21話「初対面ですでに険悪!? 小説でのライバルは、現世でも仲が悪いらしい」
「クロード殿、遠路はるばるよう参られた」
「お初にお目にかかります。
グリューン王国の王太子クロードです。
ハーフェン王国の国王陛下におかれましては、ますますのご健勝のことお喜び申し上げます」
「うむ、滞在中は自分の家だと思ってゆるりと寛がれると良い」
国王とクロードの挨拶が始まった。
前世の朝礼を思い出すわ。
「さっそくだが、歓迎の意味を込め明日剣術大会を開く。
そなたの勇敢さは我が国にも伝わっている。
キメラを一人で討伐されたそうだな」
「恐れ入ります。
キメラの討伐については運が良かっただけです」
「そう謙遜なさるな。
もはや、国に敵なしと聞いているぞ」
「恐縮です」
「だが、我が国にも強者はいる。
油断されぬことだな」
「己の腕に慢心しないよう、日々精進したいたしております。
この国の剣士と相見えること、僕も楽しみにしております」
「ふむ、良い心がけだ。
優勝者には褒美として、願いは何でも叶えるつもりだ。
精進するが良い」
「未熟者ではございますが、当日は全力を尽くさせていただきます」
「褒美」という言葉を聞いて、クロードがちらりとこちらを見た。
ラインハートが、彼の視線を遮るように私の前に立った。
何かこちらに気になるものでもあったのかしら?
それにしても……挨拶が長いわ。
眠くなりそう。
「そうであった。
妻と子供たちを紹介しよう。
こちらに居るのが第一王妃のゾルヴィック、そしてこっちが第三王妃のブレンダだ」
「ゾルヴィック殿下、ブレンダ殿下、お目にかかれて光栄です」
クロードは丁寧に挨拶をした。
「遠路はるばるよくぞ参られました。
クロード殿下のお噂は私の耳にも届いております。
剣術の達人だそうですね。
ですが息子のワグナーもかなりの腕前ですのよ。
油断なさらないことね」
「慢心せぬよう肝に命じます。
御子息との手合わせを楽しみにしております」
第一王妃は相変わらず親ばかだわ。
「クロード殿下、長旅でお疲れのことでしょう。
疲労回復に効果のあるお食事を用意しました。
温泉もありますので、体を休めてくださいね」
「第二王妃殿下の、お心遣いに感謝申し上げます」
長い……。
お正月の親戚の挨拶回りとかも苦手だったのよね。
「子供たちを紹介しよう。
手前から第一王子のワグナー、第二王子のラインハート、第一王女のレイアだ。
ワグナーとラインハートはクロード殿と同い年、レイヤはそなたの一つ下だ」
「第一王子の、わ、ワグナーです。
母は第一王妃……でしゅる。
クロード殿とは是非剣を交えちゃいと……思ってい……ましゅた。
あ、明日の大会で競えること、た、楽しみにしていましゅ……」
めっちゃ噛んでる。
クロードのキラキラ王子様オーラに当てられたのかしら?
もしかしてワグナーって有名人に弱いタイプ?
「僕も、あなたと戦えることを楽しみにしています」
クロードは卒なく返答した。
「第二王子のラインハートです。
第二王妃だった母は逝去しました。
明日の剣術大会、クロード殿には絶対負けませんから覚悟してください!」
ラインハートは決然とした表情でそう告げた。
ライバルにもちゃんと敬語を使えてる!
場の雰囲気に飲まれず堂々としているし、完璧だわ!
「兄様凄い!」と言って抱きつきたいのをぐっとこらえ、心の中で拍手を送った。
「期待しています。
ですが、僕も負けるつもりはありません」
クロードは穏やかな笑みをたたえてそう答えた。
強者の余裕って奴ね。
「第一王女のレイアです。
母は第三王妃です。
明日の大会には参加できませんが、観客席から応援しております」
私は王女らしく優雅に微笑み、カーテシーをした。
この日の為に特訓しただけ有り、かなり上手く出来たと思う。
高座の母に視線を向けると、「よく出来ました」という顔をしていた。
ホッ、これ以上お母様を怒らせずに済んだわ。
「あなたの応援を心の励みとし、当日は全力てま戦いに望みます」
これで挨拶も終わりよね?
長かった……!
やっと解放されるわ。
クロードは私の前から離れようとしなかった。
まだ何か用があるのかしら?
「レイア王女、あなたとはゆっくり話したいと思っていました。
不躾なお願いですが、この後庭園を案内していただけませんか?」
「……?」
クロードが手のひらを上にして手を差し出した。
当たり障りのない挨拶をしておしまいだと思っていたから、こんな風に声をかけられるのは予想外だわ。
誘われなくても、彼に庭園を案内する予定だった。
だってそうしないと、明日の剣術大会を見学できないから。
「謹んで承りますわ」
私は一礼し、クロードの手に自分の手を重ねた。
国王と母から命令されていたことなので、二人に許可を取る必要もないだろう。
「承諾いただけたこと、感謝いたします」
早く行けば、その分早く終わる。
終わったら、ラインハートのところに直行しようっと!
「では、早速ですがこのまま二人で……」
クロードは私の手に指を絡め強く握りしめた。
ぐいぐいくるなぁ……。
「三人で、だ」
ラインハートが私の肩に腕を回し抱き寄せた。
「妹は嫁入り前ですので、気安く触れないでいただきたい」
ラインハートは、クロードの腕を掴み私から引き離そうとしている。
振り返らなくても気配でわかる。
ラインハートは今めちゃくちゃ機嫌が悪い。
「妹を、初対面の男性と二人きりにすることはできません」
過保護とシスコンの両方が発揮されてるわ。
庭を案内するだけなのに。
「妹君の身を案じられているのですね。
ご安心ください。
従者も一緒ですから」
クロードが言う通り、結婚前の男女が二人きりになることなんて早々ないのよ。
「従者なんか、いくらでも追い払えるだろ……」
ラインハートが小さな声で囁いた。
「ラインハート殿にお手数おかけするわけには参りません。
明日の大会に備えて、訓練をなさったらいかがですか?」
クロードは微笑みをたたえているが、目は酷く冷たかった。
それからクロードは、私の手を手を強く握りしめて離そうとしない。
「クロード殿こそ、長旅でさぞお疲れでしょう。
離宮でゆっくりとお休みになられてはいかがですか?」
「ご心配には及びません
旅や庭園の散歩ごときで疲れるような、やわな鍛え方はしておりませんので」
私越しにラインハートとクロードがバチバチと火花を飛ばしている。
タフ自慢かしら?
男の子って変なところで意地を張るわよね。
「ですが、離宮でゆるりと過ごすという案はいいかもしれません。
レイア王女、お茶にお付き合いいただけますか?
祖国から珍しい茶葉を持参しました。
花を愛でながら、国の展望について語らいましょう」
クロードが目を細め、歯を見せ、王子様スマイルを浮かべた。
クロード推しの侍女が見たら卒倒しそうね。
私は何も感じないけど。
「妹は初対面の相手とお茶を飲んだりしません。
諦めてください」
「それはあなたではなく、レイア王女が決めることです。
レイア王女に干渉しすぎではありませんか」
二人の放つ火花が強くなった気がする。
ラインハートの手はいつの間にか私の腰に回っていて、力強く抱き寄せられている。
クロードも私の手を強く握ったままだ。
漫画で見たことあるわ。宿命のライバルが大会前にバチバチやってるやつ。
二人は小説でライバル関係にあったから、これが強制力ってやつかしら?
まだ、ヒロインに会ってもいないのに。
それとも、ただ単に相性が悪いだけ?
もしかして、互いに相手を剣の達人と認め、戦い前に牽制し合ってるとか?
どちらも譲らなかったので、国王が「ラインハートとレイア、二人でクロード殿を案内しなさい」と命令を下した。




