17話「永遠のライバルは完璧超人!? ラインハートの闘志に火をつけろ!」
医務室。
私はラインハートにお姫様抱っこされて、医務室まで運ばれた。
まさかあいつに会うなんて……。
「あ、お前ら……!」
「げっ……ワグナー兄様!」
なんと医務室にはワグナーがいた。
彼は治療用の椅子に腰掛けていた。
「お前ら何でこんなところにいるんだよ」
ワグナーが不機嫌そうな顔でこちらを見る。
「剣術の訓練中に怪我をしたので、ラインハート兄様まで運んでもらったんです」
「それでお姫様抱っこかよ!
自分の足で歩けないなんて情けない奴!」
ワグナーは嘲るように笑みを浮かべた。
半年経っても彼の性格は変わっていないようね。
「ワグナー兄様こそどうしてこちらに?」
こんなところで会うなんて最低だわ。
「オレも剣術の訓練中に怪我したんだよ」
ワグナーはいつものド派手で悪趣味なジュストコールではなく、剣術訓練用の服をまとっていた。
彼の左手と膝には包帯が巻かれていた。
「ワグナー兄様は謹慎中じゃなかったんですか?」
「父上の許可は頂いている!
半年後に剣術大会が開かれるので、特例で訓練を認められた!」
国王ったら甘いわ。こんなやつ一生謹慎させておけばいいのに。
「ワグナー兄様も剣術大会に出るおつもりですか?」
「当然だ!
第一王子であるオレが出ないで、誰が出場するというんだ!」
原作のワグナーは、一回戦で惨敗している。
国の恥になるだけだから、辞退してほしい。
「優勝したら父上に願いを叶えてもらうんだ!」
「願い?」
「知らないのか?
優勝者は父上に願いを叶えてもらえるんだぞ!
俺が優勝した暁には、お前たちを子分にやるからな! 覚悟しておけよ!」
ワーグナーは腰に手を当てて高笑いをした。
彼が優勝? あり得ないわ。
彼には靴の紐を結んで転ぶ呪いがかけられている。
膝の怪我も、おそらく靴の紐を踏んで転んだのだろう。
そんな彼が勝てるわけがない。
彼が優勝したら、逆立ちして、足で皿回しをして、口でピロピロ笛を拭きながら、城を一周してもいいわ。
「その前に怪我の治療だ!
レイア、神獣から癒しの力を授かったんだよな?
オレ様のために使わせてやる!
ありがたく思え!」
どこから目線なのよ、この男は。
こんなやつのために貴重な魔法使いたくないわ。
「あいにくですが……」
「断る!
レイアの魔法は、お前のようなゲスを癒すためにあるわけじゃない!」
私より先に、ラインハートが断っていた。
彼がワグナーに向ける目は氷のように冷たい。
「治療が済んだんなら失せろ!」
「くっ……!
覚えてるよ!
絶対に優勝して、お前らを子分にしてやるからな!」
ワグナーは捨て台詞を残して部屋を出て行った。
私が王女じゃなかったら、あっかんべーをしてるところだわ。
「ラインハート兄様ありがとうございました。
私の代わりに怒ってくれて」
「当然だ。
俺は何があってもお前を守るって決めてる」
ラインハートは精悍な表情でそう告げた。
頼もしいわ。
兄はラインハートだけでいいわ。
◆
ワーグナーと入れ違いに、先生が医務室に戻ってきた。
私たちが来た時は、所用で席を外していたらしい。
「王女殿下、治療が終わりました」
「ありがとうございます」
今日の医務室の担当医師は女性だった。
男の医者だったらラインハートが嫉妬して、めんどくさいことになっていたかもしれないので、女医さんで助かったわ。
「王女殿下、剣術に精を出されるのは、剣術大会に出場するためですか?
大会に出場すればクロード殿下の勇姿を間近で見れますものね!」
原作のレイアは剣術を学んでいない。当然剣術大会も見学だった。
「えっと……」
「分かりますわ!
職業を問わず城中の女性がクロード殿下の来訪を、今か今かと心待ちにしておりますもの!」
女医さんは頬を染め、キラキラしたオーラを発しながら、熱く語った。
えっ、そうなの?
クロードが人気なのは知ってたけど、半年前からそわそわするほど?
「クロード殿下の来訪に備え、城中の女性がメイクや髪型の研究をし、新しい服を注文したんですよ!
お陰で、メイクを担当する美容部の子たちも、化粧品を作るお店も、お針子も、美容師も、寝る暇もないほど忙しいって悲鳴を上げてましたわ!」
さすが小説のメインヒーロー。
まだ子供なのに、ここまで女性を熱狂させるなんて凄いわ。
「クロード殿下は金糸のようなサラサラの髪、サファイアブルーの瞳、白磁のようにきめ細かな肌をしている天使のような顔立ちの絶世の美少年!
彼が微笑めば百人の女性が失神するそうですわ!」
メインヒーローのほほえみの威力半端ないわね。
「その上、語学堪能で、学者よりも賢く、ダンスの腕前は大陸で一番!
剣の腕前は、十一歳にしてすでに騎士団長を超えているそうですわ!
聞いた話ではキメラ三体をお一人で倒したとか!
まさに理想の王子様ですわ!」
噂に尾ひれついている気もするけど。
「そのような方と結婚できたら幸せですよね!
クロード殿下には、まだ婚約者がいないそうです!
王女殿下、彼の心を射止めるチャンスですよ!」
「はっ……?」
私がクロードの心を射止める……?
ないないないない!
メインヒーロー様はモブ王女なんて相手にしないわ。
「王女殿下がクロード殿下が婚約すれば、クロード殿下がこの国に来訪する頻度が増えますわ!」
女医さんはクロードを拝みたいだけなのね。
その為に私を利用しないでほしいわ。
「お二人が結婚すれば、ハーフェン王国と、グリューン王国の絆はより強固になり、大陸の平和は約束されたも同然ですわ!」
国同士が仲良くするのはいいことよね。
クロードはヒロインのニーナに出会うまで、誰にも心を開かない。
彼は誰にでも優しいが、それは表面的なもの。
彼が本心を明かせるのは、聖女ニーナのみ。
私の出番なんてないわ。
「王女殿下、クロード殿下の来訪に備えてドレスは注文されましたか?」
「いいえ」
「なんてこと!
今からでも新しいドレスを作るべきです!
それから、髪型やメイクの研究もするべきです!
今のままでも十分おきれいですが、さらに美しさに磨きをかければ、クロード殿下の心を鷲掴みにできるはずです!!」
そんな熱い目で語られても……。
そう言えば、普段使いの服は自分好みのものを揃えたけど、礼服は作ってなかったわね。
原作のレイアの服は地味なのよね。
成長期だし、新しいのを作ってもらおうかしら?
寸足らずの服で賓客を出迎えては失礼よね。
「そうね、一着作らせようかしら……?」
「レイアは、そのクロードとかいう王太子に興味があるのか!?
ドレスを作らせるほどなのか!?」
ラインハートに肩を掴まれた。
治療の間、私の後ろに控えていたのだ。
彼は、苛立ちと焦りの混じった表情で私を見つめている。
ラインハートは何に怒ってるのかしら?
「ラインハート殿下、大切な妹君が他の殿方に心を寄せることに、嫉妬する気持ちは分かります。
ですが、相手は完璧超人のクロード殿下です。
興味を持つなというのは酷ですわ」
私はクロードに興味ないけど。
「王子なら俺が傍にいるだろう!
俺よりそいつの方が、王子として上だって言うのか!?」
ラインハートは険しい表情で私を見つめた。
彼はクロードをライバル視しているようだ。
ラインハートは、若い侍女や文官にキャーキャー言われていた。
その彼女たちが、裏ではクロードのために美しくなる努力をしていたと知って、ショックを受けたのかも?
もしかしてラインハートの中で、「大陸で一番かっこいい王子様ランキング」、一位は自分だったのかもしれない。
その順位が揺らいで焦っているのね?
それでクロードに嫉妬しているのね?
「ラインハート兄様が一番ですわ」と伝え、この場を収めることもできるわ。
でもそれでいいのかしら?
相手は剣の達人!
現状に満足していたら勝てないわ!
「残念ですが、ラインハート兄様。
現状、兄様がクロード殿下に勝てるところはひとつもありませんわ」
私は、ラインハートの手を振り払い冷たい口調で伝えた。
ラインハートが眉根を寄せ、口を引き結び、ギリッと奥歯を噛んだ。
ラインハートに嘘つくのは辛い!
私の中ではラインハートがぶっちぎりで一番だもの!
これも彼を大会で優勝させるためよ!
心を鬼にするのよレイア!
クロードに一度でも勝てば、ラインハートの心にゆとりが生まれるわ。
ヒロインに強引に迫って、嫌われる(クロードに斬られる)という最悪の展開は避けられるはずよ。
「ですが、それはあくまでも現段階でのこと。
ラインハート兄様が剣術大会で優勝すれば、周囲の見方も変わりますわ。
私も、兄様がクロード殿下より上だと認めてあげますわ」
自分で言っておいてなんだけど、どこから目線なのよ!
ちらりとラインハートの横顔を見る。
ラインハートの顔から悲しみの色が消え、目に強い意志と光が宿る。
殺気すら感じるのは気のせいかしら?
「わかった。
俺がクロードに勝てば、お前の一番は俺になるんだな」
「はい、もちろんです」
私は頬を緩め、にっこりと微笑んだ。
「絶対にあいつに勝つ!」
ラインハートが燃えているわ!
これで彼は、今まで以上に稽古に励むはず!
クロードとの経験の差は、持ち前のセンスと気力と根性でカバーよ!
彼が訓練中に怪我したら私とルーディーで治療するわ!
そうすれば、効率よく訓練ができるわ。
回復魔法でサポートするのはずるい気もするけど、クロードは五歳から剣を握ってるんだもの、このくらいは許してほしいわ。
剣術大会が楽しみだわ!
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