16話「剣術の稽古に打ち込むラインハートは凛々しくも美しい!」
剣術を習い始めて数日が経過した。
私もラインハートと共に剣術を習っている。
お姫様である私が剣術を習う理由は一つ。
ワグナーみたいな男に絡まれたとき、ぎゃふんと言わせるためだ!
ワグナーは今は大人しくしている。だけど謹慎が解けたら絶対意地悪してくるはず。
そのときに、暴力に屈しない為に強くなると決めたのだ!
「ラインハート殿下、なかなか筋がいいですぞ!」
「ありがとうございます!」
ラインハートはめきめき上達し、先生から褒められることも増えた。
すでに真剣を使うことも許されている。
「ラインハート兄様、すご~い」
「レイア王女、よそ見はいけませんな。
素振りあと五十回追加です」
「はい……」
私はまだ木刀での素振りの段階だ。
こんなところに運動神経の差が……!
レイアの体は、思っていた何倍も貧弱だった。
重いものは持てないし、走るのも遅いし、反射神経もよくない。
お姫様だから、フォークとナイスより重いものを持ったことがないのだろう。
社交ダンスができる体力があれば、それ以上は必要ないのかもしない。
だけど、それだけじゃ自分の身を守れないわ!
「ラインハート殿下、打ち込み稽古を続けますよ」
「はい! お願いします!」
ラインハートは精悍な顔つきで、剣を構えた。
彼の横顔は、幼さを残しながらも気品と雄々しいさがあって……平たくいえばめっちゃかっこいい!!
ああ……!
ヒロインはどこなの……!
ラインハートの勇姿を先生と私しか見てないなんて、もったいないわ!
「レイア王女、手が止まってますよ!」
「……すみません!」
先生はラインハートの打ち込みに付き合っているはずなのに、こちらを見る余裕まであるらしい。
◆
「はぁ……、とや〜〜、そりゃあ……、ほいや……」
もう、無理……。
体力の限界……。
素振りってあと何回あるの……?
「レイア王女、だいぶお疲れのようですね。
今日の訓練はここまでにしましょう」
「本当ですか!?
……いえ、まだやれます!」
ラインハートはまだ訓練してるのに、私だけ休めないわ!
ワグナーのムカつく笑い顔を思い浮かべ、それを斬るイメージすれば、まだまだやれるわ!
「無理はいけません。
怪我をしますぞ」
「大丈夫です!
ひゃぁっ……!」
私はバランスを崩して転んでしまった。
「いたたた……」
思いっきり、鼻の頭と手のひらと膝を地面にぶつけてしまった。
「レイア!」
ラインハートは手にしていた剣を放り投げ、私に駆け寄ってきた。
「怪我してないか?」
ラインハートが私を抱き起こし、眉を下げ心配そうに私を見つめている。
「大変だ!
血が出ている!
医者を!
主治医を呼べ!!」
「手と膝を擦りむいただけですから!」
転んだだけで主治医を呼んでいたら、わがまま王女と噂されてしまうわ。
「一国の王女が怪我したんだ!
主治医を呼んで治療させるのは当然だろ!」
私をじっと見つめる彼の目は真剣だった。
心配してくれるのは嬉しいけど、過保護すぎるわ。
「とにかく主治医は呼ばないでください」
治療魔法は自分には使えない。
貴重な魔法だから、他に使える人もいない。
ヒロインは聖女だから回復魔法を使えるけど、彼女には学園に入学するまで会えない。
「医務室に行って、手当てしてもらいます。
ラインハート兄様は訓練を続けてくださ……い!?
って、えっ??」
ラインハートは私の肩と背に腕を回し、そのまま持ち上げた。
「に、兄様……!?」
「俺が医務室まで運ぶ!」
「介助なら、先生に頼みます」
先生は大人で体力もある。
先生に頼んだ方が、早く医務室に辿り着ける。
「絶対に駄目だ!
俺以外の男にレイアを触れさせない!」
ラインハートは眉間に皺を寄せ、厳しい表情でそう叫んだ。
シスコンに育ち過ぎじゃないかな?
「先生、レイアが怪我したので今日の訓練は早退します!」
「うむ、わかった。
レイア王女の怪我はオレの注意不足でもある。
しっかり、手当てしてもらんだぞ」
そんなわけで、私はラインハートにお姫様抱っこされ、医務室に運ばれることになった。
◆
ラインハートの足取りはしっかりしていた。
ほとんど同じ体格の私を抱っこしてるのに、足元がおぼつくこともない。
ラインハートは、私が思うより、ずっと逞しく成長しているみたい。
強く育ってくれて、お姉さんは嬉しいわ!
すれ違う使用人や騎士がこちらをジロジロと見てくる。
「可愛い」と微笑ましく、見ているもの。
「兄妹とはいえ距離が近すぎないか」と囁くものと反応は様々だ。
好奇の視線にさらされ、医務室が遠く感じる。
「そうだわ!
ルーディーにも治療の力がありました。
彼に舐めて貰えば一発で治りますね」
怪我した直後の混乱で、ルーディーの存在が抜け落ちていた。
「ラインハート兄様、そのへんに下ろしてください。
使用人を捕まえて、ルーディーを呼んできてもらいますわ」
そうすればラインハートにお姫様抱っこしてもらう必要はない。
「ラインハート兄様は、訓練に戻ってください」
クロードとの試合は半年後、ラインハートにはこんなことで時間を無駄にしてほしくないのだ。
「お前、それ本気で言ってるのか?」
ラインハートが、眉を潜める。
「怪我した妹を放置して、訓練に戻れるわけないだろ!」
どうやら、ラインハートを本気で怒らせてしまったようだ。
「声をかけたのが、動けないお前に良からぬことをしようとする奴だったらどうするんだ!?
城の中でも、身分が王女様でも、安全とは限らないんだぞ!」
ラインハートの表情は真剣だった。
この城の騎士にロリコンが混じっているのは、事実よね。
「それに、ルーディーは朝から散歩だと行って出かけた。
夜まで帰ってこない」
そうなのね。
なら、医務室で治療をしてもらったあと、夜ルーディーに治して貰おう。
「ラインハート兄様、ごめんなさい。
このまま医務室まで運んでください」
上目遣いで見つめると、ラインハートの頬が赤く染まった。
「最初からそのつもりだ!
大人しくしていろ!」
「はい」
私はラインハートの首に、自身の腕をしっかりと絡めた。
「大人しくしてろとはいったけど……近すぎるだろ……!」
「兄様、何か言いました?」
「なにも言ってない……!」
ラインハートの顔は真っ赤だった。
やはり、同年代の女の子をお姫様抱っこするのは辛いのね。
訓練中に怪我しないように気をつけるわ。




