮かべて観衆に手を振っている。
さすがクロード、こういう場にも慣れているみたいね。
群衆の視線を一身で浴びても動じないなんて。
ラインハートは大丈夫かしら?
彼がこのような大きな大会に出るのは初めてだわ。
群衆の熱気に呑まれてないといいけど。
その時、クロードがこちらに向かって手を振った。
お母様に脇腹を小突かれ、私もあわてて手を振り返す。
「クロード殿下、頑張ってくださいね〜〜」
私が手を振っていたのに気づいたのか、クロードは嬉しそうに目を細めていた。
全員を応援するってめんどくさい。
ラインハートの応援だけに集中したいわ。
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