19話「完全無欠の光属性の王太子も、結局はおもしれー女に弱い!?」クロード視点
――クロード視点――
僕の名前はクロード。
グリューン王国の王太子だ。
自分でいうのもなんだが、武術の学問も容姿も人より優れている自覚はある。
人々は僕が何かやるたびに、大げさに褒め称えた。
誰も彼もが、王族と縁を作ろうと作り笑いを浮かべて近づいてきては、おべっかを並べていく。
正直そういう連中には飽き飽きしている。
いつの頃からか、彼等を適当にあしらう術が身に付いていた。
退屈だ。
欲深い貴族にも、愛想笑いを「天使の微笑み」と称える令嬢にも、「天才」「鬼才」と持ち上げるだけの令息にも、うんざりだ。
何をやっても人より成果を出せてしまう。
何か予想もつかない、人の手では想像もつかないようなことでも起きて、僕を楽しませてくれないだろうか?
◆
「クロード殿下、半年後にハーフェン王国へ外交のため赴くことになりました」
剣の訓練をしながら、侍従の話に耳を傾けた。
「ハーフェン王国には王子が二人、王女が一人いたよね?」
「ご指摘の通り、彼の国には第一王子のワグナー殿下と、第二王子のラインハート殿下がおります。
二人の王子はクロード殿下と同じ歳。
レイア王女は一つ年下です」
歳の近い王女がいるのか。
婚約の打診をされると面倒だな。
外交に赴く度に「家の王女を嫁に」という話をされる。
うんざりだ。
「確か第二王子のラインハート殿は国王に冷遇されていたはず。
親交を深めるのは、第一王子のワグナー殿とレイア王女だけでいいな」
おそらく、次の国王はワグナー殿。
限られた滞在時間の中で、冷遇されている王子に構うこともないだろう。
「いえ、親交を深めるならラインハート殿下になさるべきです」
「なぜだ?」
「つい先日、ラインハート殿下とレイア王女は神獣の加護を授かったそうです」
「神獣……!?
そんなものが本当にいるの?」
「はい、確かな情報にございます」
神獣など古文書の中にしか存在しないと思っていた。
まさか実在していたとはな。
「ラインハート殿下は炎の魔法を、レイア王女は癒しの力を、神獣から授かったそうにございます」
癒しの力は、伝説の聖女しか持たないと伝えられる貴重な力だ。
そのような力を、一国の王女が授かったというのか?
父上が此度の外交を決めた理由がわかった。
神獣の加護を持つ王女の心を射止めろということだろ。
結婚相手ぐらい自分で決めたい。
控えめでお淑やかに見えるのは表面だけ。
裏ではライバルを蹴落とす為に爪を研ぎ、卑劣な噂話で相手を蹴落とし、己の権力を誇示する。
猛獣や毒蛇よりも恐ろしい魔物の群れ。
……そんな令嬢との付き合いは、社交の場だけで十分だ。
プライベートの空間は、心の安らげる者と過ごしたい。
裏表のない素朴で可憐な少女と結婚したい。
だが、王太子である以上それは叶わぬ夢。
「ラインハート殿下はそれまでは冷遇されていたそうですが、精霊の加護を受けてからはレイア王女の暮らす第三離宮に移り、王族としての教育を受けているそうにございます」
「なるほど」
精霊の加護を受けた第二王子か。
「親交を深めるべきは、ワグナー殿より、ラインハート殿とレイア王女のようだな」
二人のどちらが王位を継いでも問題ないように、関係を築いておこう。
「第二王子はどれほどの強さを持っているのか。
剣術大会で手合わせが楽しみだ」
◆◆◆◆◆◆
――半年後――
ハーフェン王国は緑の豊かな平穏な国。
グリーン王国より面積は小さく国民の数も少ない。
騎士の士気も低く、文化も遅れている。
しかし侮ってはいけない。
王子と姫が神獣の加護を授かった国なのだから。
滞在中、僕たちは離宮に泊まることになった。
神獣をこの目で見ておきたい。
第二王子とレイア王女には謁見で会えるが、神獣にはお目にかかることが叶わないかもしれない。
僕は従者の目を盗み、離宮を抜け出した。
「確か、神獣は第二王子やレイア王女と共に第三離宮に住んでいたはず……」
王宮内の地図を頭の中に描き、僕は目的地を目指した。
「あれが第三離宮か」
生い茂る木の向こうに、建物の屋根が見える。
その時、茂みの奥から甲高い笑い声と犬の鳴き声がした。
もしかしたら神獣とレイア王女かもしれない。
足音を殺し忍び寄り、そっと木の影から覗いた。
芝生の引き詰められたよく手入れされた庭、そこに一人と一匹の人影が見える。
桃色のドレスを纏った十歳くらいの少女と仔犬。
少女は栗色の髪に赤い瞳をしていた。レイア王女の特徴と一致している。
あれがレイア王女なら、傍にいるのが神獣か?
神獣は白い毛で仔犬のような姿をしているという。
確か名前は……。
「ルーディー、飛びついては駄目よ。
ドレスが汚れてしまうわ」
「レイア、我はもっと遊びたいぞ!」
そう、ルーディー!
人語を話す獣! 間違いないあれが神獣だ!
古文書とだいぶ違うな。
聡明な瞳と美しい毛並みを持つ、狼のような姿を想像していたのだが……。
王女とじゃれる姿は、そのへんの犬となんら変わらない。
もしかしたら人の心を試すために、あのような姿をしているのかもしれない。
……神獣より、傍にいる少女に目がいってしまう。
レイア王女は、お淑やかだと聞いていたが……。
王女は栗色の髪をたなびかせ庭を走り回り、時には神獣と共に芝生の上を転げ回っていた。
とても、つつしみ深いようには見えない。
だが、そんなことはどうでも良くなるくらい、彼女の笑顔は眩しかった。
ルビーのように赤く美しい瞳、無邪気に笑うあどけない顔、元気いっぱいに走り回る姿、彼女から目が離せない……!
王族にもあのような無垢な少女がいたんだな。
その時、強い風が吹き彼女のスカートがふわりと揺れた!
僕はとっさに目を逸らした。
茂みの中から女性のスカートの中を覗くなんて……! 僕のやってることは変質者と同じじゃないか!!
レイア王女のことがますます頭から離れなくなってしまった!
彼女と言葉を交わし、お茶を飲み、ダンスを踊りたい!
なぜだろう、彼女を見ていると心臓の鼓動が早くなる。
護衛とはぐれキメラ三体と遭遇した時ですら、冷静さを失わなかったのに!
顔に熱が集まってくる……!
息が上手く吸えず、胸が苦しい……!
僕はどうしてしまったんだ!?
※補足
ルーディーが仔犬な理由。
一年経過してもルーディーが仔犬の姿なのは、普通の犬とは成長速度が違うからです。
クロード視点では説明できませんでした。




