24話「褒美はレイア!? クロードには負けられない!」ラインハート視点
――ラインハート視点――
レイアを噴水広場に残し、俺たちは芝生迷路の前に移動した。
「ここまで来れば、レイア王女に話は聞かれることはないでしょう」
クロードは悠然とした態度で、含みのある笑みを浮かべた。
一挙手一投足が腹立つ。
「優勝の褒美にレイアを婚約者に望むというのは本気か?」
苛立ちを抑えられず、ギロリと睨みつけた。
奴は顎に手を当て、ふふっと声を出して笑った。
「そのままの意味ですよ。
僕はレイア王女に興味があるんです。
興味というより関心に近い。
彼女を見ていると不思議な気分になる。
是非、傍において観察したい」
観察だと! レイアは植物や虫と一緒にするな!
「そんな理由で妹をやれるわけがないだろ!」
人を見下すのが癖になってるような嫌味な男に、レイアはやれない!
というか、相手が神だろうが天使だろうがレイアは渡さない!
「僕にとっては大事なことなんですよ。
立場上、縁談は次々に舞い込んでくる。
話を聞けば『王太子だから』、『顔がタイプだから』、『剣術の達人で学問も極めているから』……僕の身分や外見やステータスにしか興味のない者ばかり」
奴は両肩を上げ肩をすくめた。
「そういう女性に囲まれて続けると、何を見ても心が動かなくなるんですよ」
やつは困ったように眉を下げた。
「実を言うと、神獣の加護を受けたレイア王女がどのような人物なのか気になって、こっそり見に行ったんです」
「はっ? 人の妹を勝手に覗き見るな! 変態!」
第三離宮の警備を強化した方がよさそうだ。
「怒らないでください。
最初に興味があったのは神獣の方です。
レイア王女は彼を拝むついででした」
どんな理由を並べようが、やってることは覗きだ。
「庭で神獣と戯れるレイア王女を一目見た瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けました!
それ以来、彼女の無邪気に笑う姿が脳裏に焼き付いて離れないのです!」
クロードは頬を赤らめ瞳を潤ませた。
レイアが可愛いのは認める。
俺も彼女を初めて見た時、体中に電撃が走った。
彼女から目が離せなくなった。
俺がレイアを嫁にしたいと思ったのは、彼女の人となりを知ったからだ。
薄汚れていた頃の俺に、彼女は平気で触れてくれた。
謁見の間で大人たちから守ってくれた。
マナーを知らず恥をかいた俺の為に、スープを音を立てて飲んでくれた。
教養のなかった頃の俺を、レイアは決して笑ったりしなかった。
そういう一つ一つの優しさが胸に染みた。
だから好きになった。
一生かけて彼女を守ろうと思ったんだ。
俺はレイアの魂に惚れている。
だが、クロードは違う。
こいつがレイアに興味を持ったのは、彼女が聖獣の加護を受けてるから。
レイアの外見や、表面的な無邪気さに惹かれただけ。
レイアとろくに話したこともないくせに、彼女の何が分かるって言うんだ!
「彼女のことをもっと知りたい!
傍においてじっくりと観察したい!
僕が心を決めかねている間に、彼女に悪い虫がついても困ります。
だから僕の婚約者にして、国に連れて帰りたいのです」
クロードは、顔を火照らせうっとりした表情をしていた。
「ふざけるな!
レイアを観察対象として扱うような奴に、大切な妹はやれるか!」
奴は真顔に戻り、冷たい笑みを浮かべた。
「ラインハート殿、あなたはずるい人だ。
あなたがレイア王女に向ける視線は、兄が妹に向ける視線ではない」
「……っ!」
奴は全てを見透かすように言い放った。
「それなのに誰かが彼女に近づこうとすると、『妹だ』と言って独占しようとする」
奴は俺を射抜くように見据えた。
俺の気持ちを全て見透かすような、そんな怜悧な目をしていた。
「だから何だ。
それがお前に何の関係がある」
「関係あります。
僕もレイア王女が気になっている。
彼女によこしまな感情を持つ『兄』の近くにはおいておけません」
「……っ!」
「子供同士とはいえ、間違いがあっては困りますからね。
婚約者として国に連れて帰ります」
俺はレイアの嫌がることはしない!
「勝手な事を言うな!
そんなの認めるわけないだろ!」
お前こそレイアへの下心がだだ漏れなんだよ!
国王だってそんなこと認めるもんか!
国王は俺とレイアの結婚を望んでいる!
俺たちは結婚すれば神獣の加護を独占できるからな!
だが……それは推測にすぎない。
国王から直接聞いたわけではない。
あの狸親父は信用できない。
レイアと俺を結婚させるより、クロードと結婚させた方が国の利益になると判断したら……。
気がつけば、俺は拳をぎゅっと握りしめていた。
「そんなことはさせない!
俺が優勝してお前の野望を阻止する!
褒美としてレイアとの婚約を願い出る!」
もとよりそのつもりでいた。
血の繋がりがないと知ったら、レイアはショックを受けるだろう。
もう今までのような関係ではいられない。
それでも、レイアを他の男には渡せない!
「僕に勝つつもりですか?
自慢ではありませんが、僕は祖国で敵なしでした」
クロードは冷ややかな視線を向け、泰然とした笑みを浮かべた。
剣を握ってきた時間は、奴の方が長い。
だが、俺だって半年間死ぬ思いで訓練してきた!
王子として上なのは俺だと、レイアに認めさせるために!
その努力は俺を裏切らないはずだ!
「勝負は訓練とは違う。
その油断が命取りにならないようにな」
「気合だけは人一倍あるようですね。
いいでしょう。
受けて立ちます。
勝者がレイア王女を得る。
恨みっこなしですよ」
すまない、レイア。
お前を物みたいに扱ってしまって。
だけど、こいつにだけは渡せないんだ!
俺が勝ったら、レイアの気持ちを聞く。
その上で、婚約を申し込むつもりだ。
「僕と当たるまで負けないでくださいね」
奴は悠然とした態度で、不敵な笑みを浮かべた。
「当然だ!
お前こそ俺と当たる前に負けるなよ!」




